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妄想 短編小説 『降り続ける雨』

 仕舞われないままのシオれた鯉のぼりが滑稽である。これじゃあ、まるで煮干しじゃないか。

傘をさしながら晴男(ハルオ)は近所の戸建ての雨に打たれる鯉のぼりを見上げた。

雨の日だろうと散歩は欠かせない。

次に河川敷を沿うよにいつもの散歩コースを歩いた。

「だんだん水位が上がってきたなぁ」

前方にまたがる橋の、危険水位の目印より少し下を濁った水が流れる。

 近所を一周した晴男は、傘を畳みバタバタと水気を取って立て掛ける。そして家の中へと戻っていく。

「ただいまぁ」

「おかえりぃー」

散歩前から見ていたアニメを娘はまだ見ている。最近のサブスクは、時間割などお構いなくいつ迄も垂れ流す。全く困ったものだ。

「乃愛(ノア)いつ迄テレビ見てるの?はいっ、終わりー」

晴男はリモコンでチャンネルを変えた。

「もー、お父さん!」

娘はスマホを取り出しアニメの続きを見始めた。

流石に、ここ何日も降り続く雨のせいで外で遊べないのは可哀想だよな・・・

晴男はスマホを見つめる娘を見つめた。

その一方通行の先にあるスマホから突如、緊急アラームが鳴った。

「お父さん、河川敷の川が氾濫しそうだってよ。大丈夫かなぁ」

娘は、心配そうに窓から河川敷を見つめる。

「大丈夫。天気予報によると、夕方には止むみたいだよ」

晴男は、呑気に愛犬のチワワにご飯を上げながら話した。

しかし、雨は降り続いた

あいにく大雨では無く小雨が降り続た為、自然災害もなく世間は通常運転である。

しかし、本当に雨は降り続いた・・・

1年後

「行ってきまぁーす」

「あっ、車の鍵忘れた」

「お父さん!もう車なんて必要ないじゃん。それよりも学校まで載せて行ってよ」

「せーの」

二人は慣れた手付きでオールを漕ぎ出した。

「お父さん、隣の家は最近エンジン付きのボート買ったみたいだよ。いいなぁ~」

「愚痴言っていないでちゃんと漕げよ」

「はぁ~い」

学校の前に到着した

「お父さんここでいいよ。後は、泳いで行くね。行ってきまぁーす」

娘は、そのまま泳いで行った。

晴男はその後もボートを漕ぎ続けて、ようやく会社に到着した。そこには路駐されたボートやサップ、水上バイクが並ぶ。

「晴男さん、おはようございます。今日は小雨でいい天気ですね。」

当たり障りのない天気の話ですら、嫌気がさしてきた。

晴男は同僚とオフィスまで泳いで行った。


更に10年後

ーーー日本には、紫陽花しか咲かなくなり梅雨という概念が無くなった。
おまけに「晴れ男」と共に「雨男」という言葉の意味を知らない若者が増えだす。
因みに、この年のレコード大賞は『長崎は今年も雨だった』である。

(ブーン)

力強いエンジン音と共に、赤色のボートにのった局員が手紙を投函する。

宛先住所は『富士山3合目 仮設住宅 第7棟』と書かれている。

仮設住宅から出てきたのは、まだ眠たそうに目を擦る晴男だった。

晴男は、その手紙を手に取ると差出人は娘からであった。

お父さんへ
お元気ですか?私は今、アメリカのオレゴン州にあるフッド山の仮設住宅にて生活しています。あの日から、降り続く雨の影響で日本も富士山以外は海に沈んたと聞き手紙を書きました。
私は元気です。でも雨が降り続き5年後には、私が暮らすフッド山含め全世界の3,000メートル級の山々が海に沈むそうです。
そこで、トルコにあるアララト山という5,000メートル級の山に一緒に引っ越さないでしょうか?
良い返事お待ちしております。


「面倒くせぇーなぁ」

晴男はソファーで眠っているチワワの頭を撫でた後、身支度を始めたのであった。

今日も雨は降り続く・・・


ご一読ありがとうございます。




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