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株式会社ガンダム 「下手なPV」なのに作り込みが逆にすごい件

先日Twitterにも投稿された、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』に登場する架空の会社・株式会社ガンダムのPV

すでに指摘のある通り、このPVが「シロートが作った映像」を崇高に再現している。ここは映像屋として、この映像がなぜ下手なものに見えるか言語化してまとめてみようと思う。
また、この際にこの映像でシロートが作ったとしてあり得ない箇所もあったので、空想科学読本的にそこについても解説したい。

フレームイン必要はなくない……?

構成では、最初1.5秒のカラ画(誰もいない状態)が映し出され、登場人物であるスレッタ・マーキュリーが上手からフレームインしてくるところから始まります。

そもそも、PVやCMで最もほしいもの。それは時間になります
限られた時間の中で出来る限り会社の魅力を伝える必要があり、こうしたフレームインしてくる時間は後の歌って、踊って会社の魅力を伝えようとするコンセプトでは結構邪魔になりがちです。ですから、最初のカラ画とフレームインはロスタイムになっているわけですね

フレームインするスレッタ・マーキュリー
©SOTSU・SUNRISRE・MBS

実は足音がついてるのは、これフィクション的表現です

そして、このフレームインで空想科学読本的あり得ないポイントが1つ。
それが映像に足音がついていること

アニメには、効果音を付ける専門職・音響効果さんとその指示役の音響監督さんがいるわけですが、スレッタ・マーキュリーに足音を付けたんだと思うんですね。アニメは実写の映画やドラマと違って現地の音というものが存在しないので、音を付けないと無音になってしまいます。

だからここで、フレームインをしてくることを分かりやすくするために、芝生の上を歩く効果音を入れたのだと思うのですが、実際こういったシロート現場にあるような機材ではそんな足音を録ることは困難を極めます。

だからこういう現地の音をイメージしたものを付けるのであれば、
「現地の音が風に吹かれてしまって何を言っているか伝わらない」
って表現も出来たんじゃないかなっても思いますし、それが一つの選択肢でもあります。
ただ、ここは各音セクションの方々や制作サイドの意向次第なので、正解はありません。私の考えも一つの正解に近い回答かもしれませんし、間違いに近い回答かもしれません。

エフェクトもいらないんじゃ……?

カラ画の時点から気になることが、いくつか存在します。
まず皆さんお気づきの謎のハートや星が上がってくるエフェクト
シロートあるあるで、何かエフェクトや効果を入れたがることの典型例だと思います。
(なんで入れたがってしまうんでしょうね……。気持ちはわかるんですが、言語化出来ない。)

カラ画の状態のエフェクト
©SOTSU・SUNRISRE・MBS

これ実は編集でやるときにAdobe PremiereやAdobe After Effectsといったソフトでやろうとすると、慣れてないほぼ編集マンとしてはシロートに近い自分的には結構面倒だと思います。
実はこのエフェクトも途中カットでハート、音符と切り替わっていて、割と大変そうだなぁと。ここも空想科学読本的指摘です。

左側に木の映り込み/橋のバランス/建造物が陰になっている

めちゃくちゃ分かりにくいのですが、実は下手側に黒い木の映り込みをしています。出来るならない方がいいですし、このままでは映像はきれいではありませんよね。
CMやMVでずっと左側に不自然に何か写り込んでるとか、幽霊や怪異でもない限り、仕方ないで済まさないはずです。こういうところからもシロートっぽさが出ています。……がちょっと分かりにくい。
また、背景にある陸橋のバランスもわるいでしょう。上手の柱の盛り上がりが盛り上がらず切れてしまっています。
/\の山が左右対称になるように、上手にカメラをズラして撮ったほうが、背景としてはまず写り込んだ木を消すことが出来ますし、一石二鳥じゃないかなと。
また、バックの建造物が完全に黒い影になっている点も勿体無いでしょう。この建造物も映したいなら、ちゃんと映せる時間に撮るのが適切ですし、撮れないならば、美しい山々を強調したカットにすれば少しはいい画になると思います。

ガンダムのクロマキーが抜けていない

映像合成の技術の中に「クロマキー合成」というものがあります。昨今ではZoomが発展したことで伝わりやすくなっていると思いますが、要するにこれは人物やモノを撮っている映像の背景を変えることに使われる技術です。

今回このCMで使われているのは、ガンダムを緑の背景の前に立たせるなりして、その緑の背景を編集で消して、スレッタ・マーキュリーと一緒に居るように見せているわけです。

ガンダムをBSに拡大したスクショ
©SOTSU・SUNRISRE・MBS

ですが、このスクリーンショットでも判別できると思いますが、よくガンダムを見ると背中に緑のオーラを背負っていることがわかります
これは、クロマキーを合成するときにちゃんと「キーが抜けていない状態」。つまり、緑を抜くセッティングが上手くできていないことを示します。
この原因は幾つか考えられますが、実際どのような手法で抜いたか(緑を消したか)、わからないため今回は割愛します。これも完全にシロートあるあるです。

立ち位置を守らない? スレッタ・マーキュリー そのテイクをOKしてしまう監督

フレームインして、スレッタ・マーキュリーはバミ位置(立ち位置)に立とうとしますが、ここで彼女は場所を上手の位置にズレます(05秒~)。
そもそも立ち位置を決めていれば、ここでリテイクすればいいのですが、監督はここでOKを出してしまったのでしょう。そのまま使われています。
しかも、この後に横にズレたからなのか、編集がされていて、カットが変わります。ちゃんとワンカットでやってほしいですね……。
そもそも立ち位置きまってるんでしょうか? ってのも疑問で、この後でも立ち位置が微妙にずれてることがあります。

上手にズレるスレッタ・マーキュリー
©SOTSU・SUNRISRE・MBS

また、この上手にズレるときのアニメーションが個人的にはすごいな、と。
ちゃんと彼女の重心が地面あるような動きをしていて、しっかりと演出するためのアニメーションは手がこめられていることがわかります。

交通システムの映り込み

そして、この横にズレるときに下手から鉄道のような交通システムが背景に映り込みます(04秒~、正直3話までしか見れてないからこれげ正確に何かわからん……。)。
この交通手段がこの後何度も写り込んでいて、カットごとに映り込むため、背景の様子が異なって「画が繋がらない」現象が起きています。要するにカットが切り替わったときにこの交通手段がいる場所がバラバラになるんですね。映像を知っている人などからすると「画が繋がらなくて気持ち悪い」って業界用語を使われることでしょう。
あと21秒ぐらいによく見ると、高架下にも何かが通っていることがわかります。細かい。

カット替わりで表情と時間とサイズ、カメラ位置が一貫していない

また、画が繋がっていないことはこのPVでは結構あります。
カットごとにスレッタ・マーキュリーの表情が異なるんですね。時系列順に見ていくとこんな感じ。

CUT1
CUT2
CUT3
CUT4
CUT5
スレッタ・マーキュリーと背景の変化
©SOTSU・SUNRISRE・MBS

表情としては「困惑→困惑しながら歌う→受け入れ→疲労→疲労困憊ガンギマリ学生」といったところでしょうか、ここは作画班の細かい表情での感情描写も詰まっています。
また、映像の時系列に並べたことで、この撮影が長時間映像の時系列順に撮影されたものなのだろうと考察できます。

さらには、細かい話ですが、このPVはカットごとに、スレッタ・マーキュリーにどれくらいズームしているか、その比率が変化しています
その証拠として、ズボンに注目して見比べてみてください。動いているとはいえ、どれくらいズボンが見えているかが若干異なります。
スクリーンショットを撮るときに頭の空間をある程度一定に保つことで分かりやすくしたつもりです。
このズボンが見える面積が少ないと、ズームしている状態。
見える面積が多いと、引いた状態になります。

また、先ほど書いた木の映り込みも統一されてないので、これはカメラの置き位置ですらも統一出来ていないのだと思います。

本来こういったダンスではカットが変わるなら、表情、背景、サイズ共にある程度一定の方が画が繋がりやすく、編集がしやすいはずです。

ヤギの映り込み

09秒~の歌いだしの際には、ヤギが下手から登場します。電車にもよろしく写り込んでしまっているわけです。さすがに気づくじゃろと思うんですが、これで監督はOKを出していますね……。ご令嬢……?

ヤギの映り込み
©SOTSU・SUNRISRE・MBS
ヤギの消失(赤枠は筆者追記)
©SOTSU・SUNRISRE・MBS

また、21秒から22秒にかけてはヤギが消失。これはおそらく映像合成をする際にスレッタ・マーキュリーが羊とガンダムの映った映像に後乗せで合成されていることを指すのだと思います。
レイヤーがヤギとガンダムよりも上の層にいるから、合成のせいでヤギが消えるわけです。ただ、この仕組みでいくと、芝生が緑でグリーンバックと色が被ってしま訳で、ガンダムのクロマキーが一部でも出来ているのか謎。ちょっと説明がつかない部分がある気がします……。

ガンダム、浮く

26秒などでは、よくガンダムを見ると浮いています
これは編集あるあるなのですが、意図せずオブジェクトを動かしてしまうことがあるので、多分そういう系の編集ミスかなと思うんですが、じゃあこれガンダムがどのレイヤーにいるんだよ問題が再燃しますね……。

浮いたガンダム(26~)
©SOTSU・SUNRISRE・MBS

手をパタパタしたり、キョロキョロするスレッタ

ずっと落ち着きがない、スレッタ・マーキュリー。
実は表情の中でもそれが表れています。

上見るな(09~)
下手見るな(12~)
手を動かすな(15~)
©SOTSU・SUNRISRE・MBS

目をキョロキョロと動かしたり、手をパタパタさせたりと、細かい表情描写の変化が見られます。

ガンダムとの合成が色調節されていない

本来、プロの映像では色を適正なものに合わせるということを行います。
カメラは個体ごとに色が若干異なっており、これを合わせる必要があります。これを色調節などというのですが、この映像ではその調整がされていないことが分かります。

明るさに差がある様子(28~)
©SOTSU・SUNRISRE・MBS

ガンダムとスレッタ・マーキュリーの明るさは見ての通り全く異なり、スレッタはあまりに暗いために表情を読み取りにくくなっています。

紙吹雪流すならもっと尺をとってもいい

紙吹雪が最後の決めポーズで出るんですが、この紙吹雪があまり落ちないままカットが切り替わっています。
ここはもう少しコンマ秒動かないだけで紙吹雪を落とすことが出来て、紙吹雪に意味が持たせられます。

決めポーズ(32~)
©SOTSU・SUNRISRE・MBS

現地音をカットし忘れ

映像編集時に33秒からのロゴマークが出た後に現地の音をカットし忘れたのか、ヤギの泣き声などがしています。これはロゴマークの前に映像をカットすることで解決ができます。
また、めちゃくちゃ細かい話ですが、このナレーションの部分に音響効果さんが意図的に音質の悪い環境で録ったときにのってしまう種類の音声ノイズがのせています。これはすごいこだわり。

ボーカルについて

まぁあまり突っ込んでも仕方ないですが、ボーカルについて。
ボーカルは今は一部を録りなおしして、それをつなぎ合わせて1つの作品にすることが普通になっています。
ですから、15秒くらいに声がかれているのは、ちゃんとした方法で録ればあり得ないわけです。
また、ボーカルを各個人個別で録ったものを重ねることもできるので、ボーカルがずれて歌うということもなくすことができます。

最後にちょっと褒めたい

このように、このPVは様々な点において映像/音の技術に色々工夫できる余地があります。ただ、1つ褒めるべきところがあって、映像の上に部に半透化したロゴと社名を入れていること。
これをすることで、謎の歌が流れてもどういうCMなのかわかります。そこが救いなのかなと思います。
(まぁ最後のロゴが表示されてるなら上のレイヤーは非表示にしてしまってもいいかなと思います。)


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