いおり奥様のストーリー④

　休日出勤当日。
「思ったより早く終わりましたね」
　部下の言う通り、仕事は午前中に終わった。
　工具の後片付けと、客先の挨拶を終え、俺たちは会社に戻った。
「あの、僕の失敗のせいで仕事が長引いてしまい、すみません」
　昨日、怒鳴った部下が謝りに来た。
「かっとなった俺も悪いから。次から気を付けろよ」
「はい！」
　仕事の覚えは悪いが、まだ経験年数が浅いせいかもしれない。
　パワハラだ！と部長に訴えられずに済んでよかった、と俺はほっとする。
「実は、田中さんに報告することがありまして……」
「なんだ？」
　まだ話があるのか。話題の振り方からして、仕事の話ではなさそうだが。
「僕、付き合っている彼女と結婚することになりました」
「結婚！？　おめでとう！！」
　俺は部下の報告に驚いた。地味で女の影なんてなさそうな奴だったのに、彼女がいたのかという驚きと、こいつが所帯持ちになるという二つの意味で驚いた。
「なら、仕事頑張らねえとな」
「はい！　田中さん、これからもご指導よろしくお願いします」
　俺は部下の背中を叩いて、激励する。
　休日出勤の最後は、部下の幸せな報告で終えた。