深読み米津玄師_LOSER9A

米津K師殺人事件 第2楽章『LOSER』第9節「米津玄師と宝石の歌③《フローライト》中篇」



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2019年4月某日

熱海
ホテル湯の谷 客室



ところでさ、深代ママ…

「フローライト」の意味、知ってる?

「蛍石」でしょ?

石の破片を火に入れるとバチバチと音を立てて蛍みたいに輝くからってwikiに書いてある。


「蛍石」はフローライトの和名だ。

「fluorite(フローライト)」というのはね…

ラテン語で「流れる」を意味する「fluere」と、「石」を意味する接尾語「~ite」がくっついたもの…

つまり「流れる石」という意味なんだよね。

「流れる石」?

変わったネーミングね…

でもそれがどうかしたの?

あのMVの帽子の少年の名前は、知ってる?

はあ?

急に何言い出すのよ。

知ってるわけないじゃん。名前なんか出て来ないんだから。

あの少年の名前も「フローライト」なんだ。

え!?

彼も「流れる石」なんだよ。

別のラテン語のね。

別のラテン語?

彼の名は「PETRO(ペトロ)」っていうんだ。

PETRO?

確かにラテン語で「石」って意味だけど…

「流れる」は?

「PETRO」は「流れる石」という意味でも使われるんだ。

たとえば「PetroChina(ペトロチャイナ)」とか…

ベネズエラの仮想通貨「Petro(ペトロ)」とか…

それって「石油」のことじゃん。

そう。

本当はラテン語で「岩石の油」という意味の「Petroleum(ペトロリウム)」なんだけど、後ろの「leum」は省略して「Petro(ペトロ)」と呼ばれることが多い。

米津玄師は「流れる石フローライト」と「岩石の油ペトロ」をラテン語の駄洒落として使ったんだよ。

『鏡の国のアリス』の著者ルイス・キャロルのペンネームが、本名チャールズ・ラトウィッジのラテン語を介した言葉遊びだったようにね。

ラテン語の言葉遊び?

何のために?

この『フローライト』という歌は「使徒ペトロ」の歌なんだ。

あの帽子の少年が使徒ペトロなんだよね。

シモン・ペトロ(ペテロ)
聖カタリナ修道院 所蔵

ええ!?

ちょっと待って…

あの子と使徒ペトロ…

顔、似てない?


二重でクリっとした目とか、口もととか、そっくりだよね。

どう考えても米津玄師がキャスティングに関与したとしか思えない。

この絵のペトロとよく似た子をMVで使うために。

マジで!?

じゃあ少女のほうは誰なの?

なぜ「女の子」だと決めつける?

え?

だって、髪長いし、ワンピース着てるし…

じゃあこの人も「女の子」なの?

同じように長髪で、丈の長いワンピース着てるけど…

『主イエスの変容』ラファエロ

あっ!そっか!

あたし、また外見で人を判断しちゃった…

『vivi』で学んだはずなのに…

『フローライト』とはラテン語で「流れる石」…

それを米津玄師は同じラテン語で「岩石の油」を意味する「ペトロ(石油)」の駄洒落として使ったんだ…

この歌のテーマが「使徒ペトロと主イエス」だから…

そして…

米津玄師はMVに、使徒ペトロと主イエスにそっくりな子供モデルを起用した…

ってわけ?

そういうこと。

でもさ…

なんか出来過ぎてない?

岡江クンが深読みし過ぎてるだけなんじゃない?

そんなことないよ。

EMTG MUSICでのインタビューで、米津玄師は興味深いことを話している。

僕はこれを読んだ時、『フローライト』が「使徒ペトロ」を歌ったものであることを確信したね…

EMTG:PVが公開された「フローライト」。フローライトとはホタル石のことで、子供のような心を蘇らせるパワーストーンらしいですけど。

米津:フローライトって元々好きで。光によって色が変わったりするらしいんですけど。石とか、目に見える実際そこにあるものに対して、ふとした瞬間に昔のこととか思い出したりする瞬間とかあるじゃないですか。例えばコーヒー飲んだ時に、コーヒー好きだったあいつのことを思い出すとか。コーヒーを通してあいつの顔を見ているとか。そういうものでは、形にならないものが、形になる瞬間というのがあって。それを一つ曲にしてみたいと思いました。

EMTG MUSICインタビューより

フローライトが元々好きって言ってるわりに「光によって色が変わったりするらしいんですけど」って変ね…

「らしい」ってことは、実物を知らないってことじゃん…

そうなんだよね。

米津玄師はこれまで話した通り宝石の歌をいくつも作ってるんだけど、実は物質としての宝石自体にそこまで関心はないんだと思う。

彼の関心は、自分の創作活動の中で、救世主の出現を預言した『イザヤ書』を再現することにあるんじゃないかな…

Isaiah
54:11 苦しめられ、嵐にもてあそばれ
慰める者もない都よ見よ、
わたしはアンチモンを使ってあなたの石を積む。
サファイアであなたの基を固め
54:12 赤めのうであなたの塔を
エメラルドであなたの門を飾り
地境に沿って美しい石を連ねる。

そういえば「コーヒーで昔のことを思い出す」ってのも、なんだか意味深よね…

「コーヒーを通してあいつの顔を見ている」って表現も…

あのインタビューにおける「石」とは「ケファ(ケパ)」のことだろう。

「ケファ」とはアラム語で「石」という意味で、イエスが漁師シモン(使徒ペトロ)につけたニックネームだ。

ヨハネによる福音書
1:42 そしてシモンをイエスのもとにつれてきた。イエスは彼に目をとめて言われた、「あなたはヨハネの子シモンである。あなたをケファ(訳せば、石/ペテロ)と呼ぶことにする」

そして「コーヒー」とは「黒い液体」、つまり「石油」のこと…

「石油」は「ペトロ」だから。

つまり米津玄師は「コーヒー」を見て、同じ黒い液体である「石油(ペトロ)」を連想し、同じ名前の「使徒ペトロ」のことに思いを馳せ、この曲を書いたってわけか…

そう考えると、あのインタビューも納得よ。

使徒ペトロはよく歌にされるからね。

「風見鶏の憂鬱を頼まれもせずに考えた」という歌詞で始まる森山直太朗の『明けない夜はないってことを明けない夜に考えていた』もそうだった。

岡江クン、好きよね、この曲。


だって「ろくでなしのブルースを3コードで歌にした」なんて歌詞、最高だと思わない?

米津玄師が『Moonlight』の中で「ハンターハンター」という言葉を使ったのは、森山直太朗の影響だと僕は思ってるくらいだ。

それはそうと…

『フローライト』MVの「少年と少女」が「使徒ペトロと主イエス」だとしたら…

あの赤い化け物と米津玄師は何なの?

ヒントは米津玄師の服装にある。

服装?

あのラクダ色のジャケットと、ジプシー風のポンチョに?

もう答えが出てるようなもんだけど。

え?



つづく




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