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その手を見ると、応援したくなっちゃうんだ

試合前練習のかけ声は、いつもよりちょっと高めになる。
緊張・・・してるよね。みんな。
当然だよね。

今日の日を迎えるために、どれだけの努力を積み重ねてきたんだろう。
どれだけの期待を背負ってきたんだろう。
どれだけのことを諦めてきたんだろう。
どれだけ泣いてきたんだろう。

どれだけの友情を育んできたんだろう。
どれだけの信頼を培ってきたんだろう。
どれだけ楽しんできたんだろう。
どれだけ笑ってきたんだろう。

望遠レンズを覗きながら、ずっと、みんなの姿を追いかけてきた。
桜舞う春も、厳しい夏も、楓が色づく秋も。
必死に白球を追う姿も、黙々とティーバッティングに打ち込む姿も、こどもみたいな笑顔も、差し入れを受け取る時の容赦ないジャンケンも、ふざけてじゃれ合う姿も、悔し涙のミーティングも。

そこには、いろんな表情をした“手”があった。
準備をする手、支える手、ねぎらう手、応援する手・・・それに応える手。

みんなの手を見ると、応援したくなっちゃうんだ。

準備をする手

ベンチから走ってきて、美しい芝生にヘルメットを並べていく。
ひとりひとりのバットも。
音をたてないように、傷をつけないように、そっと。
その、急ぐけれどていねいな手の動きが、好き。

そう感じるのはきっと、道具をたいせつにする気持ち、道具を使う選手をたいせつに思う気持ち、グラウンドをたいせつにする気持ちが、その動きに現れているから。

その祈りがどうか届きますように。

 

練習試合は、準備がいっぱい。
ドリンクにアイシングにロジンにベースコーティングはいつものことだけど、相手校のためのベンチや荷物置き場やスコアボードも。
でも、準備している選手もマネージャーも、みんな笑顔。
自分たちで話し合いながら、率先してテキパキ動くみんなの姿は、なんだか家で見てるときよりずっとオトナに見えるんだ。

ノックが始まる。
今日もいい声出てるね!
真正面でキャッチして、ボールがグローブをはじいて、華麗にトスして、豪快にバックホームして。
どんなときも、はじけるような笑顔。
みんな、ホントに野球が好きなんだね。

グラウンドに明るい声が響きわたる。
みんなのあの声を聴いてるだけで、なんだか元気が湧いてくるんだ。
だから、近所のおじいちゃんたちも観に来ちゃうんだね。

さぁみんな、気合を入れて!
ジャンケンに勝って先攻になった日は、うきうきするね。
試合前の整列を待つ この時間の、みんなのわくわくした表情ったら!
どんな少女漫画に出てくる男子より、目がキラキラしてる。

 

ささえる手

「試合にはなかなか出してもらえないけど、佐藤くんのベンチワークは最高なんだ! ホントにすごいんだよ!」
試合に出てるみんなは気付かないだろうけど、ベンチでスコア書いてるマネージャーには見えてるんだって。
ベンチワークには、試合の流れやチーム全体を見渡す視野と、選手全員の好みの記憶と、先を読むチカラがいるはず。
チームをささえる完璧なベンチワークは、キミの努力の結晶だよね。
その全体を見通すチカラは、いつか絶対にキミ自身を助けてくれるよ。

ランコー(走塁コーチ)、バット引き、ボールボーイ、スコアボード、アナウンス、SBO、スコア管理。
チームの誰もがみんな、その日に置かれた場所で、毎回みごとな大輪の花を咲かせてる。

あっ! マメ発見!
いつも、朝練の1時間前に来て自主練してるって聞いたよ。
その努力、いつか必ず実を結ぶときがくるって信じてるし、祈ってる。

 

ねぎらう手

いいときもわるいときも、おたがいをねぎらって健闘をたたえ合う。
ともに乗り越えてきた試練、ともに積み重ねてきた努力は、チームメイトがいちばんよく知ってるもんね。
ぽん!とタッチした瞬間、張りつめてた表情がホッと緩む。
緊張・・・やっぱりしてたんだね。
よっしゃ! 次も行けるよ!

 

応援する手

知ってる? きっと気付いてるよね。
一生懸命に頑張ってきたみんなの周りには、一生懸命応援してくれる人たちがいる。
一生懸命ささえてくれる人たちがいる。

ベンチからの声援。
控えの選手たちからの声援。
応援団、友だち、家族からの声援。
メガホンを打ち鳴らす音が聞こえるかな?
太鼓の音、みんなの声は聞こえてる?
精いっぱい届けるから、どうかそれをパワーに変えて。

 

知ってる? 気付いてるよね?
マネージャーたちは、いつも応援してるんだよ。
いつもいつでも祈りをこめて。

千羽鶴を折ったり、お守りをちくちく縫うとき。
氷やドリンクを準備するとき。
熱々のごはんで手を真っ赤にしながら、おにぎりを握るとき。
選手のベースランニングのタイムや体重を計測するとき。
スコアをExcelに打ち込んで、打率や防御率を集計するとき。
ボールを磨くとき。
バットにグリップテープを巻くとき。
「バッチ3番! ショート、レフト行ってます!」と叫ぶとき。
震える手に、おまもりをぎゅっと握りしめて。

  

知ってる? 知ってるよね。
お母さんやお父さんは、ずっと応援してきたんだよ。
みんなが野球と出会う前から、ずっと。

グローブを抱いて寝てる我が子を見つめるとき。
朝早く起きて、朝用と昼用のお弁当を作るとき。
始発じゃ間に合わない朝練に送っていくとき。
帰ってきてすぐに庭で素振りしてる姿を、キッチンから見守るとき。
ドロドロになったユニフォームを、つけ置きしてから洗濯するとき。
スタジアムでメガホン持って叫ぶとき。
帰りみちの、声をおし殺した悔し涙を、見て見ぬふりしながら運転するとき。
微笑みながら、ときに涙ぐみながら、いつだって応援してる。
今までも、これからも。ずっと。

 

応援したくなっちゃうんだ

目標を見失いそうになった春。
センバツが中止になって、春季大会も中止になって、学校で練習できなくなって、夏の甲子園も中止になって。
きっと、涙したときもあったよね。
何で自分たちの代だけ・・・って呪いたくなったときも。
もう引退したようなもんだ・・・って諦めかけたときも。

練習を再開した学校も出てきた6月。
独自大会のニュースに一喜一憂しちゃうけれど、みんなの最後の夏はもうそこまで来てる。
私たちも、ココロの準備を始めなくちゃ。
みんなが頑張ってるんだから、負けてられないよ。
たとえ無観客試合になったって、たとえ独自大会すらなくなったって、みんなに精いっぱいの応援を届けるために。

みんなの手を見てると、みんなの頑張る姿を見てると、応援したくなっちゃうんだ。
でもね、今だけじゃないんだよ。
ずっとだよ。
みんなには、まだ、わかんないかもしれないね。
それでも、いいんだ。

高校野球はいつか終わってしまうけど、それでもずっと。

 

 

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2020.8.1.追記
ASICS主催「#応援したいスポーツ」コンテストにて、この記事が「スポーツのきっかけ賞」のひとつに選ばれました。
最後まで読んでいただき、この記事を、野球部員たちを、応援していただき、ありがとうございます!

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