見出し画像

未来日記『パティスリー☆ハウスマウスの思い出』

 2020年9月15日(火) 晴れのち曇り

 ずっと書いていない日記を今日からまた書きます。

 コロナウイルスで色々大変なことになったのに、それが収まったと思ったら今回の大地震。周りに景色がすっかり変わってしまった。街の様子と同じように人の心もすさんでしまった。自分だけは、以前と変わらないでいようとすればするほどつらくなる。本当に嫌になってしまう。気が滅入るどころじゃない。気が変になってしまう。

 周りの人は、真剣な顔して辻褄の合わない変なことを言う。半年前だったら、悪ふざけに過ぎなかったジョークが、今では命すら落としかねない犯罪行為となってしまう。何が正しくて、何が正しくないのか、分からなくなってしまった。

 街の景色が変わる以上に、人々の心の中が変わってしまった。でも、私だけは変わりたくない。絶対に変わらない。今日、「パティスリー☆ハウスマウス」の荒れ果てた様子を見て改めて、思い出を残して行こうと思った。記憶をなくさないでいようと思った。
 それで日記をまた書くことにしました。

 「パティスリー☆ハウスマウス」ハウスマウスは、ハツカネズミのこと。メニューは、このハツカネズミの形をしたスイーツだけ。それが、手のひらにのせられるくらいの大きさですごく可愛い。特にピンクの目が小さく何とも言えない。見ているだけでも可愛いのに、食べると、ものすごく美味しい。それが、ショーケースの中に、等間隔できちんと並べられている姿は、とってもおしゃれです。
味は3種類。ホワイトとチョコとミックス。ホワイトは、表面がホワイトチョコレートクリームで覆われていて、中がバニラエッセンスをたっぷり染み込ませたスポンジが二層で入っている。その真ん中に、イチゴを分厚くスライスしたものと生クリームが入っているので、口に入れるとそれが、混ざり合って何とも言えずに美味しい。

 私の中で、このホワイトは今まで食べたスーツの中で、見た目が可愛いのと美味しいのとで断トツ 一番です。こうやって書いているだけで、また食べたくなります。
ちなみに、チョコは、表面がミルクチョコレートクリームで、中がラム酒をたっぷり染み込ませた二層のスポンジ。間にはキューイのスライスと生クリーム。これは、大人の味。
 ミックスは、食べたことないので分かりません。
 これを、「ホワイト5匹、チョコ3匹」とか言って注文します。
1個380円で、大きさに割に高いのですが、みんな一度にたくさん買っていきます。私でも、最低3個、普段は5個です。20~30個は買ってゆくのはザラでした。

 「パティスリー☆ハウスマウス」が閉店したのは、5月末でした。元々定休日は、火、木、金の3日間だったのが、いつの間にか月曜日も休みようになり、それからすぐに土日も休むようになって、水曜日だけになりました。5月の最終週の水曜日。開店を待つ人の長蛇の列が出来ていました。でも、開店の10時になっても店は開きません。シャッターは降りたままです。結局、誰も何も説明のないまま店は、二度と開かれませんでした。張り紙一つありませんでした。

 それから、DVDの早回しのように、くるくると世の中が変わって行きました。知らない法律が、いつの間にか一杯できていて、SNSも自由に使えなくて、今まで普通にしていたことが犯罪になったりするので、びくびくして生きて行かないといけなくなりました。不幸が満ちていて、幸福が後ろめたいものとなりました。正直に言うと、他人の不幸を喜ぶ人たちがいます。もちろん、人の死についても同様です。

 私は、変わりたくない。

「パティスリー☆ハウスマウス」のスイーツの味の記憶だけが、私の心の支えになりました。
あのとろけるような美味しさを覚えている限りは、私は私でいられる。そう信じる他はないのです。そう思って、今日お店があった場所に行きました。

 行かない方が良かった。たった数ヶ月前まであったあのお店は、見るも無残に朽ち果てていました。破れたシャッターからのぞく荒れ果てた店内は、思い出の破片が散らばっていて目をそむけたくなりました。

 スイーツの味の記憶で、私は私であり続けたい。その思いで、今日からまた日記をつけることにしました。


サポート宜しくお願いします。