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副作用対策 眼科(緑内障と白内障)編

「まずは検査室へどうぞ。」

入院着のまま連れてこられたのは眼科診察室。廊下には一般外来客が多数いる中で、ひとりだらしない姿の私。入院着と言っても、それはすなわちパジャマだ。ステロイドを始めると緑内障や白内障にかかるリスクが高くなるらしい。その時の対策と現在の状態を確認するために眼科検診を促され、そんな姿で登場した私で受付に到着した私に看護婦さんは言った。

「こちらにお座りになって、あごをのっけて、のぞいてください。」

プシュ。

目に空気砲が撃ち込まれ一つ目の穴が終了。そして次の穴へ。かの有名な気球の写真が広がる。いたって普通の眼科の検診。大学病院の眼科だからって特別なことではなかった。その後、Cマークの穴の向きを指して視力の検査をすると、私はふたたび待合室に案内された。

ぼーっと待っていると、つい余計なことを考えてしまう。これと言って目に不具合を感じているわけじゃないのに、何でここにいるんだろうと。

真っ暗な診察室から呼ばれる。眼科の診察室はなぜにこうも真っ暗なのか。そんなどうでもいい疑問をもちながら椅子に座る。先生は、私のあごを診療台に乗せると目薬を差してきた。そしてまた、待合室に戻された。

退屈なのでスマホ見るが焦点が定まらない。先ほど差された視界がぼやける目薬が力を発揮してきたらしい。何もすることができない手持無沙汰。こんな時は、ついまた余計なことを考えてしまう。私なにやってるんだろうって。

余計なことは考えたくないのに、隙間があると考えてしまう。余計な心配が余計な不安を呼ぶことも知ってるのに、余計な隙間が邪魔をする。そんな隙間をつくらないようにしたいのに、身体が隙間を求めてくる。そんな病気に思い悩む待合室。

看護婦さんがカメラのようなものを準備し始め、私の目の撮影をした。そして再度診察室への扉が開かれた。

先ほどと同じ真っ暗な診察室だが、視界がぼやけているからか、何がなんだか余計に分からなくなっていた。先生は先ほどと同じように私のあごを診察台に促すと、今度は光を当てて目をのぞき込む。指示に合わせ私は目を動かす。右上、右、右下、下…目薬と光の化学反応で、普段見えない視界がそこにはあった。毛細血管が見え、緑と黄と、サイケな感じと言うか、でもそんなどぎついわけではなく、万華鏡のような雰囲気もある。不思議な世界をのぞき込み、先生はそんな視界が広がる私の目をのぞき込んだ。

「今は問題ないですね」

現状に何も異常がないことが証明された。ステロイドや血糖値が高い状態が続くと、目の外側の血管に異常が出て、徐々に見えなくなっていくらしい。外側から少しづつ見えなくなってくるから気づかない人も多いので、それを確認するために、今後は半年に一度眼科で定期健診をするように言われ、診察は終了した。

今の安心とこの先の心がけを土産に、私は入院病棟へと帰る。ぼやける視界。ふら付いているわけじゃないけど、足元がおぼつかないのは、心ではなくあの目薬のせいだ。

薬が変えていく自分。薬で変わってしまう自分。治すための薬なのに。

コソコソする必要もないし、しっかりしてていいはずなのに、どこか不安定な自分は、「早く人間になりたい」と叫んでいるようだった。


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