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#2 僕らのフランス遭難紀行

僕は、フランスの山で友人たちと遭難しかけたことがあります。

怖いもの知らずの学生だからこそなせたことでもあり、また、滅多に体験できない今となっては笑い話でもあるのですが、よく無事だったなというのが正直なところです。

フランス遭難野郎

大学4年の12月、冬。

見上げれば大きな空、広がるブドウ畑、レンガ造りの家屋、アンティークに囲まれた部屋、チーズとワインを嗜む村人たち、動物に囲まれた生活…… 

そんなものを勝手に求めてパリで卒業旅行を謳歌している真っ最中だった僕たちは、現地でレンタカーをしてモンサンミッシェルに行こう!という話になりました。

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今となってはリスク管理に怯えるサラリーマンをやっていますが、当時の某たちはたいそうな怖いもの知らずで、地図も持たず、カーナビもつけず、はじめての左ハンドル右車線で、300km先にある目的地モンサンミッシェルに「ひとまず言ってみようぜ!」とばかりに向かってみた、のですが、お分かりのとおり、すでに失敗するフラグが立っています


とはいえ男4人の血気盛んな若者たちの海外旅行なのだから、最初の数時間はとにかく楽しくドライブを満喫していました。


しかし数時間経ち、僕たちは異変に気付きました。

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きれいな風景だな……。
ああ、フランス最高だな……。


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あ… あれ??
なんか外の景色おかしない?


大雪なのです。
吹雪いているのです。
ノーマルタイヤなのです。



そんな状態だったがガソリンはギリギリで、一度心を落ち着かせるためにガススタンドに入った僕たちは、ここでまたもや愚行を犯す。

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「あれ? 何かガソリンのノズルが入らねえんだけど」
「入れとけ、入れとけ、無理やり入れとけ」


……誰が思おうか、この車が実は「ディーゼル車」だったということを。
レンタカー屋のお姉さんは多分念を押してくれていたような気もしますが、僕たちの拙い英語力でそこまで理解しきれませんでした。

そうして僕たちは無理やり軽油車にガソリンを入れ走り出しましたが、当然この時点でゲームは詰んでいます。


エンストとレッカー

高速道路に乗りさらに数十分走っていた時のことです。

あたりはすでに真っ暗になっており、外は大雪で真っ白になっており、この時点で詰んでいることに僕たちは真っ青になっていました。


凍結した道の上、ノーマルタイヤで、しかも間違ったオイルを入れられて走っている車がこれ以上走るわけがありません。

それなのに何故か僕たちは何とかなるさとばかりに引き続きモンサンミッシェルに向かっていました。何とかならないのに。

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そして。

その時車を運転していた友人が、急に横で言いました。「ハンドルが取られて止まらない」と。

キキーーーーッ……

「ちょ、おいおいおい!!」

車は見事にスリップをかまし、前の車両の追突ギリギリのところで斜めに停止、僕はすぐ隣で「うおお」とか言っているだけでした。人は瞬間的な異常時には何もできず無力だということを身をもって知りました。


「あ、あ、あ、あぶねーーーー!!」
「心臓が止まるかと思ったわ!」
「助かった……」


雪のおかげですべての車両が低速走行していたから何とか追突せずに済んだのです。これぞ、九死に一生……。


気を取り直して出発したところ、


ゥーーーン、スンスン。
ブゥゥン……。


「やばい止まる」


「え?」


ぷすん。


……。



終わた。

夜で、大雪で、フランスのよくわからない地方の高速道路上でエンストをかまし、車を路肩に寄せて途方に暮れるアジア人4人。

徐行運転で僕たちの横を通っていくフランス人たちの、同情なのか哀れみなのかわからない「こいつら何やってんだ」という視線が非常に冷たかったのは全部雪のせいだ。

スリップしたのだって、全部雪のせいだ。
ガソリン入れ間違えたのだって、全部雪のせいだ。
今車がついに動かなくなったのだって、全部雪のせいだ。

(ら、ら、来週のサザエさんは…… じゃんけーん…… じゃんけー……)

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ハッ!!!

戻 っ て こ い ! !!!

全部自分たちのせいだ。
現実逃避してる場合じゃない。


遠い異国で携帯電話も持たない我々、当時はスマートフォンなんて万国共通の便利なものなんてありません。そして助けを呼ぼうにもここは高速道路、誰もいないし誰も止まってはくれない。


しかしここが不幸中の幸いだったのですが、はるか遠く向こうで事故車らしきものと、それをレスキューしている大型車のテールランプが見えたのです。

僕たちはとにかくすがる思いで走りました。
恥をかなぐり捨て、フランスの片田舎の雪道を、「ヘルプミー!」と叫びながら走りました。


そしてギョッとする英語の通じないフランス人レスキュー隊たちになんとかゼスチャーと筆談で真意を伝え、無事めでたくレッカーされることになりました。いや、無事じゃないんだけど。

地図もGPSも無いため、自分たちが一体フランスのどこらへんにいるかもわからなかったのでもうなすがままに、とりあえずそこから一番近場にある山間の村の工場に連れていかれることになりました。吊るされて斜めになっている車に乗ったのは後にも先にも人生でこの時だけです。

「まずお前らが間違って入れた燃料を抜かなきゃならないが、今日はもう遅いので明日やる。だから今日はこの村にひとつだけあるゲストハウスに泊まれ」


そう言われ僕らは村唯一のゲストハウスにレッカーされたのでした。

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カマンベールの村

そうして連れていかれた村の一軒のゲストハウスは、老夫婦が営む小さなゲストハウス。

こんな辺鄙な村に旅行者なんて来ることもなく、その日の宿泊客は僕たちだけ。というか、むしろ最新の宿泊客が1ヶ月前で、日本人が来たなんてことは初めてとのことで、突然のアジア人学生の来訪にもオーナー夫妻は僕たちを戸惑いつつも歓迎してくれ、たくさんの夕飯を作ってくれました。

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ここはチーズで有名なあのカマンベール地方近くの山奥だということ。
人口は250人足らずの小さな小さな村だということ。
養鶏場や農業をしつつゲストハウス経営をしていること。
自分たちは日本の大学生で卒業旅行中だということ。
事故にあってレッカーされてきたということ笑。

僕たちはフランス語は「乾杯」「お姉さん綺麗ですね」しかわからないので、おじさんが引っ張りだしてきた仏英辞典で会話をするしかなく、だがなかなか言葉の伝わらないそのもどかしさが、お互いに面白い時間となっていたように思えます。

興の乗ったおじさんが、「スペシャリテな酒なんだ」と満を持して出してくれたお手製のシードル、ボトル2本丸々飲み干してしまい若干悲しい顔をされ、部屋に戻ったあと僕たちは深く反省しました。


雪深い村で

翌日起きてみると、あたりはノーマルタイヤで果敢に攻めていた自分たちが恥ずかしいくらいの雪景色。

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そこは僕たちが憧れた、レンガ造りのゲストハウスにアンティーク家具に囲まれた暖炉のある部屋。

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チーズとワインを嗜む食卓。

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ゲストハウスの横には養鶏場。

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レッカーされたからこそ触れることのできたこの風景に僕たちは心の底から満足しました。たとえそのあと、数百ユーロの修理代が襲い掛かってくる現実が待ち受けていようとも深く満足しました。


そしてようやく、無謀な山越えをしていると気づいた僕たちは、パリに引き返すことにしたのでした。

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命からがら無事なんとかパリに戻り着き、借りていたアパルトメントに帰ってきた僕たちは、

「とりあえずメシでも作るか……」

と、そこで作ったのが、今日のレシピ、コックオヴァンになります。

おわり。


と、この記事はここで終わりなのですが、「コックオヴァンってなんやねん」と思っている方もいると思いますので、レシピを載せておきます。

レシピ「コックオヴァン」

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【コックオヴァン(鶏の赤ワイン煮)】 2人分
鶏もも肉 2枚
赤ワイン 400ml
玉ねぎ 1個
にんじん 小1本
にんにく 2片
ローリエ 2枚
ベーコン 100g
小麦粉 適量
バター 20g
マッシュルーム 5-6個
コンソメ 小さじ2
砂糖 小さじ2
水 200ml
塩、こしょう 適量

1.鶏もも肉はフォークなどで穴をあけ2~3等分にする。玉ねぎ、にんじん、にんにくは粗みじん切りにする。
2.赤ワインに(1)、ローリエを漬け込み、ひと晩寝かせる。
3.鶏肉は水気をよく取り、小麦粉をまぶす。
4.鍋にバター15gを熱し、鶏肉に焼き目をつけたらいったん取り出す。
5.細切りにしたベーコンを炒め、鶏肉両面に焼き目をしっかりつけたら、(2)の残り、水、コンソメ、1/4程度に切ったマッシュルームを入れて強火で煮立てたらアクを取り弱火で2~3時間ほどじっくり煮込む。
6.好みのとろみになるまで煮詰めたら、塩、こしょう、バター5gで味を調えて完成。マッシュポテトを添えていただく。


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感謝の極みです。どうもありがとうございます。