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11 社員インタビュー記事の取材方法 いかに質問を準備するか?

以前、聞き方セミナーを行った際に参加した方から質問がありました。

「ライター仕事で社員インタビューをすると話が途切れてしまう。どうすればよいか? 特に新人が相手だと緊張してしまってなかなか進められない」

私もよく企業の社員インタビューを請け負います。毎回初対面でパッと会って「たくさん話してくれるかな」「緊張しているな」と身構えることはあります。でも話を聞き始めた後に途切れてしまう、聞くことがなくなってしまうという状況にはあまり遭遇しません。

もちろん取材者として時間中に会話がなくなるのは非常に怖いです。「どうしているのか?」という質問を受けて改めて考えると、だからこそ「途切れを防ぐための準備をいろいろしているな」と気づきました。今回の記事はその方法をまとめました。書く方法ではなく、取材の方法です。

1記事100円の有料記事ですが、記事の8割くらい(10000字)まで無料で読めます。2割(3000字)の有料部分では、実際に仕事として請ける人たちに役立つ「危なっかしい依頼の見分け方」「断るときの文面の作り方」を紹介します。

すでに有料マガジン『仕事としてのライター、起業準備から継続にいたる地味な話。』を購入いただいている方は全部読めます(タイトルに「11」がついているのはマガジン内の11番目の記事だからです)。

1)ライターとして書くとき意識する、2つのこと

そもそも、ライターとして取材・執筆するときに必ず意識する2つのポイントがあります。まず1つ目は「私のスキルで話を引き出すぞ!」とは決して思わないこと。

私は、ライターとは下図の氷山の一角を文字にする人だと考えています。

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取材相手(話し手)は取材で会う前に膨大な経験をしています。話し手の年齢が年上でも年下でも、たとえ10歳の小学生でも同じ。当日限られた時間で聞けるのは、その膨大な経験中のほんの小さな小さなエリアだけです。

取材の目的を知らせていればある程度ネタを考えて、意識上に話題を準備してくれるかもしれません。でも話し手の無意識にはライターが1時間やそこらでは絶対に触れられない量の経験があって、必ず「まだ思い出せてないけれど今回の記事で書けたらありがたい話」も埋もれています。

それらをなるべくたくさん取材時間中に思い出してもらい、読みやすく文字にするのがライターの仕事です。だから当日までの準備は「確度が高い話題をいかに思い出してもらうか」に狙いを定めて行います。

個人的には「話を引き出す」という表現はおこがましいと感じます。ライターは話し手の本業を止めてわざわざ時間を割いてもらい、自分が知らないことを話し手に教えてもらう立場です。どうしても私は「自分のスキルで話を引き出す」とは言えません。「一緒に話を思い出してもらう」が感覚に一番近い表現です。

2つ目に意識するのはライターの役割です。書くべき内容は下図のABCの円が重なっている部分です。

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Aは話し手の経験です。実際に感じたこと、思ったこと、実践したことを当日のインタビューで教えてもらいます。文書で準備できるような内容ならインタビューは要りません。話しながら「そういえば」と思い出した事柄のほうが鮮度が良く、面白い確率が高いです。

Bはクライアントの狙いです。ライターに依頼して記事を作ろうとするなら動機が必ずあります。何を表現し、何を読者に伝えたいのか。その主旨に沿ったものでなければ記事としては成立しません。絶対外せない要素です。

Cは読者が読みたい内容です。クライアントが「自社の自慢をしたい」と考えても、まっすぐ書いては読者が読みたい記事になりません。クライアントの意向を汲みつつ、どんな構成にすると読者が「読んでよかった」と思える内容になるか。その組み立てがライターの腕の見せ所です。

上記の図には「ライターが書きたいこと」は入っていません。私がこれから伝えようとしているのは「クライアントから依頼されて書く、広告性が高いコンテンツ」についてです。ネットではライターが主役になった署名記事や、相手が言いたくない内容をあえて掘り下げるジャーナリスティックな記事もあります。その作成ではあまり参考にならないかもしれません。

2)事前に先方に伝えること、お願いすることがある

依頼を受けて「社員インタビューを作成する」と決まったら、必ず事前に先方に伝えること、お願いすることがあります。予算や見積などもそうですが今回の記事では作成に関する内容に絞って紹介します。

■掲載記事の基本構成を伝える

社員インタビューであれば、読み手に伝える内容と記事フォーマットがある程度固まっています。私が事前に先方に伝えているのは「以下の3ブロックで構成する」という記事の柱です。メールで「こんな流れにする予定です」と担当者にお知らせします。

・学生時代または前職の内容、なぜ就職・転職しようと思ったか
・なぜこの企業を選んだのか、今どんな業務に就いているか
・入社して良かったこと、これから伸ばしたいことは何か

当日の話によっては「とても苦労したこと」「入社前に迷ったこと」などが入ります。書けたらとても関心を引く話題です。しかしそのために上記3点のどれかを落とすことはありません。上記3点を押さえた上で余裕があったら要素を足す、という感じです。

■今回の掲載の狙いを聞く

先ほどの1)で述べた「B クライアントの狙い」について、なるべく事前に正確な円が描けるようにあらかじめ情報を集めます。企業によってインタビューを掲載したい理由が本当に違うからです。過去にはこんなケースがありました。

・20代から30代前半の若手社員を増やしたいから
・もっと専門性が高い人材を増やしたいから
・堅苦しい企業イメージを持たずに来てほしいから

若手社員を増やしたいとわかれば「若い人でもチャンスがある」「わからないことは先輩がフォローしてくれる」という環境の良さや「同世代より給与が高い」「子育てしたい人に向いている」など待遇の良さなど「インタビューで若手に響く要素がないか聞いてみよう」と心の準備ができます。

専門性が高い人材を増やしたいときは、記事中の専門用語についてあえて砕いた表現をせず難しいまま使うことがあります。「この用語の意味くらいはわかる人が来てほしい」というクライアントのフィルタリングになるからです。その粒度については当日担当者に確かめます。

堅苦しさを拭いたいとわかれば、インタビュー前から「親密さを強調できる仕事以外のコミュニケーション」や「いろんなタイプの人材の紹介」などに文字数を割こう、と作戦を立てられます。

先方が求めている方向がわかれば当日「こっち方向の記事を作るために質問すればいいな」と目安が立てられるので、迷う場面は大幅に減ります。

■掲載スペース・スタイルを確認する

予算や見積にもかかることですが、どのくらいのボリュームが必要なのか、早い段階にメールで確認します。掲載スペースやスタイルがわからないと当日聞く分量もわかりません。過去にはこんなケースがありました。

・1名400字ずつ、ポンポンとテンポ良く大量に掲載したい
・Q&A方式でじっくりと話し手の人柄を伝えたい
・一人語り方式で業務の面白さを細かく知ってほしい

見積前によく私が使うのは「気になっている他社の例があればURLをいくつか教えてください」という方法です。きっと依頼前には「こんなページになったらいいな」という理想像があるはずです。そのとき参照したページを教えてもらえば、どんなページにしたいのか具体的にわかります。

大きくきれいな写真に「だ・である」調のかしこまったページにしたいのか、コンパクトに「入社した理由・今楽しい仕事」だけを紹介する見せ方にしたいのか、何スクロールもするほどボリュームあるページで読ませたいのか。文章トーンや必要な文字量、1名あたりの取材時間がわかるので、予算も細かく伝えられます。

■インタビューする相手の属性を確認する

社員インタビューの場合、登場させる人物の選定が事前に社内で行われるはずです。急ぎではないのですが、できれば前日までにインタビューする方々の情報を教えてもらいます。私が確認するのは以下の項目です。

名前/年齢/入社年月/新卒or中途/前職/現在の所属部門

もし現在の仕事内容までわかったら非常にありがたいです。仕事内容について下調べができるからです。ただし、先方も通常の仕事をしながら準備することなので負担になっては本末転倒です。できる範囲でお願いします。

もう一つ大切なのは、この人が社内で選ばれた理由です。数多くの社員から会社の顔として選ばれたということは、この人を通して伝えたいことが何かしらあるからです。担当者には「なぜこの人なのか」を確認します。

・若手で成長が著しい代表として出てもらう
・子育て制度を活用して復帰した女性がいると知ってほしい
・前職とまったく違う職種でも成果が出せる例を見せたい
・専門性を高めたくて入社し、実際にエキスパートになった

記事作成の上でとても重要な情報です。当日お聞きする質問も、これらの理由がうまく浮き彫りになるものを考える必要があります。

■(時によって)質問シートに書き込んでもらう

先方が「当日何を聞かれるのか心配」「予算の都合で取材時間を短く済ませたい」という場合は、事前に質問シートをお送りして前日までに返送してもらうことがあります。

以前、1日6名ずつ2日間かけて話を聞く案件がありました。そのときは担当者に学校の三者面談のように綿密な時間割を組んでもらい、質問シートであらかじめ主要情報をいただいた上で取材を行いました。そのときシート内では前項の基本情報に以下を加えました。

・入社の決め手は?
・現在の仕事でのやりがい、面白い部分は?
・自分で入社後に成長したと感じられる部分は?
・働きやすいと感じられるのはどんなとき?
・入社後にわかった意外な点は?

他の企業の場合はまた違う項目に置き換わります。上記はたまたまポジティブな内容でしたが、あえてネガティブな内容を聞くこともあります。先方が「成長を感じられる企業」を強調したい場合などです。そのときは、苦労と一緒に克服の方法を紹介したいと考えるからです。

・入社して一番大変だったことは?
・社内でどんな研修やフォローがあるか?
・将来の目標となるような先輩は周りにいるか?
・社内で一番すごい人は誰か?

質問シートを送付するときに必ず伝えるのが「書き込みは1行か2行で大丈夫」という点です。真面目な方はぎっしり書いてしまいます。でもそれは当日聞けばわかる内容で、文面より話し言葉で聞くほうが絶対面白くなる話です。準備が本来の仕事の邪魔になってもいけません。事前準備では1行の手がかりがあるだけで大いに助かるので、その旨は必ず伝えます。

3)ライターが事前に調べること、用意すること

ここまでで4000字書いていますが、まだ取材に行っていません。取材先へ行く前に準備することがあります。

■先方企業の事業内容、相手の業務内容を調べる

取材前にお聞きできた範囲から、先方企業の事業内容とインタビュー相手の業務内容について下調べします。基本的にはネット上で検索してオフィシャルサイトから情報を得るのが中心になると思います。ざっと思いつくままに把握しておきたい項目を並べてみます。

企業■創業年月/従業員数/沿革/採用サイトなどの企業紹介文/最近の関連ニュース

事業を拡大するというニュースを見たら、新しくできた部門とインタビュー相手が関連しているかもしれません。記事ではこれから大きくなる会社と絡めて成長できる点を強調するのもありです。

老舗企業だけれどダイバーシティを目指して従来とは違う人材がほしい、というケースもありました。今までの採用ページと異なるアプローチが望まれるはずなので、似たような切り口は使わないようにします。

話し手■何の仕事か自分が口頭で説明できるくらいに把握/名前で検索すると過去のインタビュー記事があることもあり/SNSで公開している情報から活動や趣味がわかることもあり

当日、あまりにも基本的なところから「仕事は何をしていますか」と聞いてしまうと、せっかくの時間を無駄にしてしまいます。なるべく早めに深い話ができるように業務内容は把握するようにします。

部門名だけではなかなかわからなくても、他社の同名業務からサイトを調べて推測したり、自分の経験に照らし合わせて「こんな日常かな」と考えたりします。例えば私は理系の話は苦手なのですが、調べた結果「クラウド構築にはいくつか段階があり、この業務はこの部分を触っているらしい」と掴むだけでも当日大幅に効率化できます。「ここまで把握したのですが」と伝えれば、間違っている部分だけ訂正する時間で済むからです。

他にも「営業職だけれど形あるものではなく無形のこんなサービスを売っているらしい」とか「建築現場と施工主の間で調整役をしているらしい」とか「オフィス移転の工程でデザインと動線を考える係らしい」など、1行でもいいので事前に準備しておくと安心できます。

■思いつく質問を書き留めておく

調べるうちに「へええ」と思うことや疑問に感じることが出てきます。業務を想像して「ここが大変じゃないか」「これをやり切ったら気持ちいいだろうな」「新卒でこれは苦労するんじゃないか」と思い当たることもあるはずです。

それらは全部、当日助けてくれる質問になります。どこかに書き留めておいて、取材中は見える場所に置いてください。迷ったときにパッと見てピックアップするだけでも会話の途切れを防げます。

私は1名につき1枚の質問案を用意して、事前に印刷した質問のほか、行く途中で思いついたことや気になることを書き込んでいます。Aさんについて聞きたいこと、聞くべきことはAさん用の1枚の紙にまとめてあるイメージです。取材時はそれを広げて話を聞いています。聞き取った数字なども最近はノートではなく専らその紙に書き込んでいます。見直すときは1枚で済むからです。

■3者が交わるエリアを意識して質問を考える

先ほどライターの役割の話で出した図があります。これは事前準備でも非常に大切な概念です。

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質問はできるだけこの3要素が重なる内容にします。極端な例で言えば、クライアントが「若手が活躍する企業イメージ」を求めているのに質問で延々と「老舗企業としてすごいと思った点」を聞き続けていたら、目的は果たせません。

「若手が活躍するイメージは、仕事のどんな場面で強調できるだろうか」「後輩に対して自信を持って勧められる点は何だろうか」「たぶんいろんなフォローを受けてこれをやり遂げたんじゃないだろうか」など、重なりそうなところで質問を考えて書き留めておきます。

「B クライアントの狙い」を事前に詳しく知ることができれば、質問を考える段階でも非常に精度が高いものが準備できます。取材前から相手にいろいろ聞くというのは少し面倒かもしれませんが、後工程を考えると疎かにできない作業です。

4)当日の話の切り出し方

やっと取材です。儀式というわけではないのですが、どの人を取材する場合でも席に着いて必ず最初に伝える項目があります。

・今日は何の記事を作る目的で来たのか
・今日聞きたいことの3つの柱
・かかる時間の目安
・記事作成への協力のお願い

担当者から取材目的は聞いていると思いますが、ライターからも概要と目的についてお伝えします。社員インタビューであれば以下のような内容です。

「今回、サイトを刷新するにあたって社員インタビューも入れ替えることになり、外部ライターとして自分に声がかかりました。今回の記事は読んだ方が『この会社は楽しそうだ、入ってみたい』と感じて、採用サイトで応募してもらうのが目的です。なのでなるべく会社の良いところ、皆さんが成長したところを取り上げて書きたいと考えています。

記事としての柱は3つ、まずAさんの前職と転職を考えるきっかけになったのは何か、この会社を選ぶまでにいくつか候補があったと思いますがこちらにした決め手は何か、そして入って良かった点や成長できた点は何か、です。今から1時間ほどでお聞きしたいと思います。

あまり緊張せずに世間話だと思って気楽にお話しください。話す順番は時系列でなくても思い出した順番で構いません。あとで良い感じの文章に整えるのがライターの仕事なので、そこは安心してください」

求められる質問に対して巧く答えられるだろうか、ということを皆さん気にしています。緊張をほぐして多少カジュアルな状態でも大丈夫ですよ、と安心してもらうのが狙いです。このときICレコーダで録音する旨も伝えます。

その後、取材に入ります。入社年月や年齢、現在の部門の業務内容、転職した場合は前職から切り出すことが多いです。

「入って半年とお聞きしていますが、もう慣れましたか」
「今のお仕事は●●と伺いましたが、もう少し詳しく教えてください」
「●●業務は、ずいぶん専門的な内容じゃないですか?」
「以前も同じ仕事をされていたんですね」
「学校卒業から今までの経歴を教えていただけませんか」

時計とペースを見ながら、時間内に3つの柱+αの質問までたどり着けるように話を進めます。

「転職を考え始めたきっかけは何でしたか」
「この会社を知ったのは、いつ頃どんなタイミングですか」
「他社と比較して、どんな点に惹かれましたか」
「この仕事で一番面白いところは何でしょうか」
「言える範囲でいいんですが、失敗したことってありますか」

失敗した業務そのものは詳細には書けないのですが、その前後で経験したこと、救われたこと、学んだことは記事にできる可能性があります。聞いて「これは書きたい内容だ」と思ったら、話し手と担当者と自分の三者が揃っている現場ですぐ「こういう表現でオープンにしてもよいか」と確認します。

確認せずに原稿に書いてしまうと、第1稿を送ったときに「これは書いてほしくなかった」「削除してほしい」という修正につながります。その場で確認すれば相手も安心でき、大きな修正にはなりません。

企業に関する具体的な数値も書いてよいか都度確認します。せっかく聞けても「売上●億円という数字はオープンにしないでほしい」と言われるケースは非常に多いです。それでも数字のインパクトを記事に載せたい場合は、「前年比120%という書き方なら大丈夫ですか」「目標値の3倍という書き方はどうですか」など細かく聞いて、OKの表現をその場で決めます。

話していることはICレコーダに記録されるので、画面で示されている表や内容をあえて読み上げて録音に残すこともあります。記事にしたい部分があれば、これもその場で確認して了解を得ます。

5)良記事にするための聞き方のコツ

■その人オリジナルの内容を聞く

同じ会社に勤めて似たような経験をしていると、出てくる内容は似通ってしまうかもしれません。しかしAさんにはAさんならではの経験と考え方が必ずあります。取材では「Aさんだからこそ」の内容を探してください。

主人公を入れ替えても通用してしまうなら、それは良くない記事です。短い文章で例を作ってみます。

Aさんはこの会社の先進性と将来性に興味を持ち、入社を決めた。顧客第一のマインドで、いつも明るくお客様と接してきた。

この文章だとAさんをBさんに入れ替えてもおそらく成立します。伸び盛りの企業の将来性なら多くの人が興味を持ち、みんな明るく振る舞おうと努力するのは当たり前だからです。これをAさんならではの情報で書き直すとしたら、どんな文章になるでしょうか。

Aさんは好きだったゲームのクレジットからこの会社の名前を見つけ、若手社員たちが活躍するのをSNSで見て一層興味を持った。入社直後のある失敗でお客様の時間を無駄にするのは申し訳ないと痛感し、難しい調整要件でも前向きな効果を示しながら交渉するスキルを磨いてきた。

これはBさんと入れ替えることはできません。Aさんならではの視点、経験、学び、スキルが文字になっているからです。具体的に書くには、取材で具体的に聞かなければいけません。「ああ、こういうことか」と思ってからさらに一歩踏み込んで聞くと、オリジナルの話に届きます。

■苦労したこと、失敗したことを聞く

オリジナル色が強いエピソードに「苦労したこと」「失敗したこと」があります。何を苦労と感じるのか、何が得意で何が苦手なのかは個人差があります。100人に聞けば100通りの答えが出てくる質問です。

失敗についてもまっすぐ聞くのではなく、話の中盤で「そのまま書くことはないのですが、話せる範囲で『失敗したこと』をお聞きしてもいいですか」と切り出すことがあります。

先ほども述べたように、失敗そのものを詳しく書くことはないのですが、前後の出来事はその人にとって大きな存在になっているはずです。変化について書くことができればオリジナルのエピソードになります。

■相手と自分の割合を9:1にする

取材後に録音した音源を聞くと、たまに自分の質問が長すぎて「うわあ」と頭を抱えます。質問や相づちは長くても記事2行くらいで収めるべきで、相手と自分の発話量の割合は9:1が理想ではないでしょうか。相手が多く話してくれる分、新規の情報が得られるからです。自分が話す内容は自分にとって既知のことばかりで、記事の材料がありません。

自分が話す時間が長いときは、質問の文章を意識的に短くします。私もクセでよく前提を話した後に質問してしまうのですが、音源を聞き直すと「前提なしで直球で聞いたほうが会話のテンポを保てた」と反省します。今も一言加えたいところは我慢して、相手の言葉を待つ訓練をしているところです。

質問の的が定まっていないときも話しながらフラフラして、結果的に自分が話す時間が延びます。これは事前準備が足りずに当日うろたえている状態です。長い質問をすると相手も答えの芯がわからずにグダグダになります。これは相手のせいではなくライターのせいです。

質問は短く。短くするためには準備する。準備するためには相手の狙いと記事の目的を定めておく。逆算すると、やはり事前準備が当日に響きます。

■新人さんに話を聞く場合

働き始めて日が浅い新人さんに話を聞くのが難しい、という人がいました。でも「この仕事の前は何をしていたか」「なぜ選んだのか」「今面白いことは何か」という3本柱に沿って聞けば記事のツボを外すことはありません。

・学生時代に学んだことは何か
・アルバイトやサークルなどは何をしていたか
 仕事と関係あるならどんな点が活用できているか
 仕事と関係ないなら、なぜ異分野に興味を持ったか
・他の業界にもチャレンジしたのか
していないならこの業界の何に魅力を感じたのか
したのなら、なぜ最終的にこの業界を選んだのか
・入社してから「仕事した!」と実感できたことは何か
・後輩に教えたい、社会人の面白さはあるか
・記事にはしないが、社会に出て違和感を覚えたことは何か
・先輩で尊敬できる面はどんなところか
・困ったときはどうしているか

今だから戸惑うこと、今だから教わることができること、今だから面白く感じることなど、新人さんには新人さんの話題が豊富にあります。個人的には「みんなどんな場面で社会人になったと実感するんだろう」という点に興味があるので毎回聞いてしまいます。初めて成果が得られたときはやっぱり嬉しいじゃないですか。

6)取材の締め方

最初に柱と決めていた3点について聞けた、話し手オリジナルのエピソードも得られた。そろそろ終了時間となったら取材を締めます。ここでも毎回忘れずに行う“儀式”があります。

■聞き終わったら、話し手と担当者にも振る

ライターとして材料が揃ったと思っても、実は傍で聞いている担当者にとっては「これも聞いてほしい、押さえてほしい」という項目があるかもしれません。話し手も「まだこれを言いたかった」というエピソードがあるかもしれません。だから毎回「何か私が聞きそびれていたことがあったら教えてください」と周りの皆さんに尋ねます。

制作会社や編集の方が同席している場合は、客観的な視点から新しい質問が出ることが多く「ああ、それも聞くべきだった」と勉強になります。

■どんな流れにまとめるか、ざっくり知らせる

3本の柱に沿ってどんなエピソードを使おうと考えているか、最後に皆さんに知らせます。話し手を象徴する印象深い話、他の人では真似できない経験、鋭い視点などは記事にする筆頭候補です。

売上や業績、人数などの細かい数字について使ってよいか、ここでも確認するチャンスがあります。

良い話でも今回の狙いからズレる話については「良い話なのですが今回の流れから少し外れるので入れるのは難しいです」と伝えます。原稿確認時に「入っていると思ったのになかった」と思われる事態を避けるためです。

ざっくりと流れを話している中で、ライターにとっては面白くぜひ書きたい内容でも、話した当人や担当者が芳しくない反応をすることがあります。そのときは「本当に書いて大丈夫か」を確認します。会話中はノリでOKと言ったものの、後から振り返るといろいろ引っかかることもあるからです。そのときは先方の感覚を優先します。

■提出日と修正フローを知らせる

今回の原稿はどのくらいの分量で、いつ第1稿を出し、先方はいつ確認できるかを伝えます。もし間違いや書いてほしくないことがあればまだ修正可能であり、変更後も先方確認を経てすべてがOKになった時点でオープンにする旨も話します。

自分が話した内容がどんなふうに加工され、公開されるのかはみんな気になります。その不安はライターが払拭するしかありません。取材の場でしっかり明言するべきことは明言し、相手が不安に思っていることを聞いてその場で回答すれば、大きなトラブルにはなりません。

危なっかしい依頼の見分け方(有料)

ここからは有料記事として、危なっかしい依頼の見分け方と断る方法をお伝えします。私にとって危なっかしい依頼というのは以下のような案件です。

・何度も修正をくり返すがゴールが見えない案件
・依頼から料金回収までが長くなる案件

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