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「企業ドメイン」から自身のキャリア的安全地帯を考える(前編)

自分にはなぜ給料を支払われているのか、説明出来る人はどれだけいるだろうか。

ましては、10年後に自分は誰にどんな価値を提供することでお金を稼ごうとしているか、説明出来る人が果たしているのだろうか。


私はこの記事を書く前にはなぜ給料が支払われているのか、自分に問うたことすらなかった。

ただ、改めてこれらの問いに向き合った時に、現状のままでは危ないかもしれないという危機感を感じざるを得なかった。


今回は、上記問いの「自分」を「企業」に置き換えた場合の概念である「企業ドメイン」について理解を深めることを通じて、最終的にその考えを「自分」に置き換えて考えてみたい。

企業ドメインの策定に関わる戦略担当者は勿論、キャリアプランをどのように考えたら良いか悩んでいるビジネスパーソンにとってもヒントになればと思う。


本記事は以下の書籍をもとに、個人的見解も加えて執筆している。


1.企業ドメインとは何か

1-1.企業ドメインとは

企業ドメインとは、組織が活動する特定の環境のことである。

近しい概念として、生物学の「生態学的安全地帯」が挙げられる。
「生態学的安全地帯」とは、生物種が他の種に干渉されずに十分な餌にありつける/生活出来る地帯のことである。
パンダにとってのそれは、中国南部地方であるし、カンガルーにとってはオーストラリアである。
また、その環境で餌をとりやすいようにクチバシを変形させる鳥のように専門化を志向していった生き物もいる一方で、イノシシのようにどんなものも食べることで一般化に向かう生き物もいる。

これを企業に置き換えたものが、企業ドメインであり、つまりそれは競合の干渉を最小限にし、お金を稼げる領域ということになる。

定義はシンプルのように思われるが、実際に企業、あるいは自分にとっての良いドメインを探そうと思うと、環境を区切る軸の設定が非常に難しいのである。

パンダにとってそれは、餌である笹の量、天敵である狼の遭遇確率かもしれないし、もっと別のなにかかもしらない。(そもそもパンダについてそんなに詳しくないので分からない)

参考図書では、ドメイン設定の軸には物理的なものと機能的なものがあると述べている。
例えば、セブンイレブンで言うと、その物理的なドメインはおにぎり等の食料品や日用品を仕入れて売ることであるが、その機能的な定義は「近くて便利」である。
(実際にセブンイレブンの事業ドメインは「近くて便利」である)

なんだか、機能的な定義の方が拡張性がありで良さそうであるが、必ずしもそうではない。
例えば、老舗和菓子メーカーの包装のため、丈夫で高級感のある箱を伝統的手法で作っている箱メーカーがあったとする。

この場合、老舗和菓子の需要は時が経つほどその伝統の希少性が増すことが想定されるため一定の需要の底堅さがあるし、箱メーカーが変わらず老舗和菓子店にハマるものを作り続けることで安定的に事業継続はできそうである。
加えて、企業として、大きな成長を望んでいないのであれば、企業ドメインを老舗和菓子の包装箱製造と物理的に定義することに全く違和感はない。

つまり、置かれた事業環境や自社の強み、自社の希望する方向性次第、ということである。

1-2.良いドメインとは

ドメインの奥深さをより考察していくため、良いドメイン、悪いドメインの事例を比較してみたいと思う。


事例①:NECのC&C

まずは、良いドメインとして参考図書で紹介されているNECのComputers & Communication(以下C&C)を取り上げる。

このドメインの良さは将来の社会像を捉える際の先見性に富んでいることに加え、NECの独自性も盛り込まれている点である。


このドメインが初めて社外発表されたのは1977年であるが、このドメインの良さをそれまでのNECの経営課題から見ていきたい。

C&C以前のNECのドメイン(のように使われてた表現を)見ていくと、どのような経営課題を抱えていたのかがうかがえる。


・ベタープロダクト、ベターサービス
(元NECの親会社である米国企業のスローガン)
・5C
(Communication, Computers, Contorollers, Components, Consumer products)


ベタープロダクト、ベターサービスを掲げていた時期は、親会社である米国企業の技術をしっかりと受け継ぎ、日本の通信インフラを高度化させるということに集中していたのだろう。

その後、親会社から独立し自らの道を歩もうと、多様な製品展開を志向していた姿勢が5Cからうかがえる。

とは言え、高度経済成長の中、モノ自体の価値が今よりも高い時代ではあったが、競争も激化する中で、むやみに事業を拡大していては中長期的な成長は描けないという危機感があったのではないか。
(実際にConsumer productsは弱体であったため、これを含まずに4Cと表現されることもあったらしい)

そんな中、C&C考案に中心的な役割を果たした小林宏治氏は今後の社会像を以下のように見立てていた。

・デジタルを基盤としてコンピュータは中央処理型から分散処理型にシフトする。加えてコンピュータは単機能から多機能にシフトする
・通信機器がアナログからデジタル方式にシフトすることでコンピュータと同質的になる
→これらの潮流を組み合わせると、分散処理型のコンピュータを通信でつなぎ、多機能を実現する世界が訪れるはずである

今であれば、当たり前の内容であったとしても、これはパーソナルコンピュータが普及する90年代からは20年ほど前に考えられていたことである。

このような社会が来る中で、通信技術に関しては米親会社から受け継いだ技術をベースに世界水準のものを磨き上げてきたことを考慮すると、NECが当該領域で中心的な役割を担える可能性があると考えるのは自然の流れであろう。

そのような考えのもと、5Cという表現にうかがえるように、周辺の伸びそう/伸びていることに手を伸ばし、それらをまとめるようなただの「大きな風呂敷」ではなく、NECに大きく影響する社会の潮流、自社の強みを考慮した上での勝ち筋を定義するものとしてC&Cをドメインと設定したのだ。

結果として、NECはC&C領域に先行的に攻め入ることで当該領域のリーディングカンパニーと認識されるようになった。


事例②:ゼロックス「未来のオフィス」

次に、悪い事例(と参考図書で紹介されている)ゼロックスの「未来のオフィス」というドメインについて考察する。

ゼロックスは、1970年代半ばまで複合機メーカーとして市場をリードしほぼ独占的地位を築いていたが、次第に競争も激化しシェアが急減していた。

そこでゼロックスは自らのドメインを「複合機の製造」という物理的定義で捉えるのではなく、ホワイトカラーの生産性向上に貢献することと機能的に定義し、それを「未来のオフィス」と表現したのである。

この構想は今でいうOA(Office Automation)であり、当時この概念をまとまった形で示していた企業は多くなく、この点ではNECと同様に将来の社会像を捉える先見性に富んだドメインだったと言える。

このドメインのもと、ゼロックスは研究所の開設や複数の買収を実行し、オフィスシステムに係る機器・システムを全般的に提供することを目指した。

しかし、結果としてゼロックスは、複合機に関連した領域に集中するべく「ドキュメント・カンパニー」へとドメインを変更している。

理由はIBMという強敵が存在する領域で競争を想定通りに進めなかったという、外的環境要因もあれば、買収後の統合が上手く行かなかった、研究所のマネジメントがうまくいかなかった等の内的要因まで複数の要因が考察されている。
個人的には、IBMという強敵がいるドメインにも関わらず、ゼロックスの勝ち筋がその独自性をもって定義しきれていなかったことが要因だったのではないかと考える。

NECのC&Cとゼロックスの未来のオフィスを比較してみたところ、良いドメインの要件として、以下のことが言えるのではないかと考える。

1.前提とする将来の社会像が先進的であること
2.将来の社会像に対する、自社の勝ち筋が織り込まれていること

1に関しては、NECもゼロックスも、部分的には囁かれていたとしても、それらをまとまったコンセプトとして捉え発信したという点で先進的な前提を置いていたと言える。

差が生じたのは2の観点であり、NECは米親会社から輸入し発展させた通信技術を活用する勝ち筋をそのドメインに織り込んだのに対して、ゼロックスは「複合機メーカーからの脱却」の想いが強ぎたためかゼロックスの独自性が弱く、結果として拡張領域の強敵IBMとの競争を有利に進められなかったのではないか。


以上、定義、及び良い例・悪い例を比較することで、企業ドメインについての理解を深めた。

次回は、企業ドメイン設定のアプローチを整理し、自身のキャリアプラン策定への活用を試みる。
そうすることで、ドメインというコンセプトを自身の人生を豊かなものにする武器とすることに挑戦したいと思う。

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