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20年間、京都で愛されたカフェのロゴについてのお話

はじめまして。東京にあるワンファイブ(a.k.a 一五)という名のデザインスタジオでグラフィックデザインを勤しんでいる近藤と申します。

独立・起業して5年。ようやく過去のプロジェクトを紹介するサイトを先日ローンチすることが出来ました(https://1-5.co.jp/)。ここではそのサイトにアップしている様々なプロジェクトにまつわるお話を中心にデザインに関する話題やおすすめの書籍や作品集、展覧会、映像作品などをご紹介できればと思います。なにとぞよろしくお願いします。

記念すべき第一回目の投稿は弊社サイトの一番底、エヴァで言う「リリス」的な存在(笑)。つまり私のデザイナーとしての礎として存在する「efish」のロゴデザインに関してのお話(https://1-5.co.jp/efish)。

京都・五條楽園、鴨川沿いに佇むカフェ「efish」。そのカフェは去る2019年10月16日、20周年を迎えたその日に惜しまれつつ閉店を迎えました。
(カフェにまつわるお話は先日アップされたDOJIの宮野さんと西堀さんとの対談で詳しく書かれていますのでご参照ください。 https://www.potel.jp/kyoto/cityguide/feature/dojixefish/)

ロゴをデザインしたのは当然20年前にさかのぼります。

大学入学から大学院を修了、その後フリーランスのデザイナーとして合わせて10年間を京都で過ごし、30歳を迎えた1999年に満を持して上京することを決意しました。そんな年の初夏、オーナーの西堀晋さんからカフェの構想をお聞きし、そのロゴやショップカードといったグラフィック周りのデザインのご依頼をいただきました。もちろん二つ返事で引き受けたのですが、その際、京都で10年間お世話になった方々への感謝の意味も込め、時代に流されることなく京都の地で長く愛され続ける普遍的なデザインをすることを念頭に置きました。

当時も今とあまり変わりなくカフェとして営業するお店は、手書き風を代表とする柔らかくやさしい印象を持つロゴが多かったように思います。しかし西堀さんが運営するカフェにはその方向性が良いのかかなり悩みました。が、その答えは西堀さんが松下電器(現・パナソニック)在職中にデザインされ、当時とても話題になったCDラジカセ「P-case」にありました。「P-case」のデザインは、ディーター・ラムスがBRAUN製品のデザインに求めた「Less, but better(より少なく、しかしより良く)」の思想に通じていることは疑いようがなく、efishのロゴに関してもシンプルであり機能的、つまり視認性が高く、誰もが理解できるデザインが今回のロゴには必要であるだろうと。

ただ最初に相談を受けた際にはまだ名称が決まってなく、後日「efish」に決まったとの連絡を受け「〜ッシュ」という音から考えると「BOSCH」っぽい感じかしら?そうなるとロゴのベースとなる書体は「ヘルベチカ」ではなく「アクチデンツ・グロテスク」かな?でも大文字で「EFISH」と組むと見た目が直線的過ぎ「五條楽園に漂う五匹の金魚たち」という名に秘める艶めかしいイメージには程遠いなぁ…ここは字面的に丸みが多い小文字で「efish」と組んだ方が良いのでは…とグルグル頭を巡らせ、マウスを廻らせ…

efish-sketch_アートボード 1

[図版説明]上が「ヘルベチカ」下が「アクチデンツ・グロテスク」で組んでみた例。どちらも大文字で組むと縦横の線の印象が強いのがよく分かる。もし大文字で組みたいという要望が出れば「S」を処理してロゴとして完成させたでしょう。小文字においては「ヘルベチカ」の「e」と「s」のフィニアル(文字の切れ端部分)が水平になっているのに対し「アクチデンツ・グロテスク」のそれは斜めにカットされているのに注目。この処理により「ヘルベチカ」には無い「動き」と「柔らかさ」が感じられるため、今回のロゴのベースとして「アクチデンツ・グロテスク」を採用した。



金魚マークに関しては「イクトゥス」という初期キリスト教で使用されていた魚の形を描いたシンボルや、西堀さんからイメージソースして提供された資料を元に、金魚らしく尾びれを大きくしたりフォルムを太らせるなど細かな調整を重ね、またロゴとの組み合わせにより「i」の点を金魚マークの「目」にするために下へ落とすといった工夫も入れつつ完成にいたりました。今から見ると金魚マークの形状は、レオ・リオーニの絵本に登場する「スイミー」も意識下にあったりしますね。

logo_efish_アートボード 1

看板やショップカードといったアプリケーションへの展開は、当時西堀さんご夫妻が飼っていた、とてもやんちゃな黒猫「ロデムくん」をモチーフに「…え、フィッシュ?、それって食べれるの?」と食いしん坊だった彼のつぶやきをイメージし絵に起こしました。

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このような経緯でデザインさせていただいたロゴはそれから20年間、変わることなくお店で使っていただきました(ショップカードのデザインも時間表記以外は全く変わらず!)。当時、ほとんどデザイナーとしての実績のない私にこのような機会を与えていただいた西堀さんとつかささんには本当に感謝しております。ありがとうございました。今後も皆様に末永く愛されるデザインをしていきたいと思います。

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Photograph: Maki Arimoto

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