42.三題噺「ステップ、移ろう、生徒」

「ブレンドです。どうぞ」

「ありがとう」

 生徒会顧問をしている私は、珍しく仕事がない休日に、顔なじみのマスターがいる喫茶店に来ていた。

 注文が運ばれてくると同時に「はあぁぁぁ」と大きなため息が出た。

 気を許している人の前だからこそ素が出てしまう。私はカウンター席で頬杖をついた。

「何かお悩みみたいですね」

 白髪混じりの柔和な雰囲気のマスターはゆったり落ち着く口調でいつも私の話を聞いてくれる。

 私はそれについ甘えてしまう。

「聞いてくれよマスター」

 話を切り出して、私は生徒会長でマカロンくんと呼ばれている男子に好意をもたれているかもしれないことを相談した。

「教師と生徒という立場ですからねぇ」

 マスターも髭を撫でながら、むむむと難しい顔をしている。

「人の気持ちは移ろうものだ。思春期なら尚更その傾向があると思っているが、本気っぽいところがねぇ……」

 実は言うと、心の底では嬉しいと思っている。
 私とて女だ。好意を持たれて悪い気はしない。

 婚期が遅れに遅れて急かされる毎日に焦ってなどいないけれど、一緒の時間を共にする異性は欲しいと思っている。

 さらにあの子は悪い子ではない。

 きっと大切にしてくれるだろうという確信すらある。

 性格も顔立ちも恋愛対象としてアリかナシかで言われたら断然アリだ。

 だからこそ困るんだ。

 ジレンマに私は、再びのため息をこぼした。

「10は離れていないけれど、それでも大きな年の差なのよねぇ。恋愛に年齢は関係ないと思っていても、我が身に降りかかると躊躇する気持ちがあるんだよ」

 私はほろ苦いブレンドをあおって考えた。

 バッサリ振ってあげるのも成長のためのステップなのかしら。

 卒業まで待つのが一番なのだろうか。

「もぅ、どうしたらいいのよ……」

 恋愛経験が乏しい私は悶々と悩み続け、結局答えはでなかった。




作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
⤵︎
ランダム単語ガチャ
https://tango-gacha.com

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?