6-8.あれこれと悩んでいる時間はなかった

 あれこれと悩んでいる時間はなかったので、ヒロムの話はもっともだと思ったけれど、今は絞り込まれた数字に賭けてみることにした。この数字に替わる情報が見つかっていない以上、どうやっても手詰まりになるのは見えていたから。みんなもわかっていたのだろう。特に反対はしなかった。

「で、どの数字から試してみるんだ」

 ここから先はおまえに任せたと言わんばかりにヒロムが腕組みをする。

「……誕生日からにしよう。ありがちだとは思うけど」

 俺の提案に、みんなが一斉にうなずく。

 ――8、7、4、4。

 最初の0を除いた数字をタップした。小さな警告音と軽い振動が続けて起こる。全員が小さくため息をついた。メモ帳に「5/10」と書き込む。ユウシのスマホがロックされるまで、あと五回。

「お宮参りなんて、どうですか? 普通なら他の人が興味も持たない情報だと思うのです」

 ジュンペーの提案。ここまで来たら、あとはそれぞれの勘も信じるしかない。

 ――9、7、3、7。

 警告音と振動。次は「見た目がキレイ」というトシの意見で入学式の日。

 ――4、7、4、7。

「なんと! これではなかったのだよ」トシは叫び声を上げる。「痛恨のミスなのだ。次に入力をミスすると、そこから先は入力が一五分待ちになってしまうかもしれないのだよ」

「んじゃ、時間的には次の入力が最後じゃねえかよ。そういうことは早く言えよな、バカ」

 ヒロムの言うとおりだ。どれだけ入力回数に残りがあっても一五分ごとでは時間がかかりすぎる。

「どうする?」俺は、ヒロムに目を向けた。

「どうもこうもねえ。こうなったら俺は、腹をくくって、おまえに任せるさ」

 ヒロムに投げたボールを即座に投げ返されて、俺はとまどう。

「でも、おまえ自身の考えはまだ聞いてないぜ。ヒロムは、それでいいのか?」

「腹をくくったからには、あとでグジグジと文句は言わねえよ。安心して、勝負しやがれ」

 ヒロムは豪快な笑顔を見せる。俺は苦笑いを浮かべながら、うなずいた。わかったよ。

 俺はペンを回しながら、残りの数字をにらむ。

 残された数字は、01031、03234、01049、そして04747の別案。イベントで言えば、修学旅行に幼稚園の卒園式、初めて勝利した運動会、そして入学式だ。ユウシにとっては、どの日が一番、記憶に残ったのだろうか。

 俺の思考はそこで跳んだ。

 そういえば、ユウシに初めて会ったとき、あいつは、アルミで勝ち進むには俺の力が必要なんだ、と言った。俺たちは、チームとして同じ時間を過ごし、あと少しでトップになるところまで昇りつめた。そのことに誰よりもこだわったユウシと俺が衝突をしたのは、ほんの一か月前のことだ。

 ユウシは、いつだって勝つことにこだわっていた。それが子どもの頃から続いてたとすれば――

「最後の入力は、運動会の日にしようと思う」

 それぞれのスマホを見ながら悩んでいたみんなが、ゆっくりと俺を見る。

「ユウシは、なによりも勝つことにこだわっていたからね」

 ジュンペーが小さく何度もうなずいた。ヒロムは「わかった」とひとことだけ。トシは、パスコードが破れなかった場合の対処方法を並べたてて、最後に「大丈夫なのだよ」と添えた。

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