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東京駅で最後を迎えて

ああ、もうこの人とは一生会わないんだろうな、という事実が突きつけられる瞬間を、今まで何回か味わったことがある。
変わってしまった友だちとの弾まない会話、恋愛の終わり、辞める職場での最後の挨拶。
二度と会いたくない人と思う人もいれば、またちょっとだけなら会ってみたい人もいて、変わる前のあなたとならまた会いたいんだけどなあという複雑なものある。
ただ東京駅で最後を迎えた人とは、それらの感情のどれも当てはまらなかった。

もう薄々、お互いに合わなくなっていることはわかっていた。
もはや取り返しがつかないくらい修復不能になっていることも自覚していた。
それでも少しの情だけが残っていて、惰性のように会うことがあって、その日も東京駅で会うことになっていた。

駅中にあった牛タン屋に入って、向かい合って座ったけれど、会話は弾まない。
お互い、携帯に目を落としていた。
ふと目線を上げると、相手が携帯で誰かとやり取りしながら微笑むのが見えた。
それを見て、さすがに心が折れた。
もう終わりだなあと思って、味のしない牛タン定食を食べてお店を出てからすぐに、僕はもうこれで会うのはやめようと言った。
相手は、ちょっとだけびっくりした顔をしたけれど、すぐに同意した。

その日は、僕が東京駅から新幹線に乗って、当時住んでいた離れた街に帰る日だった。
新幹線が来るまで少し時間があるから暇を潰すわと僕が言うと、相手は少しだけ付き合うよと言った。
ただ特に会話はなくて、早くこの時間が過ぎ去ってくれと思った。核心に迫るような話を少ししようかと思ったけれど、時間が足りなかったし、もはや手遅れなんだから意味なんてないなと思った。

時間になって、僕は新幹線の改札を通った。
最後の瞬間、相手が少し泣いているように見えたけれど、そんなことして欲しくなかったし、見間違えたと思うことにした。
僕は時間通りに、指定席を買っていた新幹線に乗り込んだ。

新幹線に乗ってしばらくして、たまたま僕は環とLINEをしたていた。
会話の流れで、さっきもう会えなくなった人がいることを、環に伝えた。

環からは、こんな感じの返事が来た。
「太、今日は早く寝ろよ!」

そのメッセージを見た瞬間、涙が出てきた。
両隣に人がいたけれど、今日ぐらいいいかと気にせずに泣くことにした。

とにかく関係が終わったことに、ホッとしていたのに。
切ないとか、憎たらしいとか、ムカつくとか、そんな気持ちは一ミリもないと思っていた。
ただただ、もう会わなくなることに、会えなくなることに、安堵している。
自分の気持ちは、それでしかないと思っていたのに。

環は、なんとなく送ったメッセージだったかもしれないけれど、それを見た瞬間に塞いでいた気持ちが決壊したんだと思う。
冒頭に書いたように、二度と会いたくないとは思わない、またちょっとだけなら会ってみたいとも思わない、変わる前の相手と会いたいとも思わない。
どれも当てはまらない。

会いたい会いたくないとか考える必要もないなと思っていた気持ちは本当だ。
ただ、僕は相手との関係が終わったことにちゃんと深く傷ついていて、とても寂しいと思っていた。
そのことに気づいた。

ただ、名古屋に着くまで泣いてやろうと思ったけれど、品川に着く頃にはもう涙が止まりかけていてた。
この程度なら、やっぱりもう会わないことは正解でしかなくて、こんなセンチな気持ちになる必要もないとも思える。
感情はぐちゃぐちゃで、どうしようもなかった。
一体、なんて思えば良いんだろう。

ただ、最後の改札付近での相手の姿をあらためて頭に浮かべてみた。
やっぱり相手は、今の僕と同じように泣いていたんだろうな。
確信をもってそう思った時、新幹線は品川を出て新横浜に着こうとしていて、また僕は少しだけ泣いてしまった。

モノマネ / クリープハイプ


<太・プロフィール> Twitterアカウント:@futoshi_oli
▽東京生まれ東京育ち。
▽小学校から高校まで公立育ち、サッカーをしながら平凡に過ごす。
▽文学好きの両親の影響で小説を読み漁り、大学時代はライブハウスや映画館で多くの時間を過ごす。
▽新卒で地方勤務、ベンチャー企業への転職失敗などを経て、会社員を続ける。
▽週末に横浜F・マリノスの試合を観に行くことが生きがい。

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