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短編小説ショートショート 『溌剌颯爽(はつらつさっそう)』

シンバルの照り返しに睨みを利かせながら、その瞬間(とき)を待っていた。

緊張感とワクワク感が交互に押寄せてよくわからない感情のまま、ステックを握り絞める。

いよいよだ。

後攻である大崎高校の攻撃が始まった。

「海〜よ〜♪!!」

一塁側では野球部員のひとりが、メガホンを口元に充て溌剌と歌い出した。

その陽に焼けた野球部員の肌は、パール色のドラムセット越しに良く映える。

時折、高音のパートでは声が裏返るが、この大舞台にソロで歌い上げる様に胸を打たれた。

(よし愉しむぞ!)

ステックを持つ手を大きく振りかぶり、スネアとフロアタム、バスドラムを同時に打ち鳴らした。

ダン・ダダン・ダダダッ・ダダッ。



ドッカーーーーーンッ!!!



吹奏楽の音、応援団の声、色んな音色が重なりオノマトペで表現すると、こんな音だ。

それはまるで鬨の声だった。

センターの更に向こう側。バックスクリーンをも突破り、どこまでも抜けてゆくこの爽快感!

熱中症になったドラムセットの(緩い)音色を愉しみながら、甘めに入った初球が快音を響かせて、太陽の中へと吸い込まれていった。

皆が一斉に固唾を飲んで見上げた八月の空は「溌剌」そのものだった。


ーーーおわり



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