6-9.警告音も振動もなかった。

 ――1、0、4、9。

 警告音も振動もなかった。ただ、ふわっと画面がホーム画面に切り替わった。

「やったじゃねえか!」

 拳をぐっと握って、ヒロムが俺のスマホをのぞき込んでくる。呆気にとられてしまった俺は、口を半開きにしたまま、ホーム画面を見つめていた。でも、そこまで。

「みなさん、お探しのものは見つかったかしら?」

 短いノックに続けて、ドアの向こうから声がした。ユウシのお母さんだ。はっとなって壁の時計を見たら、俺たちがユウシの部屋に入ってから三五分が過ぎていた。

「は、はい。おかげさまで見つかりました。部屋を片付けたら、すぐに降りますね」

 ユウシのスマホをポケットに隠すと、手近にあった物理のノートを手に取った。ユウシのスマホを勝手に持ち出すのは気が引けたけど、ためらっている余裕はなかった。全員で手分けして、残されていた本やノートを元の場所に戻していく。調べるのと違って、片付けには一〇分もかからなかった。

 俺たちは、最後にユウシの部屋をもう一度、ぐるっと見回した。この部屋にユウシが戻る日は来るんだろうか。それまで、この部屋は今のまま、残されるんだろうか。

 それから俺たちは一階に降り、ユウシのお母さんに見つけたノートを見せた。パソコン部の会計記録が物理のノートにメモしてある、なんてウソをお母さんは「そうだったんですか。几帳面なあの子にしてはめずらしいわ」と微笑んで信じてくれた。痛いウソだ。

 俺たちは、ユウシのお母さんにお礼を言って、ユウシの家を出た。時間は午後三時近く。一時間半ぐらい、あの家にいたことになる。結局、ユウシの兄貴には会えなかった。会ったところで、今の俺たちにはありきたりの質問しかできなかっただろうけど。

「あらためて、中を調べさせてもらうとするのだよ」

 ユウシのスマホを自分のノートPCにつなぎながら、トシが言った。

 俺たちはユウシの家を出たあと、駅をふたつ移動した先のファミレスにいた。高級住宅街のある駅前にスタバはあっても、俺たちが入り浸れるようなドリンクバーつきのファミレスはなかったのだ。

 トシが指を走らせると、ノートPCのディスプレイにユウシのスマホのホーム画面が映った。

「アルミの他は、特に変わったアプリはインストールしていないのだよ。まったくもって面白くないのだ」

「前にユウシの秘密を探ってやろうと思って、手元をのぞき込んだときには、もっといろいろなアプリがあったような気がしたんだけどな」

 あのころは、どうにかしてパソコン部を抜けてやろうと必死だったので、よく覚えている。だから、今、ディスプレイに映るホーム画面がひどくスカスカに見えた。まるで不要な情報を消したみたいに。

「イチの考えは?」俺と同じようになにかを感じたのか、ヒロムが聞いてきた。

「たぶんユウシが、自分で雑音になりそうなアプリや情報を消したんじゃないかと思う」

「ユウシが? なんのために?」

「このスマホから、アルミの真相に近づこうとする人たちがとまどわないように、かな」

「なんだ、そりゃ。んじゃ、まるで俺たちは、ユウシがレールを敷いたゲームの上で遊ばされてるみたいじゃねえか。ユウシのバカ、どこまで先手、打ってやがったんだ」

 毒づくヒロムの言葉を聞きながら、次々に切り替わるアプリの画面を目で追う。電話、メッセージ、連絡先、写真、マップ、メモ帳、リマインダー、ブラウザ。どこにも記録らしい記録はない。

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