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オオキユーヒ三題噺まとめマガジン

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2022年6月の記事一覧

55.三題噺「各駅停車、間一髪、ひとりぼっち」

55.三題噺「各駅停車、間一髪、ひとりぼっち」

 僕は登校するために電車に乗った。

 今日はいつもの時間じゃないから快速じゃなくて各駅停車だ。

 病み上がりだから、まだ体がふわふわしてる感覚がある。

「あれ、後輩ちゃんがいる」

 向こうも僕に気がついたみたいだ。

「せーんぱいっ! 一緒に登校しましょ」

「もしかして、後輩ちゃんひとりぼっち?」

「失礼ですね、友達いますよ! 今日はたまたま一人なだけですぅ!」

 後輩ちゃんは唇を尖

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54.三題噺 ラムネ、同い年、玉突き事故

54.三題噺 ラムネ、同い年、玉突き事故

「よかった。明日は学校に行けそうだ」

 昨日の水遊びでずぶ濡れになり、風邪をひいていた僕は、学校を休んで安静にしていた。

 窓の外はもう夕方だ。

 暑いからすぐ乾くだろうと体を拭かないで帰ったのは悪手だったな。

 スマホを見ると、メッセージが来ていた。

「マカロンくんだ」

 幼馴染で生徒会長のマカロンくんから「大丈夫か?」と一言来ていた。

 素気ないように見えるけど、マカロンくんなり

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53.三題噺「決闘、エンジン、風邪」

53.三題噺「決闘、エンジン、風邪」

「6月なのに、これ、もう夏だな」

「梅雨明け早すぎるよね……」

 生徒会役員として部活動の草むしりの手伝いをしていた僕とマカロンくんは、連日の猛暑にうんざりしていた。

「中庭の雑草はあらかた抜き終わって綺麗になったね」

「次はグラウンドだな」

 マカロンくんと一緒にグラウンドへ行くと、先輩と同クラさんがはしゃいでいた。

「何してるんですか?」

「あ、水遊びしてたの」

 僕が聞くと、

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52. 三題噺「チョウチョ、乱心、先頭集団」

 俺は生徒会長として全校生徒の規範となれるよう毎朝早めに登校している。

 身だしなみもバッチリだ。

 常に先頭集団でいれるよう意識を高く持っている理由は他にあるんだけれど……。

 意中の人のことを考えていると、その人の姿が見えて心が弾んだ。

「先生、おはようございます」

「……ああ、君か。おはよう」

 生徒会顧問もしている先生は、ピシッとしてかっこよくありつつも可憐だ。

 でも……。

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51.三題噺「ハイライト、名簿、蒸し風呂」

51.三題噺「ハイライト、名簿、蒸し風呂」

 日曜日だからって外に出てきたけど、直射日光と湿気で蒸し風呂のような暑さだ。

「あれ……?」

 僕は前方に見知った女の子がいることに気がついた。先輩でも同クラさんでもない。

「こんにちは、後輩ちゃん」

 後輩ちゃんは生徒会役員を目指しているちっちゃい女の子だ。

 細身なのに主張するところは控えめに主張していてちゃんと女の子している。

 真っ白な肌と人形のような顔立ちは可愛いと噂になるの

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50.三題噺「ロングシュート、散策、繰り返す」

50.三題噺「ロングシュート、散策、繰り返す」

 今日は土曜日で午前中で授業が終わった。

 電気のついてない薄暗い昼の体育館で、先輩は落ちていたバレーボールを拾った。

「刮目せよ! 私の華麗なるロングシュートっ!!」

 ハーフコートから放り投げられた先輩のバレーボールはゴールネットを揺らす……なんてことは当然無く、床に数回バウンドして転がった。

「勝手に体育館使って大丈夫なんですか?」

「大丈夫大丈夫! 体育館使う部活休みだから……。

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49.三題噺「ミッドナイト、交通機関、ナーバス」

49.三題噺「ミッドナイト、交通機関、ナーバス」

 私は駅のホームであくびをした。

 今日は晴れてくれて嬉しい。朝の風が気持ちい。
 電車に乗ると気持ちい冷房が私を歓迎してくれた。

 あれ、あの姿って……。
 なんだか猫背だけど大丈夫かな?

「おはよー。同クラちゃん。通学の交通機関電車だったんだね」

「あ、先輩だ。うふふ。おはようございます」

 なんか様子が変?
 と思ったら同クラちゃんの顔を見てびっくり。

「どうしたの!? 隈がすご

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48.三題噺「オムレツ、鉄、サイドミラー」

48.三題噺「オムレツ、鉄、サイドミラー」

 放課後、僕は出かける待ち合わせをしていた。

 同じクラスの女の子、同クラさんが停車してる車のサイドミラーを見て前髪をいじっている。

「待たせてごめんね」

「あ! ううん! 全然待ってないよ! 私から誘ったんだから気にしないで」

「今日は弟くんを励ますプレゼントを買いに行くんだよね?」

「うん。男の人の意見も聞いてみたかったから一緒に来てくれて助かるよ」

 さっそく、僕たちは近くにある

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47.三題噺「死、合格祈願、左右」

47.三題噺「死、合格祈願、左右」

「ねえねえマカロンくん」

 授業中、私はこっそりと隣の席の生徒会長のマカロンくんを呼んだ。

 いつも通り予習を済ませていて、別の教科の受験勉強をしてるみたいだ。

「なんだ?」

 マカロンくんは、ふぅと息を吐いてからメガネを外して私を横目で見た。

「好きな人の前で平常心でいるってどうしたらいいんだろうね」

「突然どうした? ……俺は、好きって言う気持ちがすでに平常心じゃないわけだから、諦

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46.三題噺「ゴッドハンド、歌唱力、いちごオレ」

46.三題噺「ゴッドハンド、歌唱力、いちごオレ」

「後輩くん! あそぼあそぼあそぼ!」

「あ……。ちょっ!」

 放課後、僕が自販機でいちごオレを買っていると、手を引かれて先輩の同好会で無断使用している教室に強制連行された。

 先輩の奇行にはもう慣れっこだ。
 僕は抵抗を諦めた。

「何して遊ぶんですか?」

「じゃんけん!」

 先輩は豊かな胸を張って言った。

「はいはい。わかりましたから」

 なんか今日は先輩の様子がおかしい。
 テン

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45.三題噺「仲介業者、カタツムリ、睡眠時間」

45.三題噺「仲介業者、カタツムリ、睡眠時間」

 なんでだろう。電話が鳴ってる。外が眩しい。
 圧倒的に睡眠時間が足りない。眠すぎる。

 僕は布団にカタツムリのようにくるまった。
 それでもまだ電話は鳴り止まなかった。

 誰だろう……。

「……もしもし」

「あ、こ、後輩くん! おはよう……」

「先輩……?」

 なんで先輩から電話がかかってくるんだろう。

 ……だめだ。眠すぎて頭が回らない。まだ寝たい。

「僕、眠いんで寝ますね」

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44.三題噺「リハーサル、黄金比、囁く」

44.三題噺「リハーサル、黄金比、囁く」

 夜、ベッドに入った僕は先輩の連絡先を映したスマホを眺める。

「少し、声聞きたいな……」

 なんとなく。僕は寝る前に先輩の声が聞きたくなって、でも用事もなしに電話をかけていいものかと高校生男子らしいうぶさを部屋で発揮していた。

 支離滅裂な思考になっていることは重々承知だけど、気を落ち着かせるために僕は家の中にいる妹に電話をかけた。

 すぐに部屋のドアが開けられ、パジャマ姿の妹がやって来た

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43.三題噺「ドヤ顔、交換、尊敬語」

43.三題噺「ドヤ顔、交換、尊敬語」

 授業が終わり、鞄を肩にかけたときだった。

 ガタッと隣の席の女の子、同クラさんが立ち上がって僕を見てきた。

「どうしたの?」

「え、えっと……その」

「……?」

 僕、何かしちゃったかな。

「スマホ、持っていらっしゃいますか?」

「なんで尊敬語? 持ってるよ」

 ほら、と僕は鞄から取り出した。

「れ、連絡先、交換しない?」

 同クラさんは頬を紅潮させて、うるうると目を潤ませて

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42.三題噺「ステップ、移ろう、生徒」

「ブレンドです。どうぞ」

「ありがとう」

 生徒会顧問をしている私は、珍しく仕事がない休日に、顔なじみのマスターがいる喫茶店に来ていた。

 注文が運ばれてくると同時に「はあぁぁぁ」と大きなため息が出た。

 気を許している人の前だからこそ素が出てしまう。私はカウンター席で頬杖をついた。

「何かお悩みみたいですね」

 白髪混じりの柔和な雰囲気のマスターはゆったり落ち着く口調でいつも私の話を

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