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高校入試研究⑨ 2014年度 慶應女子高校 国語 大問3

はじめに

今回は、慶應女子の国語です。女子校の最難関です。国語は非常に良問の多い高校で、同じ国語の良問を出す開成とは少し違います。全体の要旨・主題を読み取ることが要求される開成、一方で慶應女子の国語は細部の精密な解釈が要求されます。また、文学史や語彙など知識も非常に細かいところまで押さえておく必要があります。
本記事では、2014年度の評論を解説します。

出典情報

出典はこちら。道徳や倫理の起源を脳科学や進化心理学などの観点から説明しています。最近は難関高校入試でもテーマになることの多い倫理についての文章です。
以下の記事もぜひご覧ください。


設問解説

問一

空所補充問題。
解答は「試金石」となるように「試金」を選ぶ。これは落とせない。
空所補充は空所を含む一文から情報を集め、どのような意味に言葉が入るかという「解答の方向性」を定めることを徹底しましょう。
「試金石」は、「それによって本当の値打ちがわかるものごと」という意味。もとは、金などの貴金属の鑑定を行う特殊な石のことです。

問二

これも空所補充。
解説は省略します。慶應女子に合格したいのなら、絶対に落とせないレベル。

問三

傍線部Aについて、倫理学における実証科学とはどのようなものですか、説明しなさい。

設問解説
内容説明問題。実証科学の定義を倫理学の文脈に当てはめる。

傍線部分析
傍線部を含む一文は以下の通り。

近年になって社会心理学や進化理論の観点から、人間の倫理観の研究が進み、実証科学(emprical science)としての倫理学の研究が始まりつつある。

「近年になって」とあるので、それまでの伝統的な倫理観とは異なるということがわかる。一見すると「倫理」と「科学」は相容れないように思えるが、そこに共通点を見出す。

方針
①「実証科学」の説明
②①を倫理学に当てはめる

解答要素
①傍線部直後にこのようにある。

実証科学というのは、理論を実際の経験や観察と照らし合わせて検証することにより、知見を構成していくという科学である。哲学と実証科学の違いは、まさにここにある。科学的手法と一般にいわれるものは、仮説を実験データと照らし合わせることで、主張の真偽を検証する。実験データと比較することで、仮説や主張も更新され、新たな「物の見方」を生み出すことができる。

②①を倫理学に当てはめて説明をしていく。次の段落には、このようにある。

実証科学としての倫理学に、ここでいう実験データを提供するのが、脳科学である。人間が善悪の判断をするときに、どのような心理作用をもとに脳の中で判断をしているのか、どのような脳の領域が倫理的判断に関わっているのか。そんなことが今や脳科学の成果として提供できつつある。

①②を整理すると、
A 倫理学の理論や仮説を脳科学のデータと照らし合わせる(比較する)→検証
B 新たな「物の見方」(=知見)を生み出す/倫理的行動を理解する

解答

倫理学の仮説を脳科学のデータと比較検証し、新たな知見を生み出すもの。

問四

傍線部Bについて、筆者はこの設定のどこにジレンマを見出していますか、説明しなさい。

設問分析
内容説明。「ジレンマ」の意味をおさえる。

傍線部分析
傍線部を含む一文は以下の通り。

「老齢で病気の親を救える薬は一つしかない。しかし、目の前の瀕死の若者もその薬で助けられる。人間として子として、はたしてどちらを助けるべきか」などのように複数の倫理規範を同時に天秤にかけなければならないようなジレンマに陥った状況では、難しい判断が迫られる。

「」内が筆者がジレンマを見出している設定である。
整理すると、
⑴ 親は老齢で病気である
⑵ 目の前に瀕死の若者がいる
⑶ 薬が一つある→救えるのはどちらか一方
⑷ どちらを救うべきか=ジレンマ

方針
①「ジレンマ」の意味を確認
②①に傍線部の設定を当てはめる

解答要素
①「ジレンマ」は「二者択一を迫られて、どちらにすることもできない状態にあること。板挟み。」という意味である。
②A 二者の内容を明らかにする。この場合、「老齢で病気の親」と「目の前の瀕死の若者」である。
 B 「どちらにすることもできない」は「薬がひとつしかないため、どちらを救うか選択ができない」という状態である。
この「板挟み」の状態が「ジレンマ」なのである。
 C では、なぜ「板挟み」状態になるのか。つまり、「片方の命しか救えない」ことと「ジレンマに陥ること」の間に論理的な飛躍がある。この間を埋める。「複数の倫理規範を同時に天秤にかけなければならない」という部分から、「どちらか一方を選ぶことが困難である」ということがわかる。それではなぜ、「どちらか一方を選ぶことが困難」なのか。これは本文に直接書かれてはいないが、⑴この選択が「命」に関わることであるということ ⑵どちらかを選ぶということは「命に優劣をつける」ことであるということ ⑶それは簡単に判断できることではない ということがわかる。

解答

子として老齢で病気の親を救うのも、人間として目の前の瀕死の若者を救うのも、どちらを選択しても命に優劣をつけることになるため、同時に比較して、どちらか一方を選択するのが困難な点。

問五

傍線部Cとはどのようなことですか、説明しなさい。

設問分析
換言記述。傍線部を意味のまとまりごとに要素分割し、それぞれを説明する。必要があれば、不足情報(主語・目的語・条件・前提など)を補う。

傍線部分析
傍線部を含む一文(とその前文)は以下の通り。

そもそも、「人を殺してはいけない」というあたりまえに思えるような規範でさえ、数学のように証明することはできない。というのは、「善悪」という絶対的な概念には、何の前提もなしに論理で辿り着くことはできないからだ。つまり、究極的に、倫理には根拠はない。根拠がないのだから、倫理的価値観というのは意地悪な言い方をすると「フィクション」であるともいえる。

傍線部は「倫理的価値観というのは意地悪な言い方をすると「フィクション」である」の部分。要素分割すると、
A 倫理的価値観というのは
B 意地悪な言い方をすると
C 「フィクション」である
となる。

方針
A〜Cをそれぞれ本文を踏まえて説明する。

解答要素
A これは一見するとそのままでよさそう。ただB・Cの内容によっては説明を加える必要があるかも。
B 「意地悪な」と言っている以上、否定的な評価を下していることは明白。「意地悪」というのは「都合の悪い」という意味です。倫理的価値観の「都合の悪い」側面に言及しているのです。
C 「フィクション」には「」がついています。まずフィクションは「虚構」や「作り話」のこと。Bの説明を踏まえるとこの「フィクション」も否定的(皮肉)な意味で使われていると考えられる。ここでいう「フィクション」=虚構は、あくまで「」であり、信頼性のないものなのです。
A(再考)B・Cを踏まえると、「倫理的価値観」は少し説明が必要そう。傍線部を含む段落が、「そもそも、「人を殺してはいけない」というあたりまえに思えるような規範でさえ、数学のように証明することはできない。」とはじまっていることを考えると、「当然正しいとされる倫理的価値観も、実は信頼性のない物だ」という文脈であることがわかります。したがって、「倫理的価値観」は「当然正しいと思われる」という修飾語をつけると良いでしょう。

解答

当然正しいと思われる倫理的価値観も、あえて都合の悪い側面に言及すれば、信頼性に欠ける虚構にすぎないということ。

問六

指示語問題。指示語を含む一文を読み、①指示語の品詞の特定 ②主語述語や修飾語から内容を絞り込む ③端的に指し示している語句を探す ④その前後(③につながる語句)を使って説明を加える という4点を意識しましょう。
① 今回は名詞です。だから、書き抜くのは名詞。
② 「それ」=主語。述部は「進化の結果としての人間の脳の仕組みにある」
③ ①②を踏まえると、「根拠」が指示内容に当たる。
④ その前後を使うと、「現代の人間社会の倫理の根拠」となる。

問七

傍線部Eについて、筆者はこの理由をどのようなものと考えていますか、説明しなさい。

設問分析
理由説明。「個人個人の倫理に対する根本的な感じ方が違う」の理由を説明する。理由説明は、①傍線部を起点と終点に(主部述部・前提結論など)②起点の特徴を終点につながるように説明する の2点を意識しましょう。

傍線部分析
傍線部前後は以下の通り。

善悪の判断では、意見が食い違うような状況になると、どんなに言葉を尽くしてもお互いに納得のいく結論にたどりつかないことも多い。それはあたりまえだが、個人個人の倫理に対する根本的な感じ方が違うからである。そのような道徳感情の個人差もまた、脳の構造や遺伝子の違いとして解明されつつある。

傍線部は前文に対する理由。

方針
「個人個人の倫理に対する根本的な感じ方」の特徴を「違う」(=異なる/さまざまだ)につながるように説明する。

解答要素
傍線部の直前にこのようにあります。

倫理観が、脳によって生み出される主観的な価値観であることを認めれば、人によって脳の構造も微妙に違うのだから、善悪の感じ方に違いがあることも理解できる。

つまり、倫理は脳を根拠にしている→脳の構造は人によって違う→善悪の感じ方倫理も人によって違う

解答

倫理観の根拠は脳にあり、その構造は人によって異なるため、善悪の感じ方にも個人差が生まれるから。

問七

慶應女子お馴染みの品詞分解、通称分かち書き。注意が必要なのは助動詞の活用形。助動詞の活用形は公立レベルだと問われず、他に出題する学校も少ないため、対策が薄くなりがち。(まあこの問題で合否が決まることはほとんどないと想定されるが、、、)

今回は、

重要になってくるはずだ

を品詞分解する。
手順は、①文節わけ②単語わけ③品詞の判断④活用語(動詞・形容詞・形容動詞・助動詞)の活用形

①文節わけ
よく「ネ」をいれてきるなどと言われるが、個人的にはあまり正確な手法ではないので、推奨しない。基本は「自立語の前」で分けること。自立語は⑴一文節に必ず一つ⑵必ず文節の先頭に位置する という特徴を応用する。
文節に分けると、

重要に / なって / くる / はずだ

となる。

②単語わけ
各文節内でこれ以上分けられるかどうか=付属語(助詞・助動詞)がついていないかを見極める。

重要に / なっ / て / くる / はず / だ

③品詞の判断+④活用形

⑴「重要に」は形容動詞。活用形は連用形。基本形は「重要だ」
⑵「なっ」は動詞。活用形は連用形。動詞の活用形は後続要素をおさえる。基本形は「なる」
⑶「て」は助詞。今回は関係ないが、前の「なっ」後ろの「くる」=補助動詞を繋いで「補助の関係」を作るので、接続助詞
⑷「くる」は動詞。形から終止形か連体形であると絞り込める。終止形は後ろに句点、引用の「と」、終助詞などが主に接続する。「はず」はそのどれでもないことを踏まえると、これは連体形だと判断できる。
⑸「はず」は名詞。ここは判断に悩むかもしれない。⑷が分かれば問題ない。もし、⑷が判断できなければ、後ろの「だ」に注目する。「だ」は断定の助動詞で、主に名詞に接続する。と考えると、これは名詞だと判断できる。
⑹ 「だ」は助動詞。句点があるので終止形。

おわりに

慶女らしい、丁寧な良問でした。開成と違って一問一問はシンプルですが、基本的な読解力・典型問題への考察力が高次元で求められます。飛躍を見つけて埋めたり、比喩や「」を解釈したり、細部を丁寧に掴むことが慶女の国語では必要になります。丁寧に深く読み、再現可能な解答プロセスを常に辿ることを意識しましょう。
長くなってしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。
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