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「悪魔の思想」谷沢栄一(著)

・言葉巧みな売国奴を告発した本書

 戦後日本の論壇は「朝日新聞・岩波書店」などが強い影響力を持っていた。著者はまさにその時代に強い影響力を持った論壇の人物を十二人取り上げてその主張の問題点を指摘し、彼らの言論が戦後日本の悪徳であると非難する一冊がこの本である。

 この本は非難される側の小難しい表現と不可解な主張、そしてそれを批判する著者の格式高い批判の文章が相まって全体的に表現がくどく若干の読みにくさがあることは否めないがこれも読む側のわがままかもしれない。

 著者が批判した十二人は大内兵衛・鶴見俊介・丸山眞男・横田喜三郎・安江良介・久野収・加藤周一・竹内好・向坂逸郎・坂本義和・大江健三郎・大塚久雄である。彼らに共通しているのは戦前日本が「悪」ということであり、その否定だ。

これを多用な表現を用いて言葉巧みに行う様は私も違和感を感じることがあったが、著者は歴史学者の立場から彼ら著作を読み説き、過ちの証拠を過去の文章から抜き出して科学的な批判の言論を構成して対応する。現代では忘れられがちだが、これが学者同士の論戦の形のように思える。

 今ではSNSの時代だからと、何かとSNSの短い言葉で「間違っている」という言葉で表現し論戦に至ることがあまりない。過去であれば学者の論文に対する反発は論文の作成によって行われるわけでその応酬は知の衝突であり、公開されて行われるそれは読者にも知の関心を深める高い効果があった。

このようなことが現代では少ない言葉と感情だけで行われるのは寂しいことである。何でも「show」になる今の時代では学者同士の論戦をSNSで行うときは可視化できかつ保存できる環境であることが望ましい。このようなことは学者側にも緊張感を与え、学術研究への誠実さを高めると考えられるのだ。

 戦後の論壇も著者が批判した影響力を持ったスターたちが無批判の下に時代を席巻し多くの人を意見誘導し、誤った知識を提供したことは大きな問題である。これは左翼だろうと右翼だろうと関係ない。

 この本は単に売国奴であった戦後の左翼知識人の傲慢な主張の問題点を指摘するだけの一冊ではない。自己の主張を行うために彼らが犯した過ち、学者や知識人であるにも関わらず自己の一方的な主張の虚偽を混ぜたことを戒める意味も持つ一冊なのだ。

本当の悪人は本当のことを言いつつ、事実を隠したり、嘘を混ぜたりして聞く人を混乱させ、間違った道へと誘導する。この本はこういう悪人に対する著者の怒り存分織り交ぜられた一冊なのだ。

・知識人を蝕んだ「三十二年テーゼ」

 著者が批判した十二人には共有されている一つの思考のフレームがあると著者は言う。それは1932年にコミンテルンが日本共産党に提示した「三十二年テーゼ」だ。コミンテルンの日本支部として誕生した日本共産党にコミンテルンは日本での活動方針を授けた。細かい内容には触れないが、基本は反日姿勢であることは間違いない。

反日の思想を根本に著者が批判する十二人は共産主義や進歩主義を賛美し、自分たちの権威を持って戦後の日本に革新風潮を呼びこみ続けたのだ。この風潮は今にも連綿と左翼思想家には引き継がれている。

かつて親ソだったのが今では親中・親露に変わり、反日であることは変わらない。変わったことがあるとしたら、現代の方が論者の主張が稚拙だということだろう。どこか感情的であったり主張の一貫性を現代の左派には感じない。これもひとえにソ連崩壊後から共産主義が確実に低調になっているからだと推測される。

知識人を蝕んだ「三十二年テーゼ」は発信者であったソ連が滅び、今では反日などの残滓が残るのみとなって日本にとって弊害であることは間違いないが、今後はますます彼らは退潮していくことだろう。彼らは科学に丁寧な姿勢ではない。右派もその気があるため安心はできないが、先に丁寧な姿勢になって真摯に向き合うようになった方から影響力を取り戻していくだろう。

願わくは著者のような愛国者の怒りが再び噴き出すことのない科学的な論壇に日本がなっていくように思うばかりである。

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