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「ナラティブ経済学」ロバート・J・シラー(著)

 本書は「ナラティブ」に注目して経済学の理論や特定の言葉の流行度具合を見ることで経済学の社会に及ぼした影響を探ろうという趣旨の本です。

「ナラティブ」=特定の視点や価値観を反映した噂話

言葉の流行から社会への影響を探るという取り組みに徹した本書の内容は大変興味深く、また単に経済学というだけでなく、歴史・マーケティング(特に広告)・政治の分野にも関わっているので学ぶことが多いです。

・人は物語に誘導される

 著者であるロバート・シラーはノーベル経済学賞を受賞したアメリカの経済学者です。ですから本書で取り上げるナラティブもアメリカの事例で話が進んでいきます。

いくつも事例が出てきますが、アメリカで何度も繰り返されるナラティブとして「大恐慌」があります。1929年の大恐慌からアメリカで不況が起きると大恐慌に関連するナラティブが必ず出てくるそうです。

 人は現在の大きな問題を理解するために過去の似たような事例を利用します。その結果、回避方法を過去に学ぼうと勉強するのです。こうなると、過去の事例に関する本や記事が社会全体に流行し、大きなムーブメントになります。これの繰り返しが起きているというのです。

「時代は回る」と言いますがむしろ人々が積極的に「時代を回している」の方が表現としては適切だと言えますよね。

 すなわちナラティブを理解すると人の行動予測ができるようになります。

日本で最近流行したナラティブとして「トイレットペーパー」がありますね。1972年のオイルショックが起きると、人はトイレットペーパーが買えなくなるのではないかというナラティブの影響を受けて、買いまくったというのがあります。同じことがこのコロナ禍でも起きました。コロナの感染防止の観点から貿易が縮小することが予測されるのでトイレットペーパーがなくなるのではないかという不安です。

これは人がナラティブの影響を受けたいい例だと思います。

・理論よりも雰囲気で理解する

 一般の人にとって経済理論や社会問題の多くは実感が湧くようなものではなく、また難しいものです。

ですからこれを理解しようとしたときに理論の内容を詳細に説明するよりも多少語弊があってもそれに近い内容の簡単なナラティブによる説明の方が分かった気がするものです。

これは対象を雰囲気で理解することに他ならず危険ではありますが広い認知を獲得することができます。

 雰囲気で理解するため、同じ内容のナラティブでも形を変えればまた何度でも新鮮に感じます。本質が理解できてないからです。

すなわち同じ内容のものが繰り返し流行るのは必定と言え、また時間と共に認知が拡大していくため繰り返されると過去のナラティブも再び思い出され関連するものが認知されていきます。

ナラティブを理解すると繰り返し流行する特徴をつかむことができるのです。

・終わりに

 単に経済学の話かと思うと、むしろマーケティングなどに利用できるエッセンスがところどころにあり、ナラティブ経済学の特徴をつかめば広く活用できると言えます。

ナラティブの広がりを疫学のSIRモデルと重ねてその拡大過程を推察するという手法はおもしろく、噂話などがどのような過程で広がり、どう忘れられていくのかを事例を通じて概観する本書は勉強になります。

あなたの行動に作用している「ナラティブ」という意識されない観念はどのようなものなのか、是非とも本書を読んで分析するのもおもしろいですね。

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