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20人の「40歳」との対話 Part3(9人目~12人目)

撮影:荒牧耕司

こんにちは。大宮冬洋(43歳)です。
3年前に自費出版した『40歳は不惑ですか、惑ですか』。僕自身の「40歳」を語るだけでなく、幼馴染から仕事仲間、引っ越し先の愛知県蒲郡市で出会った「ほぼ同い年」たちに写真撮影付きでインタビューしました。

今回紹介する4人は、僕が大学生時代に出会った人たち。
特に印象深いのは医者になった川崎くん(12人目)です。
法学部のゼミの同期だった川崎くんは、4年生も終盤になったときに「オレ、駿台に行く」と言い出したんです。
おいおい、駿台予備校は大学に入る前に行くところだよ、まさか予備校に就職するのかい?と思っていたら、彼は駿台で医学部受験の勉強をし直すというのです。

1年後、彼は長野県にある大学の医学部に1年生から入り、一度目よりも長い大学生活を送り始めたのでした。
インターンを経て、医者になる頃には30歳になっているとのこと。
優秀とか根性あるとか親が金持ちとか、そんな感想とは違った衝撃を受けたのを覚えています。
川崎、人生を回り道しすぎていないかい? 懲役刑じゃあるまいし……。

40歳になったとき、「まだ新米」ながらも立派に小児科医を務めている川崎くんと語り合い、僕はまた違った感想を抱いたのを覚えています。
長い人生、特に20代のうちはいくらでも失敗や回り道をしていいのかもしれません。
僕自身、30歳になる頃からライターとしての方向性に迷い始め、3年間ぐらい無為な日々を送りました。
でも、あれこれ迷って苦しんだからこそ、現在の働き方や暮らし方があることははっきりとわかります。

周囲から見ると無駄で愚かとも思えるような時間の中で、僕たちはようやくに「腹決め」ができるのだと思います。
自分探しというよりも、いまここにある自分自身を受け入れつつも前を向く覚悟ができた、と表現したほうが近いでしょう。
若い頃の焦燥感のほとんどは、「俺はまだ本気出してないだけ」的な逃避によって構成されていることが今ならわかります。
現実逃避をやめたとき、意外だけれど面白味のある自分だけの生活が見えてくるのです。

腹決めができると、ささやかだけど手ごたえのある幸せを感じられるようにもなります。
子ども好きの川崎くんの場合は、日々の診察(時間をかけすぎて同僚から叱られているそうですが)にやりがいを覚えているに違いありません。
僕は今のような文章を書いているときに集中力の高まりを感じるし、夜は妻や友人たちと酒を飲みながら食事するのがこの上ない喜びです。

あなたにとっての40歳はいかがでしょうか。
僕たちと語り合うような気持ちで読んでいただけると幸いです。
では、まずは小松くんの話からどうぞ。

9人目 小松くんの話

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小学校から高校までアメリカで過ごす

 アメリカの日本人学校で小中学生時代を過ごし、高校はシカゴ郊外にある現地の公立校に通いました。アメリカの高校は義務教育で4年制です。僕が通っていた高校は1学年500人のマンモス校で、シカゴ大学やハーバード大学に進学するエリートもいれば、勉強を全くせずに義務教育なのに中退してしまう人もいました。
 96年に卒業したので、今年(2016年)の9月に20周年の同窓会が開かれ、4日間の弾丸旅行で行って来ました。70人ぐらいは集まったと思いますが、東京から来た僕は「一番遠いところから駆け付けたで賞」みたいなものをもらいましたよ(笑)。
 同窓会の前日は、高校が全面協力してスクールツアーをしてくれました。それに参加したのは、高校時代には顔はお互いに見たことがある程度の人たちばかり。アメフトをやっていた体の大きな白人もいました。高校の頃はハチャメチャなことをしていた人たちです。あの頃の僕はなるべく接しないようにして、勉強ができる人たちとばかり仲良くしていました。怖いし、バカな奴らだと思っていたんです。
 でも、20年も経つと普通に接することができた。嬉しい発見でしたね。スクールツアーの後、何人かで近くのバーに行って「ベアーズ(シカゴ拠点のアメリカンフットボールチーム)は今年もひどいな」「カブス(同じくプロ野球チーム)は優勝するかな」みたいな会話を楽しめました。
 お互いに変わったのだと思います。まずは彼らのほうが丸くなりました。ツアーをしてくれた副校長に、「最高のツアーだ。先生、昔からリスペクトしていました!」なんて言っちゃって。彼は高校の頃、その先生を汚い言葉で罵倒していたんですよ(笑)。すっかり穏やかになっていました。あの頃はほとんど話したこともなかった僕にも興味を持ってくれたり。
 「(1980年前後から2000年代前半生まれの)ミレニアルズは何もわかっちゃいない。仕事のやり方がなっていない」とありがちな若者批判が彼らの口から出たときは笑いました。自分たちは高校時代から酒を飲んだり、ウェイトトレーニングルームをぶち壊したりしたことを忘れているんですね。家族もできて、仕事も長く続けているとあんなに丸くなるのだと驚きました。
 僕自身も少し変わりました。結婚や子育ての経験よりも、仕事でいろんな人と関わってきたことが大きいですね。必ずしも親しくなりたい人ではなくても普通に話すスキルが身に着いたのだと思います。
 10年前、29歳のときに参加した卒業10周年の同窓会では、高校時代に仲が良かった人とばかり話したのを覚えています。あの頃はまだ若くてハチャメチャな人もいたし、僕も彼らにあえて接しようとは思わなかった。20周年に参加して本当に良かったです。

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