「深読み INCEPTION(インセプション)㉒」(第220話)
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2019年9月20日 朝
スナックふかよみ
フィーバー!フィーバー!
もうサイコー!次はこの曲で踊りましょ!
レッツ、セクシー・ミュージック!
たまんない(笑)
だよね!それじゃあ次は『恋のハッピー・デート』を…
いや。『夢先案内人』じゃ!
J-POPカバー路線は邪道!やっぱりノーランズは80年代よ!
あの…
何!?
このグループ、「NOLANS」っていうくらいだから…
皆さん「ノーランさん」なんですか?
当たり前でしょ!
「ジャクソンズ」や「シンプソンズ」が全員「ジャクソンさん・シンプソンさん」なのと一緒!
デニース・ノーラン、マリー・ノーラン、リンダ・ノーラン、バーニー・ノーラン、コリーン・ノーラン…
「ノーランズ」は全員姉妹!みんな「ノーランさん」よ!
ラモーンズやオカモトズみたいなものです。
世界は一家、人類皆兄弟。
知らなかった。そうだったんですか…
ちなみに、わしの推しはバーニーじゃ。
リードボーカルのバーニー・ノーラン。
そんなこと聞いてませんから…
そういえば、ノーランズとクリストファー・ノーランって…
もしかして親戚?
そんな安易な…
苗字が同じ人なんて、いくらでもいるでしょう。
しかし…
『インセプション』には「ノーランズ」が出演しているんですよ…
キャビンアテンダント… CAさんとして…
ええっ!?まさか!
ホントだよ。
渡辺謙 演じるサイトーが買収した航空会社の客室乗務員は「ノーランズ」なんだよね…
この人?
そう。彼女の名はミランダ・ノーラン…
クリストファー・ノーランの従妹。
あっ…
「ノーランズ」って、そういう意味ですか。
あの美人スッチーはクリストファー・ノーランの血縁関係者だったんだ…
でも1人だけじゃん。ノーラン「ズ」ではないわ。
ミランダの他にも、マグナス・ノーランが出演している。
マグナス?
この映画にとって、マグナス・ノーランの出演は、非常に重要な意味をもつ…
あの役は、マグナス以外には考えられない…
もし彼が居なかったら『インセプション』という物語は…
成立していなかった…
そんな重要な役をノーランの血縁関係者が?
いったい誰のこと?
彼だよ…
は?
もしかして、主人公ドムの息子ジェームズ君を演じていた、ノーランの息子さんのことですか?
そう。彼の名は Magnus Nolan(マグナス・ノーラン)…
クリストファー・ノーランと妻エマ・トーマスの間に生まれた4人の子の末っ子…
得意技は「a house on the cliff(崖の上のおうち)」を作ること…
確かにあの子供の存在は重要だけど、別にノーランの息子じゃなくてもよくない?
ただ砂で遊んでるだけだし、顔もほとんど映らないし…
マグナス君抜きには映画が成立しないなんて大袈裟でしょ…
いや、Magnus君がいなければ『インセプション』は成立しない…
完璧主義者のクリストファー・ノーランなら、そう考えていたはず…
たまたま奥さんが現場に連れて来てたからじゃないの?
本来のジェームズ君役の子が体調不良か何かで来れなくなったからとか。
まさかノーランは最初から自分の息子を出演させようと考えていたってわけ?
というよりも、むしろ…
クリストファー・ノーランは『インセプション』という作品のために…
自分の息子に「Magnus」という名前を付けていた可能性がある…
ちょ、ちょっと待って…
何言ってるのかサッパリわからない…
「マグナス」って名前、ちょっと変わってると思わない?
兄や姉は「フローラ、オリバー、ローリー」っていうんだよ?
確かに、あまり聞いたことない名前だけど…
「Magnus」はラテン語ですね。
ラテン語?
英語でいうところの「great」…
「偉大な・大いなる」という意味です…
女性形は「Magna」で、中性形は「Magnum」…
ああ。それなら聞いたことあります。
マグナ・カルタの「マグナ」ですね。
そしてマグナム北斗の「マグナム」か…
マグナム北斗? それって女子プロレスラーでしたっけ?
あっ… うん… 確かそうだったかなー
そういう与太話はいいの(笑)
ノーランには「Magnus」が必要だった…
「Magnus」が出てこない冒頭シーンなんて、完璧主義者である彼には許せなかったと思う…
やはりノーランは、若い頃から構想していた『インセプション』を完璧なものにするために、自分の息子に「Magnus」と名付け、子役として使ったとしか考えられない…
自分の作品のために、子供に変わった名前をつけた?
そんなことって有り得るの?
それこそ「途方もない考えに取り憑かれた男」じゃん…
そう。
「途方もない考えに取り憑かれた男」とは、ノーラン自身のことなんだよ。
『A man possessed of some radical notions』
Christopher Nolan
は?
もう一度『インセプション』の冒頭シーンを思い出してほしい。
砂浜に倒れていたのは、「主の・神の」という意味の名前の主人公 Dominick(ドミニック、ドム)…
朦朧とした意識の中で、彼は不思議なイメージを見る…
砂で「a house on the cliff」を作っている息子の姿…
演じていたのは Magnus(マグナス)だ…
そしてドムは再び意識を失う…
すると、砂遊びをする子供のイメージは消え、小高い山の上に「断崖のような城壁で囲まれた建物」が現われる…
SAITO(サイトー)の城塞だ…
これとマグナス君と何の関係があるのですか?
Magnus Dominus…
マグヌス・ドミヌス?
「偉大なる主」という意味よ。
はい?
Magnus Dominus et laudabilis nimis in civitate Dei nostri in monte sancto suo…
なにそれ?
偉大なる主、褒め称えるべき哉、我らが神の都、その聖なる山の上にて…
ナウシカ?
詩篇48第1節。
『インセプション』の冒頭シーンは、これを再現したものだ。
詩篇? ダビデが書いた、あの詩篇?
そう。古来より多くの芸術家にインスピレーションを与えてきた偉大な書『Psalm(詩篇)』…
その第48篇 第1節を再現するためにノーランは…
「Magnus」と「Dominick」、そして「山の上にある城塞」を登場させた…
これを再現したいがために、わざわざ自分の息子に「Magnus」と名付けて映画に出したってこと?
役名を「マグナス」にしたらバレバレになっちゃうでしょ?
だから、ありがちな名前「ジェームズ」にして、演じる子供を「マグナス」にした…
念入りに練られた周到な計画だ。これがホントの家族計画だね…
そんな馬鹿な… いくら何でもそんなことって…
天才芸術家というのは、そういうものよ…
あたしたちみたいな平凡な人間とは、考えてる次元、見えている世界が違うの…
しかしいったい何のために?
偉大なるタルコフスキーに少しでも近付くためだよ。
『インセプション』は『ストーカー』を原型にした作品「ノーラン版ストーカー」だ。
その『ストーカー』が詩篇48に基づいている以上、ノーランもそれを踏襲しないわけにはいかない。
エンゲルベルト・フンパーディンクのオペラ『ヘンゼルとグレーテル』じゃなかったの?
『ヘングレ』だけでは『ストーカー』は生まれない。
『ヘングレ』に「詩篇48」を掛け合わせることで初めて『ストーカー』という物語が立ちあがって来る。
SF的要素が皆無なのはそのためだ。
あの… 今更こんなこと聞くのも何ですが…
タルコフスキーって人は、そんなに偉大な映画監督だったんですか?
ノーランがそこまで追い求める程に…
彼は本当に偉大な人物だった。
遺作『サクリファイス』の撮影現場で撮られたこの有名なポラロイド写真を見れば、ノーランがどれだけタルコフスキーに心酔していたかわかるだろう…
Andrei Tarkovsky(1932-1986)
こ、これは…
あの髪型、手にした写真、写っている家と木々…
そしてブルーのインナーシャツに、カーキ色のジャケット…
ノーランの出世作『MEMENTO(メメント)』そのものだ…
なんと…
タルコフスキーそっくりな俳優さんも出てたわよ(笑)
なんてことなの…
これは追い求め過ぎよ、タルコフスキーを…
『ストーカー』を踏襲とかそういうレベルじゃなくて、普通にストーカー…
タルコフスキーが1986年に亡くなっていなかったら、家まで押しかけていたかもしれないね、ノーランは…
もしくは…
異常な熱量の手紙を書いて送りつけたかもしれません…
さすがのタルコフスキーも読むのが怖くて放置してしまうほどの…
ありえる…
そういえば…
わたしの貝はどこ?
は?
今わたしのことを呼んだでしょう?
アリエルと…
そんなオヤジギャグ言ってる暇があったら、さっさと服を着なさいよ。
もうとっくにYシャツは乾いてるんだから。
アンダーヘア―も丸出しで、よく恥ずかしくないわね、まったく…
ヘアーとYシャツと私?
はいはい。言ったあたしが馬鹿でした。
そういえば、あの歌の「部屋」って何だったんですか?
教官は「あの部屋はストーカーの部屋」と言ってましたよね?
ちょうどいいところで思い出させてくれた。
今から話す「詩篇48」と『ストーカー』の関係…
そしてそれがどう『インセプション』に応用されたか…
これらのことを説明するのに、あの歌はうってつけだからね。
あの歌が、ですか?
それではまず詩篇48が「何」を預言した歌なのか解説しよう…
つづく
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