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眼科

午前10時20分。受付のお姉さんは二人とも、ばっちりまつ毛のカールがきまっていて、とても親切だった。初診だったので書類に住所や電話番号、手術歴やアレルギーの有無などを記入。いつも、13歳の時にかかった虫垂炎と、花粉症について書くようにしている。

予約していた時間から20分ほど待ち、診察室へ案内してもらった。先生はまだいないようだ。ずっと前に日本で行ったことのある眼科の照明はとても明るかったが、ここの診察室は間接照明的な明るさで、何もせず待っているとだんだん眠たくなってくる。横のパソコンのモニターに表示されている時間によると、もう20分はここに座っているらしい。携帯にnoteの下書きでも書いておこうかと思い始めたが、なんとなく診察室に入ってきた時の先生の心証を考え、おとなしく待っておくことにした。

よく見ると色々なものがある部屋だ。私の座っている右側の棚にはたくさんの本やぬいぐるみ、ボードゲームらしき箱もある。左の壁には赤や青、金などカラフルな色使いだけれど、それがうるさいわけではなく、なかなか見飽きない絵がかかっていた。絵の下には幸せと健康を祈る内容の、きれいな筆記体で書かれたメッセージがある。向こうのほうにはZEISSの青いカバーがかかった機械があり、5年前にプラネタリウムを見るためだけに東ドイツのイエナを訪れたことをぼんやり思い出していた。

いつのまにか人の足音すらぴたりと聞こえなくなった。みんな少し早いお昼休憩に入ってしまったのだろうか。この、寝る前にひとつ電気を消し忘れたような部屋の明るさが、どこか違う世界に私ひとり取り残されたような、不思議な感じを与える。

パソコンのディスプレイは白くまのいる雪国らしい。左下に表示されている時刻が11時10分を過ぎたころ、ようやく先生が診察室の扉を開けた。優しそうな女の先生だった。少し話してから私の眼をよく見ようとしたところに、電話がかかってきて、スケジュールを確認しながらゆっくりと5分ほど喋る先生。電話を終え、やれやれ、今日は大変な日ですよ、と再び私のほうを向く。左の目じりのほうが先週末からごろごろしていて赤くなり、どうやら逆まつげがささっているらしい。私の逆まつげはかなりしつこくて、今までに一度だけ眼科で抜いてもらったことがあるが、もう本当に抜いても抜いてもきちんと生えてくる。今回は一応抜ける分は抜いてもらい、目薬を3本も処方してもらった。

学生の頃は、ロートのリセや、もっと清涼感のある目薬を、眠たい授業の目覚まし用にポケットに入れていたものだが、卒業してからもう10年ぐらい点眼したことがない。久しぶりのことで、さっそく一滴目は少し的を外したが、そのうち勘も取り戻せるだろうな。

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