【うつ闘病記】地宙人、家を買う - 06_みなさんのおかげです

 ローンは組めるぞ、とはなったものの、購入額の総額の何割かを超えると利子を多く支払う必要があることがわかった。月々の生活を考えるとこれは痛い。いわゆる頭金を用意した方がよいという話になった。
 そこでボクとピンちゃんの両親に相談することにした。すると、お互いの両親からまとまった金額をお祝いとしてもらうことができた。蓋をあけてみると、うちにも多少の蓄えがあることが分かった(ピンちゃんも黙ってるなんてずるいね)。これで、暮らし始めても生活は苦しくない(はずだった)。

 話はトントン拍子で進んでいったのだが、最初の方にちょっとした事件があった。
 「買います」という意思表示のため、手付金を不動産屋のヌキトリさんに託したのだが、後日開封すると数万円足らないというのだ。お金を用意して封にいれたのはピンちゃんだった。
 ピンちゃんは自分の仕事には絶対の自信をもっていて、絶対に金額は間違っていないと主張した。しかしヌキトリさんも預かってから一度も開けずに金庫にしまっていたと譲らない。
 真実は分からない以上、ボクとしてはピンちゃんの言うことを信じないわけにはいかないので(夫婦ならそうですよね)、足らない分は絶対に払わないと主張した。ボクとしても頑として譲らないので(仕事では直ぐ譲るのにお客になると怖いですね)、ヌキトリさんが個人的に補填することで、話の収集はついた。
 真実はともあれ、ピンちゃんサイド(知人友人)ではヌキトリさんが自分のお小遣いに抜き取ったのだという結論に至っている(ボクは……何ともいえません)。
 この事件以降、もともと子育てうつ状態(後に女性特有のPMSという症状の影響であることがわかるのだが)だったピンちゃんは意気消沈ノイローゼ気味になってしまい、マイホーム購入の手続きには基本的に関与しない方針となった(かわいそうに)。
 以後、ボクだけでは心もとないということで、ボクの両親が各種手続きに同席してくれた。といっても、結果的にはローンさえ組めれば、ハイハイと返事と印鑑だけ押していれば家なんて買えるようだった(なんか怖いですね)。ちなみに、保険関係はボクがタバコを吸っていることや近々の健康診断の結果が悪かった(というか入社一年目から悪い)せいで、割高になってしまったのは悔やまれる(禁煙しておくんだった。まさに百害あって一理無しですね)。

 家の仕様を決める(まだ建ってなかったので)にあたって印象に残る出来事がある。
 一つは庭木について。
 図らずも僕たちが買おうとする家には小さな庭が着いていた。さらに角地を選ぶことができたのでL字型で玄関スペースを含めて、庭木を植えられるスペースがあるのだ。それまで、そんなに庭木には興味がなかったボクが(ほとんどの人が普通興味が無いと思う)、それを知ったとたん、なにかに取り付かれたように何を植えようか延々と考え出したのだ。これも仕事がうまくいっていないことの反動であったと思う。
 ところがピンちゃんは大反対。
「植物なんて植えないで。サッパリした外観にしたいのよ」
「でも、緑の有る暮らしって良いじゃない。夢だったんだよ(嘘)。頼むよ」
「……仕方ないわね。でもシンプルにまとめること。あと、予算はあまりありませんからね」
「うん!ありがとう!!」
 こういったやり取りがあり、なんとか少しの植物を植えてよいことになった(やった!)。それからというもの、他人の家の庭や玄関先を観察し、インターネットや図書館、NHKの『趣味の園芸』などをみて、どんな植物をどのように植えるかの研究が始まった。
 ある終電帰りの晩に、午前一時過ぎに家に帰ってきて遅い晩御飯を食べ、意識朦朧とするなか家の外観図に色鉛筆で庭木を配置したデザイン図を書いていた。朝起きてそれを見たピンちゃんは、その外観図のクオリティの高さに驚き、予算を少し上げてくれたほどだった(やったね)。
 もう一つは家の購入特典について
 家の購入特典(国の制度?)として、数十万円分の内装・外装工事のボーナスがあり、項目のなかから選択してくれという話になった。ボクは生まれてからずっとマンション暮らしであったので、屋根裏収納が欲しかった(ヌキトリさんもそれが一番お得だと言っていた)。しかし、ピンちゃんは窓サッシやカーテンレールなどをつけてもらおうと主張した(最初は付いてないんです)。ボクは意固地になって屋根裏収納を欲しがったが、義母から「私の家(屋根裏収納付き)が近くにあるんだから荷物の収納には困らないでしょう。それより、あなたたちには窓サッシを買えるだけの蓄えがあるのかしら?」と言われ、「蓄え、ありません」とグゥの音もでなかった。荒れたボクは選択する項目が書かれた紙に黒いペンで「ツマラナイ、ツマラナイ……」と呪いのように書き荒らした。それを見たピンちゃんからは「ヌキトリさんに洗脳されている!しっかりしなさい!」と言われ、「ボクは何をしてたんだ。ピンちゃんや義母さんの言うとおりじゃないか」と、ハッと我に返った気がした。結局、窓サッシセットを発注することにした(今ではそうして良かったと心から思う。だって、窓サッシとカーテンの無い家ってなんか嫌ですよね)。

 そうこうしているうちに、家はどんどん建っていった。注文住宅や鉄筋コンクリートの家と違って、建売の戸建ての家はパズルをやるみたいにパーツパーツを組み合わせてつくるのであっという間に完成してしまう(それで安い、強度もあるというんだから嬉しい)。とはいえ、家が建設中に雨が降ったりしたら、欠陥住宅になってしまうのではないかとヒヤヒヤしたものだ。
 会社の先輩からは手抜き工事されないように、飲み物の差し入れをするようアドバイスをもらったが恥ずかしかったこと面倒くさかったことから、実行には移さなかった。

 二○一五年、秋。満を持してマイホームが完成した。
 引渡し前のチェックで、下駄箱入れの棚(よく玄関で置物を置いたりする場所)が無いことが分かった。ここに、飼っているカブトニオイガメや金魚の水槽を置こうとしていたので、大ショックであった。また、コンセントの位置や照明スイッチの位置なども想像とは違ったし、動線も「これはちょっと……」という箇所も無くはなかった。しかし、あとはこれといった不良はなく、汚れが多少あったのでその点は指摘して引渡し時には補修してもらうことになった。しかし、相場からしたら安かったのにはやはり理由があって、建具なんかはオモチャのようであった。が、住めば都。極論、雨風さえしのげれば良いのだ。そうなのだ。

 ピンちゃんは引越し業者とも揉めていたが(なにせ喧嘩っ早い)、仕事が忙しく全く引越しの準備ができないボクの分まで精力的に頑張ってくれた。その甲斐あって、引越し自体は至極順調に進んでいって、ガス、電気、水道、インターネットの準備も万全であり、ピンちゃんの底力を思い知った。
 一方で、以前住んでいたマンションは管理会社の担当者(かなり巨漢だったのでビックリした)立会いのもと引き払った(以前にカビだらけにしたことがあって、修繕費をとられるのではないかとオッカナビックリであったが、特に指摘されなかった)。さらば、苦情マンション。酷い家だったよ。

 さて、このようにして新しい夢のマイホームを手にして、新しい生活を始めようとボクも、ボクの周りの人々もワクワクウキウキとした幸せな気分に漬かっていた。これから幸せな未来がまっているのだと、この時は、誰一人疑わなかったのである。


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