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仕事復帰にむけて
家に向かう車の中、ラジオからこんな曲が流れてきた。
すっごく強そうな女の曲。いつしか聴いたことあったような気もする。パワーみなぎる曲。どうしたらこんなに強く生きられるのか。感心しながらもこのくらいで進まなきゃいけないのかなって、そんな風に思った。
プレドニンの服用量が12.5mg/日に減薬されて一か月。離脱症状と思われるものも特に感じず、私は元気だ。疲れたり、睡魔に襲われたりはするが、たぶんこれは、少しの体への気遣いを私が忘れなければ問題ない。その他多少気になるところがないこともないが、それはきっと私の中で解決できることだろう。それより今は、日常を取り戻さなくてはと感じる心を治したかった。
自己免疫性肝炎の治療のためステロイド治療を始めてから約半年。自分に無理を科すことによって作った仕事からくる騒音と、治療の不安からくる雑音が、私の心を混乱させ、迷走していた初期。「あきあらめる」ってことを知り、「できること」を模索していたあの時から、時という魔法が少しづつ私に勇気を与え、休んでいた会社に復帰すべく、この一か月は各種相談を繰り返していた。
2020年11月27日。
この日の検査結果が良好であれば仕事を再開する予定になっていた。
私はいつもの通院と同じように採血し受診科に向かった。診察を待つ間、本でも読んでいればいいのに、余計な不協和音が鳴りやまない頭では、全然そんな気になれない。
この場に及んでの第三波といわれる感染者情報。だけど日常に戻りたい自分。
検査結果どうだろう。
時間を過ぎても名前は呼ばれない。こんな時の1時間はとても長い。本でも読んでいればいいのに、余計な不協和音が鳴りやまない頭では、全然そんな気になれない。
復帰したいのに、ちょっとだけ残る不安。
検査結果どうだろう。
診察が遅れている旨の張り紙が出る。仕方ないからおとなしく待つ。本でも読んでいればいいのに、余計な不協和音が鳴りやまない頭では、全然そんな気になれない。
今の体調のこと、できること、できないこと。
検査結果どうだろう。
やっと名前が呼ばれ診察室へ入り、まず検査結果を確認した。
白血球数: 8
赤血球数: 4.33
ヘモグロビン: 14
ヘマトクリット: 41.5
MCV: 95.9
MCH: 32.3
MCHC: 33.7
血小板数: 242
PT: 95
PT-INR: 1.04
APTT: 29.4
APTT-Cont.: 30.5
フィブリノゲン定量: 198
総蛋白: 6.6
アルブミン: 4.1
総ビリルビン: 1
直接ビリルビン: 0.1
AST: 16
ALT: 16
乳酸脱水素酵素: 125
アルカリフォスファターゼ: 39
γ-GTP: 19
コリンエステラーゼ: 194
中性脂肪: 104
グルコース: 91
CRP: <0.03
アンモニア: <17
IgA: 121
IgG: 1006
IgM: 175
ALBIスコア: -2.67
ABI grade: 1
何も問題ない。何も悪いところがない。すごいのかもしれない。きっともう休んでちゃいけない。そう思った。
そして先生は続けた。
「何かありますか?」
「会社に復帰するので診断書をいただけますか?」
帰りの車にエンジンをかけると、私はカーラジオをオンにした。
今日もらった診断書を提出すれば、正式に会社に復帰することが決まる。
外の景色とともにこの半年間が前から後ろに流れていく。
言葉が刻まれたかのような落ち葉が時折窓ガラスを横切り、あの時、涙あふれてた私に届いた、どうでもよくて、くだらないメールに笑顔を取り戻したことを思い出す。
力強い女の曲が流れる。
へこたれてた自分に突き刺さるような音楽。どうやったらこんなに自信にあふれた姿になれるんだろう。
自分とは正反対の異色の生物をみるかのごとく流れてくる音に耳を澄ます。
自信を持とうとすると現れる、弱気な自分が日常に戻りたいのに戻るのを恐れているのがわかる。その中で少しずつ取り戻されていく日常に、ほんの少し自分も自信もっていいのかな。
音楽に合わせフロントガラスに浮かび上がるように見えた、自分とは正反対の生きざまの女が、やたらうるさかった。
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