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あぽやん

新野剛志 2008年

・あらすじ

遠藤慶太は29歳、大航ツーリスト本社から成田空港所に「飛ばされて」きた。返り咲きを誓う遠藤だったがーパスポートの不所持、予約消滅といった旅客のトラブル解決に奮闘するうちに空港勤務のエキスパート「あぽやん」へと成長してゆく。個性豊かな同僚たちと仕事への情熱を爽やかに描いた空港物語。
解説・北上次郎

『あぽやん』あらすじより引用

・感想

小1ぐらいの時にドラマで放送していて、リアルタイムで見ていました。しかし、話の内容などはだいぶ忘れてしまっていました。もうこれも10年ぐらい前の話。「あぽやんが10年も前のドラマになってしまうのか」と恐ろしく感じています。この間、図書館に行ったときに久々にこの本を見つけて、「あぽやんって小説だったんだ」と思い借りてきました。

あまりにも久しぶりすぎて、懐かしいと思う反面、ドラマとだいぶ違うような気もして、「あれ、こんなんだったっけ?」となるところも多かったです。全般的に面白く、全部話したいところですが、ここでは特に面白かったと感じた章の感想を書きます。

・1章「笑って笑って」
成田に赴任してきた一番最初のところを綴っておりました。それまで本社勤務だったので、慣れないことばかりで苦労しているようでした。部長の「今泉」のザ・あぽやんといった感じの風格に、自分はこうはなりたくないと思っている様子が描かれていました。

この時に初めて知ったのですが、あぽやんとは空港内の業務用語から来ているものだといいます。かつて、デジタル化される前、空港内では専用の機械を導入していたそうです。その時の名残で現在も、TKT(チケット)HTL(ホテル)という用語が使われています。その中で空港スタッフのことを「APO」と呼んでいたことから、「あぽやん」という名が付いたといいます。

・3章「オンタイム」
子ども連れのお客様が現れます。しかし、小学生の弟の方がパスポートを家においてきました。これでは飛行機に乗れないので、親戚が迎えに来るまで、旅行会社の人たちで面倒を見ることに。

遠藤は、スタッフの一人「田波」と子どもの面倒をみます。子どもが親嫌いなため、感情的になり「お父さんたちが乗った飛行機、落ちちゃえばいいんだ」というと、田波が「冗談でも、そんなこというな」と怒鳴りつけるという場面がありました。よく子どもにありがちな発言で、軽はずみで悪気はなかったと思います。しかし、それで何百人の人命が失われる航空機事故、空港スタッフとしては、許しがたい発言だったのではないかと感じました。実際に怒鳴ったスタッフも似たような境遇で家族を失ったことがあるようですし。

・6章「不完全旅行」
予約したはずなのに、何故かされていないということにスタッフが気づきました。このままだと、お客様が出発できず、新婚旅行が台無しに!?

空港スタッフの存在意義について遠藤が考え直し、その答えを見つけたっかもしれない感じが読み取れました。それは、空港はお客様からしてみると、あくまで通過点、もしくは出発点に過ぎないということ。だから、その出発のお手伝いをし、見送ることが空港スタッフの役目だということが描かれていました。

空港という場所だけあって、様々な人との出会いと別れが多かったように感じます。それは、カウンターだけでなく、職員の人事異動や退職など、この作品では6章の間に、何人ものスタッフが退職したり人事異動したりしているようでした。それは職場は一つの通過点に過ぎないもので、例えれば空港のような場所だと感じました(あくまで個人の意見です)。

これまで、ただ飛行機を乗り降りする場だとしか思っていなかった空港、実際には人の出会いと別れの場を具象化した場所なのだと感じました。

続編もあるといいます。今回、ドラマよりも話の数が少なくちょっと物足りなかったような気がするので、もしかしたら、続編に続いていくのかもしれません。続編も見つけ次第、読んでいきたいと思います。

・書籍情報

初版刊行日:2010年10月10日
刊行元:文藝春秋
定価:667円+税
備考
単行本:2008年4月、文藝春秋刊。
(※現在絶版となっております)


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