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20代の物書き見習い。自作の三題噺テーマからランダムで小説を書きます。虫食いだらけの稚…

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20代の物書き見習い。自作の三題噺テーマからランダムで小説を書きます。虫食いだらけの稚拙な作品,是非ともご覧くださいませ。

最近の記事

魔がヒもの 弐

「スゲー速ぇ」  新幹線は初めて乗った。揺れは全く感じないが,窓の外は驚くほど高速で流れていく。グレーの高層ビル群から青々とした景色に変わりつつあることはわかったが,眼前を直視しているとフラッシュを喰らったかのように酔ってきた。  まばたきを繰り返しながら青天をぼんやり眺めていると,眠気と共に昨夜の夢が脳を過った。耳にしわがれ声が響いた気がして,思わず震えが走る。 「ん? どうしたの秀二」  隣に腰かけた母が目ざとく気付き,聞いてくる。残念ながら親父は仕事で欠席だ。  俺は手

    • 魔がヒもの 壱

       夏の日差しが攻撃的な7月下旬。待ちに待った夏休みが始まった。 ◇  物心ついた時から,俺は雑多なビルが建ち並ぶ所謂“都会”で暮らしていた。幼少期の何年かは田舎に住んでいたそうだが,親父の転勤により故郷を離れることになったらしい。よくある話だ。俺には故郷の記憶は欠片も残ってないのだが,母が言うには“田舎のおばあちゃん家”を具現化したような場所らしい。何ともシンプルでありがたい。  中学の時に田舎へ引っ越した悪友からは,高校生になった今でも頻繁にメールを受ける。「やっぱり都

      • 霧雨の唄 伍

         アリサは一つ息を吐くと,指先を男の首へ当てた。白眼を剥き鼻血を垂れ流しているが,死んではいない。それでも鼻骨は確実に折れたはずだ。 「偉いね」  背後でケイの穏やかな声。振り返ると,その目は見慣れた優しいものに戻っていた。 「……神様が残酷な煽りをするもんだな」 「悪かったよ。アリサだから言えたんだ。今の君なら,怒りに任せて彼を殺すことはしないだろうと思っていた」  アリサは男から立ち上がると,ケイの目を鋭く見返した。 「ケイ。確認させて。わたしの姉が,龍の子だったのか?」

        • 霧雨の唄 肆

           篠突く雨が小雨となり,霧になる。  やがて雨粒が失せるとき,それは何を意味するか── ◇ (ケイの手,冷たい……)  真っ先に浮かんだ言葉はそれだった。先程まで背に当てられていた掌は,じんわりと染みるように温かく,ケイの「体温が下がることがあまり無い」という言葉を純粋に信じていた。  今アリサの手に触れている指先は,冷えきった肌にさえ突き刺さるように冷たく,混乱しきったアリサの頭を急激に冷ました。一粒の雨水がもたらす波紋のように,緩やかにアリサの胸に冷静さが広がる。冷た

        魔がヒもの 弐

          霧雨の唄 参

           篠突く雨に見舞われた一週間後のことだった。アリサは小高い山の中で,一人荒く息をついていた。肥えた女の死体を二時間かけてようやく埋めたところなのだ。10歳の少女がするべき仕事ではないが,あいにくケイは次のターゲットを隣の村まで追っている。  アリサは大木に背中を預け,その場に座り込んだ。 「ケイのやつ……仕事の組み合わせは考えろって言ってるのに……」  今頃獲物を仕留めたであろう少年を思う。ケイは15歳だが,アリサが知るどの大人よりも聡明で,殺し屋でありながら見せる眼差しは温

          霧雨の唄 参

          霧雨の唄 弐

          「ケイ,見ろ! すごい雨だぞ!」  アリサの弾んだ声と鋭い平手に,ケイはたまらず目を覚ます。昨夜は眠りが浅かったのか,まぶたの奥に霧がかかったようだ。ケイは半目のまま,自分を覗き込むアリサの顔をぼんやりと見つめる。 「……雨なんて毎日降ってるよ。昨日だって降ってたし」 「それは知ってる! そうじゃなくて,久々の篠突く雨なんだ! 音が聞こえないか?」  どれほど雨音が恋しかったのか。アリサのはしゃぎようは,彼女が頑なに拒む子供のそれだった。確かに耳を澄まさなくとも,あばら屋を打

          霧雨の唄 弐

          霧雨の唄 壱

           曇天を見上げ,殺し屋の少女は願う。  雨よ,どうかこのまま止んでくれるな──。 ◇  男の脈が確実に止まったことを確認し,アリサは立ち上がる。咄嗟に身を低くしたお陰で汚れた血飛沫を浴びずに済んだ。  上着のボタンに模したスイッチを押し,チョーカーに模したマイクに向けて語りかける。 「ケイ,終わったぞ」  すぐさま飄々とした声が応えた。 「はいはい,お疲れさん。こっちも終わったところ。どこかで落ち合うかい?」 「いや,いい。今日の服装は並んで歩くには違和感がある」 「それ

          霧雨の唄 壱

          ダイヤモンドは語る 肆

           私は屈んで,ハヤカワ シュンに笑顔を向けた。 「こんにちは,シュンくん」  本人もまさか会えるとは思っていなかったのだろう。目を黒々と見開き,ただ頷くだけだった。 「そこのスーパーに車で来てるのよね?」 「うん」 「少し,お姉ちゃんとお話しできる?」 「……うん」  口角を足らし,深くうつ向く。賢い子供だ。これから何の話が始まるのか理解しているのだろう。ここへやって来たこと自体,彼がどんな思いを抱えているのか物語っている。 「5月に,車に轢かれそうになった?」  単刀直入に

          ダイヤモンドは語る 肆

          ダイヤモンドは語る 参

           手術室前の空気は,身じろぎ一つが耳障りなほど重かった。長椅子に腰かけた私と,宗一の母,美幸,父の誠二郎。病院に飛び込んでから果たしてどれ程時間が経ったのかまるで分からない。  誠二郎の話によれば,事故が起きたのは私に連絡が届いた30分ほど前。宗一家族が住む公営住宅の前で発生したらしい。宗一は11:30頃,待ち合わせ場所であるキリンの公園へ向かうべく家を出た。確かに,宗一の家から私の家へは徒歩で30分,車でも15分ほどはかかる。その直後,車の急ブレーキが鳴り響き,飛び出してみ

          ダイヤモンドは語る 参

          ダイヤモンドは語る 弐

           二週間後のことだった。  宗一の昇格祝いとマグカップの礼を兼ね,昼間から焼き肉でも奢ってやろうと,今度は私が宗一を誘った。昨晩は電話越しでも分かるほど飛び跳ねて喜んでいたが,あれで25歳なのだから不思議なものだ。  私は待ち合わせ場所である公園の入り口に立っていた。私が住むアパートから徒歩で近く,キリンを象った長い滑り台が目を引く公園だ。初めて私の部屋に招いた日から,宗一はこの滑り台をいたく気に入り,何かあるとこの公園を待ち合わせ場所に指定する。先々週カフェで直接落ち合おう

          ダイヤモンドは語る 弐

          ダイヤモンドは語る 壱

          「誕生日おめでとう」  日曜日の午前。早くから私を呼び出した恋人の宗一は,席に着くなり照れ臭そうにそう言った。軽やかなジャズが満ちるカフェの一角で,宗一が箱を差し出す。白の木箱に黒のリボンという,私好みのシックな外見だ。  自分の誕生日に朝早くから「会いたい」などと連絡を寄越すものだから,図々しいながらも期待はしていた。素直に嬉しいのだが,誕生日プレゼントを渡すことなど初めてではないのに,なぜそこまで照れているのか。 「やっぱりね。何かくれると思ったわ。ありがとう」 「うん。

          ダイヤモンドは語る 壱