深読み バック・トゥ・ザ・フューチャー vol.22(第192話)
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2019年9月19日
スナックふかよみ
ポール・マッカートニーの『The Long and Winding Road』は、ジョン・レノンの「ある歌」への返歌?
そう。ジョンの歌が「元歌・本歌」で、この歌は「返歌」だ。
インタビューでポールが出した「レイ・チャールズ」という名前がヒントになっているんだよ。
ジョンの「ある歌」に関する重要なキーワード。
「レイ・チャールズ」がヒント?
全然わかりません。
それでは『The Long and Winding Road』の歌詞を見ていこうか…
すぐに「ある歌」の存在に気付くはずだ…
教官。その前にもう一度曲を聴きましょう。
そうだね。
映画『LET IT BE』で演奏されていた形に最も近い、このバージョンを聴いてみよう。
ポールのピアノと、ジョンのベースによって、シンプルに奏でられる「NAKID」バージョン…
ポールが意図していた形の『ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード』を…
確かに、ピアノとベースのための曲ですね。
両者のラインが呼応し、絡み合うように進行していきます。
まるで二人だけの世界みたいに…
そう。それがポールの目的だったわけだ。
リンゴとジョージには申し訳ないが、この曲におけるドラムとギター、そして彼らの存在は背景に過ぎない。
ポールとジョンは、終始、二人だけにしかわからない「会話」を行っているんだよ。
会話?
ポールは、ジョンの「ある歌」を取り上げて、それに対する自分の思いを切々と述べている。
「君はあんなふうに言ったけど、それは本心なの?違うよね?」と。
「ある歌」って何かしら?
そこでジョンは何を言ったの?
歌詞をよく考えれば、すぐにわかるよ。
The long and winding road
that leads to your door
will never disappear I’ve seen that road before
It always leads me here
Lead me to your door
長く、くねった道
君のドアへと伸びている
決して消えることは無い
僕はこの道を前にも見た
それはいつも僕をここに導くんだ
君のドアに導いてくれ
そう。何か感じない?
ちょっとクサいけど、普通にいい詩じゃない?
ですよね… これといって特に…
あれ?
どうしたの?
なんか変じゃありませんか?
何が?
なぜ「僕」は道を進まないのでしょう?
は?
だって、目の前に道があるんですよ。「君のドア」まで続く「決して消えない道」が。
あ…
しかも「僕」はその道を前から知っていると言うんです。
君のもとへ行きたいのなら、その道をひたすら歩いて行けばいいだけのこと。
天才詩人ポールともあろう人が、アントニオ猪木の詩を知らなかったのでしょうか?
言われてみれば確かにそうね…
「君のドアへ導いてくれ」って言う前に「お前が歩けよ」って感じ。
でしょ?
なぜ「僕」は目の前の道を進もうとしなかったのでしょう?
なにか事情があったんじゃない?
「決して消えない道」を進むことのできない理由が…
なんですかそれ?
例えば、こういう道だったとか…
確かに「決して消えない道」ですけど…
「君のドア」に続いているとは思えません…
そうよね…
いったいどういうことなの、岡江クン?
「僕」は目の前にある「決して消えない道」を進まなかった。
なぜならそれは「The Long and Winding Road」だから…
それが答えだ。
んもう!わけわかめ!
目的地へとつづく道があるなら、自分の足で歩けばいいじゃん!
しかも「前にも見た道だ」とか悠長なこと言っちゃってさ!
やる気あんの?
ポールはナマケモノなんですか?
俺が行くのはめんどいから、君から来てくれよみたいな。
そうじゃない。
「僕」は「The Long and Winding Road」を「歩くことが出来ない」んだ。
目の前には見えるけど、その上を進むことは出来ないんだよ。
どうして?
まだ気がつかない?
それじゃあ続きの歌詞を見てみようか…
The wild and windy night
that the rain washed away
has left a pool of tears crying for the day
Why leave me standing here
Let me know the way
嵐の夜、雨はすべてを洗い流す
残されたのは涙のプール、泣き明かしたせい
なぜ僕をここに立たせたままにしておくの?
どうすればいいのか教えてよ
また「僕」は人のせいにしてますね。
ご主人様に「そこで待っていろ」と言われた犬ですか?
しかも「涙のプール」って超大袈裟。
悲しいアピールとか超ウザいし。
こういうこと言われると、一気に冷めるのよね。
ん? 悲しい涙のプール?
どうしたの?
くねった道筋…
悲しい涙のプール…
もしや…
もしや、何?
『ACROSS THE UNIVERSE』のことでは…
アクロス・ザ・ユニバース?
その通りだ。
この歌の「元歌・本歌」にあたる「ジョンの歌」とは『ACROSS THE UNIVERSE』のこと。
あの歌でジョンが繰り返し言った「Nothing’s gonna change my world(僕の世界を変えられるものなどない)」に対するポールの返事が、この歌なんだよ…
ええっ!?
あの歌には「pools of sorrow(悲しみのプール)」というフレーズが出てきたよね。
そして「slither」や「meander」といった「うねり・くねり」を意味する言葉も出てくる。
そしてタイトル「ACROSS THE UNIVERSE」は「a cross the uni verse」という意味にもなっていた。
だからポールもそれに倣ったんだ。
「The long and winding road/Load」つまり「長く、うねりのある道の主」というタイトルでね。
長く、うねりのある道の主?
何のことでしょう?
『ACROSS THE UNIVERSE』は、何を歌にしたものだった?
フラ・アンジェリコの『受胎告知』…
『The Annunciation』
Fra Angelico
だからポールはアンサーソングとして『The Long and Winding Road』を書いたんだ。
ジョンが「夜バージョン」を使ったから、今度は「昼バージョン」で…
『The Annunciation』
Fra Angelico
もしかして「The Long and Winding Road」って、あの光の道のこと?
そうだよ。
主が「白いハト姿」の聖霊になって進む、あの長い光の道だ。
では、ポールがインタビューで「レイ・チャールズ」という名前を出したのは…
「RAY」つまり「光線」というヒント…
その通り。
だけど「winding」じゃないわ。
目的地の処女マリアまで一直線…
そうかな?
先端に近い部分をよく見てごらん...
ああっ!
奥と手前で、うねうねしてるように見える!
ジョンは、当時の心境を「フラ・アンジェリコの受胎告知・夜バージョン」に重ね、絵を見たまま感じたまま歌詞にした。
だからポールは、それと同じことを「昼バージョン」で行った。
ジョンとポール、二人だけにしかわからない、ソングライティングによる「対話」だ。
しかし何のために?
ジョンがあの歌を作ることになった「きっかけ」は何だった?
毎晩のように繰り返される妻シンシアの小言がうるさいから…
もっと私たちファミリーのことを大事にして頂戴、という訴えが…
その通り。
ジョンは妻シンシアを「受胎告知」の天使ガブリエルに重ねた。
だけどポールには、それが自分のことを言ってるようにも感じた。
独自路線を歩もうとしているジョンに意見していた自分のことのように。
ポールはビートルズであること、稀代のヒットメーカー「レノン=マッカートニー」であることを続けたかったのよね。
だから一生懸命だった。
ジョンは、有無を言わせぬ要求をしてくる相手を天使ガブリエルに重ね、自分を選択肢のない乙女マリアに重ねた。
だからポールは「天使ガブリエルの言い分」を歌にしたわけだ。
あっ!
天使ガブリエルは、あの道を歩くことは出来ない…
その通り。あの道は「主」だけが進むことの出来る道。
だから歌の中でも「僕」は「君のドア」に辿り着くことが出来なかった。
道が「君のドア」まで続いていることは見えるのに、「僕」はあの場所から先へは進めないんだ。
でも天使ガブリエルは、めそめそ泣いていないでしょ?
「涙のプール」のアピールは何だったの?
ちゃんと床にあるじゃないか。
「涙のプール」が…
ああっ!
まさに、The wild and windy night that the rain washed away has left a pool of tears, crying for the day…
嵐の夜、洗い流す雨、残された涙のプール、その日は泣いた、です…
ここまで来れば、次のパートもわかるよね?
Many times I've been alone,
and many times I've cried
Anyway, you'll never know
the many ways I've tried
いつだって僕はひとりで
いつだって僕は訴えている
君は気付きやしないだろうね
僕があれこれ苦労してることを
「受胎告知」の絵の中で、いつもマリアに訴えかけている天使ガブリエル…
「処女なのに子供が出来た。しかもそれは神の子だ」という、いろんな意味で「難しい話」を受け入れさせようと…
マリアが「私を変えられるものなど何もない」と言えば、そこですべては終わってしまう…
まさにジョンの返答次第ですべてが終わってしまう瀬戸際に立たされていたポールの苦悩…
だからポールは、こんなふうに歌ったんだ。
And still they lead me back to the long and winding road
You left me standing here a long, long time ago
Don't leave me waiting here
Lead me to your door
そして僕はまたこの場所に連れ戻される
君は僕をここに立たせたままだ
ずっと、ずっと前から
もう僕をここで待たせないで
君のもとへと導いてほしい
ナマケモノの歌じゃなかったのね…
あの距離を保ったまま、相手を説得しなければならない天使ガブリエル…
すぐ上にある光の道は、そのまま相手へと伸びているけど、他の誰かが通る道…
なんだか切ないわ…
本当なら今すぐ昔みたいに抱きしめたい…
そして朝まで二人で曲作りをしたい…
だけど、もうそれは出来ない…
なぜなら、二人はもうあの頃みたいな「子供」ではない…
他の全てを犠牲にして、自分たちの音楽だけに没頭できるわけではない…
それぞれ「大人」になり、それぞれの世界を尊重しなければならない…
「好き」だけでよかった青春時代が終わったのね…
まさに『青春の影』って感じ…
そして映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でも、フラ・アンジェリコの「受胎告知・昼バージョン」は、さまざまな形で再現された。
鳥の翼のような開閉式のドアを持ち、光に包まれながら時空を超えるデロリアンは、まさにこの絵に描かれた聖霊「鳩」がモデルだったよね。
そしてマーティの下着「チラ見せ」も…
ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースの歌う主題歌『The Power of Love(パワー・オブ・ラブ)』も、そうだった…
Yeah, yeah, yeah, yeah...
すべては、ポールが「フラ・アンジェリコの受胎告知・昼バージョン」を『The Long and Winding Road』という歌にしたから…
それとフランク・シナトラ主演映画『It happened in Brooklyn』もね。
それにしても、これまで何度も聴いたのに、全然気がつかなかったわ…
『ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード』が、フラ・アンジェリコの「受胎告知・昼バージョン」を歌ったものだったなんて…
ですね。あの歌詞の不自然さにも…
今まで無意識で脳内補正していました。
『アクロス・ザ・ユニバース』が「夜バージョン」であることに気付かなかったら、このトリックは見破れないだろう。
さて、それでは次の曲に行こうか。
11曲目は『For You Blue(フォー・ユー・ブルー)』…
ジョージ・ハリスンの歌だ…
つづく
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