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#小説
7-2.「別に悪ぃことに使うための道具じゃねえよ。悪ぃことにも使えるってだけで」
「別に悪ぃことに使うための道具じゃねえよ。悪ぃことにも使えるってだけで」
トシの手から受け取ったボルトカッターをジュンペーのデイパックにしまいながらヒロムが言う。まあ、今の俺たちの状況から考えれば、良いことに使われる可能性は低いと思うが。
「んなことよりトシ、ここは大丈夫なんだろうな?」ヒロムが不意に声を押し殺す。
「大丈夫に決まっているのだ。校門の外側はギリギリ監視カメラの死角。もっとも
7-1. 夏休みに入り、生徒が行き来しなくなった囲町学園は、とてもひっそりとしていた。
夏休みに入り、生徒が行き来しなくなった囲町学園は、とてもひっそりとしていた。待ち合わせまで時間もあるので、学校のまわりをぐるっとまわってみる。
元々、あまり活発ではない運動部の貴重な夏季練習も終わったのか、グラウンドに人の気配がない。運動部よりもやる気のない文化部については言うまでもなく、午後の日射しを照り返す校舎の窓ガラスの向こうに誰かがいる様子はなかった。たぶん、今、学園内にいるのは警備
6-12.「日本国内の有料サーバーでは、すぐ足がついてしまうのだよ」
「日本国内の有料サーバーでは、すぐ足がついてしまうのだよ」
過去に痛い目にあったのだろうか。トシの言葉には、変な実感がこもっていた。
「分散処理をするにしても、個人ベースのサーバーでは無理なのだ。せめて大学レベルの――」
トシの言葉に頭をぶん殴られたような気がした。あるじゃないか。すぐ近くに。
「俺たちの学園にも、たしかスゴいサーバーあったよな」考えが思わず口をついて出る。
「サーバ
6-11. 実際のところ、世間では「原因不明」とか「動機が定かではない」という事件が、毎日のように起きている。
実際のところ、世間では「原因不明」とか「動機が定かではない」という事件が、毎日のように起きている。そのうちのいくつかがアルミに関係しているかもしれないと想像してみるといい。もしきみたちが、それをリアルに感じられればプレイヤー側、誇大妄想だと笑えるのであれば一般側だ。
話を元に戻そう。僕は、これらの仮説をたしかめるとともに、パペットマスターの実態に近づくため、アルミの、特に裏ミッション実行時の
6-10.「これは、一度、工場出荷時の状態にリセットされているかもしれないのだよ」
「これは、一度、工場出荷時の状態にリセットされているかもしれないのだよ」
ユウシのスマホからデータを抜き出しながらトシがぼやく。基本アプリで残ったのはメールだけ。
「なにも、ない……のです」
立ち上がったメールの受信画面を見て、ジュンペーが落胆の声をあげた。でも、すぐにトシが全否定する。
「ジュンペーは、あきらめるのが早すぎるのだよ。まだ全部は見てないのだよ」
トシがキーボードを叩
6-9.警告音も振動もなかった。
――1、0、4、9。
警告音も振動もなかった。ただ、ふわっと画面がホーム画面に切り替わった。
「やったじゃねえか!」
拳をぐっと握って、ヒロムが俺のスマホをのぞき込んでくる。呆気にとられてしまった俺は、口を半開きにしたまま、ホーム画面を見つめていた。でも、そこまで。
「みなさん、お探しのものは見つかったかしら?」
短いノックに続けて、ドアの向こうから声がした。ユウシのお母さんだ。
6-8.あれこれと悩んでいる時間はなかった
あれこれと悩んでいる時間はなかったので、ヒロムの話はもっともだと思ったけれど、今は絞り込まれた数字に賭けてみることにした。この数字に替わる情報が見つかっていない以上、どうやっても手詰まりになるのは見えていたから。みんなもわかっていたのだろう。特に反対はしなかった。
「で、どの数字から試してみるんだ」
ここから先はおまえに任せたと言わんばかりにヒロムが腕組みをする。
「……誕生日からにしよ
6-7.「わかった。んじゃ、俺たちは撤収の準備だ」
「わかった。んじゃ、俺たちは撤収の準備だ。重要そうな本やノートを残して片付けるぞ」
俺は、トシからメモ帳とシャープペンシルを返してもらうと、部屋の片隅の壁にもたれて座り込んだ。
シャープペンシルを回しながら、メモとスマホを交互にながめる。
ヒントが『僕に関係ある日時がパスコード』だなんて、ユウシにしてはセキュリティが甘いというか、わかりやすいヒントを残したものだ。これじゃあ、パスコード
6-6.4 85650 78965 73978 29309 84189 46942 86137 70744 20873 51357 92401 96520 73668 69851 34010 47237
4 85650 78965 73978 29309 84189 46942 86137 70744 20873 51357 92401 96520 73668 69851 34010 47237
44696 87974 39926 11751 09737 77701 02744 75280 49058 83138 40375 49709 98790 96539 55227 01171 2157
6-5.「わかったのだよ。特に自分で設問をつくることができるサイトを優先して調べるのだ」
「わかったのだよ。特に自分で設問をつくることができるサイトを優先して調べるのだ」
トシの指先が加速した。カタカタではなく、タタタタタという感じの素早い打鍵音。その音だけで全員が追い立てられているのだ、ということを再確認する。
「急げ! この部屋に入ってから、もう一五分過ぎたぞ、バカ!」
ヒロムが本を手に取ってはバラバラとめくり、バサバサと振っては、棚に戻していく。
「なにしてんだよ、ジ
6-4.「そうだよな。だとすると、ありがちな誕生日あたりも使っていない可能性は高いか」
「そうだよな。だとすると、ありがちな誕生日あたりも使っていない可能性は高いか」
俺は自分のカバンからシャープペンシルとメモ帳を取り出すと、ペンを指先で一回転させてから、「ユウシの誕生日=八月七日=0807」と書いてあったところに横線を一本引く。こいつはあと回し。
そのまま、何回かシャープペンシルを回して、候補を絞り込み、最初に入力する数字を決めた。
――4、8、2、7。
四丁目八番
6-3. ジュンペーの気持ちは、よくわかった。
ジュンペーの気持ちは、よくわかった。誰かが秘密にしていることをのぞくことに対する罪悪感は、どんなに正当化する言い訳を考えたとしても、すっきりするもんじゃない。
ユウシの部屋は、この家の二階、ゲストルームを出てすぐの階段を上ったところにあった。廊下に沿って扉が三つ。ユウシの部屋は、そのうちで一番、階段に近い位置にあった。たぶん、残りふたつのどちらかが兄貴の部屋なのだろう、と俺は勝手な想像を巡ら
6-2.「はじめまして、祐士の母です」
「はじめまして、祐士の母です。どうぞ、おあがりになってください」
「あわただしい中、お時間をありがとうございます。おじゃまします」
ユウシのお母さんは、ユウシによく似た口元に笑顔を張りつけていたけれど、その姿は事故があったあの日、病院で見たときよりもさらにやつれて見えた。ジュンペーはともかく、トシやヒロムも、そんな雰囲気を感じとったのだろう。普段なら絶対に使わない硬い口調であいさつをする。
6-1.初めて病院に行ってから、あっという間に一〇日が過ぎていた。
初めてユウシの病院に行ってから、あっという間に一〇日が過ぎていた。
そのあいだ俺は、一度だけ病院に行った。ユウシは集中治療室から出て、たくさんのパイプや管から解放されていたけれど、あいかわらず静かに眠っているだけだった。俺は「入院して太ったんじゃないか」とか、「看護師さん、名前まちがえてるよ」とか、いろいろとつっこんでみたけれど、なにを言っても反応のないユウシの側にいるのは、正直、つらかった