岸辺露伴は靡かない

私はつい最近まで、「ジョジョの奇妙な冒険」を、"絵が苦手だから"という理由で読んだことはなかった。たぶん、こういう人はほかにも居ると思う。

しかし2020年12月、NHKで放送された、高橋一生さん演じるドラマ「岸辺露伴は動かない」を観てから、そのことをとても後悔した。

「なぜ今までそんなしょうもない理由で見ていなかったんだッッッ!」
まさにジョジョの登場人物ばりに叫んでいたと思う。

それから、アニメをNetflixですべて観て、岸辺露伴シリーズの漫画を買い、ついに漫画画集「岸辺露伴ルーヴルへ行く」を手に入れた。

その興奮冷めやらぬままに、筆を進めている。

岸辺露伴という男

岸辺露伴は漫画家だ。スタンド能力で人を「本」にして、その人物の「人生」を文字で読むことができる。
そして、読んだ内容を漫画にしている。（それで良いのか......?）

露伴先生は、作品のリアリティを何より重視し、創作のためなら自ら様々な体験をしなければならない、という信念を持っている。性格は強引で我儘、自分が一番と思っているが、作品に対して一途であり、ただ「読んでもらいたい」という気持ちが強く、金や地位や名声には興味がない。

そのため、漫画のネタのためなら破産さえ厭わない。（「岸辺露伴は動かない」の「六壁坂」では、妖怪伝説の取材のため山を買ったが、土地価格が値崩れして二束三文になり、原稿料を前借りしている)


私は露伴先生の、いい意味で"大人気ないところ"がたまらない、と思う。言い換えれば子供のように純粋である。しかし創作には本来、そういう純粋さが必要のなのかもしれない。

ルーヴル美術館プロジェクト

「岸辺露伴ルーヴルへ行く」は2009年、フランス・パリのルーヴル美術館でのテーマ企画展「小さなデッサン展—漫画の世界でルーヴルを—」の、「BD（バンド・デジネ/漫画）プロジェクト」第5弾作品として、作者である荒木飛呂彦先生が、フルカラーで書き下ろしたものだそう。

す、すごすぎる……
もはや、ひとつのアート。

対談のきっかけを作った新聞社を通じて、ルーヴルからオファーが舞い込んだという。ルーヴルからオファーされるなんて、まさに文字通り、世界の荒木飛呂彦だ。

ちなみに、「BD(バンド・デジネ)」は漫画のフランス語訳かというと、そうではないらしい。日本語の漫画とは少し性質が異なり、ジャンルが幅広く、アートに近い。それに比べて、日本の漫画はエンターテイメントの色が強い。
荒木先生は、エンターテイメントであることにこだわった。
なので、ルーヴル美術館のプロジェクトでありながら、日本の漫画文化を強く感じられる仕上がりになっている。

露伴とルーヴル

物語は杜王町、露伴の祖母が営む元旅館アパートから始まる。露伴は学生時代の夏休み、2ヶ月ほど漫画を描くために、そのアパートで過ごすことになる。そこの入居者、藤倉奈々瀬から、この世でもっとも黒く、最も邪悪な絵の存在を聞かされる———。

奈々瀬は、露伴の初恋の人だそうだ。独特すぎて恋愛から程遠いから、「露伴先生もちゃんと人間だったんだな……(?)」と、当たり前の感想を抱いてしまった。
露伴先生だったら、恋人や婚約者でも、漫画のためにすごい観察しそう。そしてばっちりネタにしそう。

その絵は現在、ルーヴル美術館にあるという。奈々瀬は後に失踪し、露伴は漫画家としてデビューしたのち、仕事に夢中になっていたので、絵や奈々瀬のことは忘れていた。
しかし、27歳になったある日、世間話の最中に思い出し、絵を見るためにルーヴル美術館を訪れる。

ルーヴル美術館には実に、35万点以上の作品があるが、さすがに「呪いの絵画」と呼ばれるものはないらしい。
とはいえ、それだけの貯蔵数なのだから、"ひょっとしたらある"のではないか、と思わせるドキドキ感があった。

美術館に佇む露伴の描写はカッコよくて、スタイリッシュだった。そういえば、雑誌SPURでの企画「岸辺露伴 グッチへ行く」でもハイブランドをバッチリ着こなしていた。ジョジョの中でもずば抜けて、アートやファッションとの親和性が高い気がする。素晴らしい。

食わず嫌いで人生損してるかも

絵が苦手で始まったけど、キャラクターに魅せられて、物語が面白すぎて、シリーズ全体が好きになった。あんなに食わず嫌いしてたのに、本当に不思議だ。好きのパワーは凄い。

食わず嫌いしていたら、人生損するな。何事も、まずは経験!とおもってやってみたら、意外とのめり込んでしまって、めちゃくちゃ詳しくなる、みたいなことはよくあるもんね。

なにより、荒木先生が天才なのだけれど。

ドラマ「岸辺露伴は動かない」は2021年12月、続編が決定している。

岸辺露伴は動かない

それに続き、アニメ「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」も2021年12月に放送開始である。12月、凄すぎる。

人類皆、必見ッッッッッッッッ‼︎‼︎