第125話「ポール・サイモンの ONE-TRICK PONY ⑭「Jonah」前篇
前回はコチラ
2019年9月19日
スナックふかよみ
深読みの力を信じるんだ。
May the Fukayomi be with you…
すべての答えは、次の曲の中に隠されている…
つ、次の曲の中に?
迷わず行けよ。行けばわかるさ…
それでは、アルバム『ワン・トリック・ポニー』の8曲目…
すべての答えが隠された歌『Jonah』に行ってみよう…
あ、その前にドリンクもらっていい?
また話が長くなりそうだから。
確かに(笑)
あたしも、もらっておこうかしら。
それじゃあ私もついでに…
はいはい皆さん、ちょっと待ってね…
あっ…
どうしました?
グラスが無いわ…
ジョーったら、ぜんぜん洗ってないじゃん…
あれ…
ちょっと前に、まとめて洗ったような気がするのですが…
じゃあコレは何?
わかりました…
今から急いで洗います…
盃がないけえ、これで、互いの腕切って血ィすすろうや。
ちょ、ちょっと!
『ライフ・オブ・パイ』のモデルになったイギリスの船乗りリチャード・パーカーじゃないんだから!
ライフ・オブ・おっぱい。
んもう!チチの件はごめんなさい!
だからそんな物騒なモノ、早くしまって頂戴!
ねー。ドリンクまだー?
馬の小便、いうなら、ホンマもんの小便飲ましたろうか?
誰がオッサンのションベンなんか飲むかっつーの!
まだ深代ママのお聖水のほうがいいわ!
言うたらアレや、オメ…
はいはい。そこまで(笑)
話を進めて頂戴、深読み名探偵さん。
は、はい…
それでは改めて、アルバム『ワン・トリック・ポニー』の8曲目…
すべての答えが隠された歌『Jonah』に行ってみよう…
Paul Simon『Jonah』
アンニュイというか…
なんだか寂しげな歌ですね…
映画『ワン・トリック・ポニー』の主人公ジョナ同様、ポール・サイモンの痛々しいまでの心情がにじみ出ている名曲だと思う。
歌詞はコチラ。
この歌詞、なんだかドラマのワンシーンみたいよね…
Half an hour, change your strings and tune up
「30分で、弦を張り替え チューニングする」
いきなりコレだもん。
それから…
Sizing the room up
Checking the bar
「部屋のサイズを確認し、バーをチェックする」
当日移動で地方のホテルに入り、30分でギターのセッティングをして、夕方からのライブまで少し時間があるので、部屋の仕様を確認し、ライブ後に飲みに行くバーをチェックする…
という感じですかね。
そしてポール・サイモン演じるジョナは、いきなり田舎娘に注目する。
Local girls, unspoken conversation
Misinformation
「田舎娘が噂話をしていた。しかもガセネタについて」
「unspoken(声に出さない)」だから噂話は出来ないと思います。
じゃあどうやって「conversation(会話)」するのよ。
テレパシーでも使うの?
たぶん… 手話かなあ…
そして、最後にギターを奏で始める…
Plays guitar
ん?
どうしました?
なんか、気にならない?
何がですか?
田舎娘の声にならない噂話が「ガセネタだった」って、どういう意味だろ?
うーん。何でしょうね?
古今東西、女性たちの噂話はだいたいガセネタだと思いますが…
それを聞いたジョナが、いきなりギターを弾き始めるのもオカシクない?
え? まあ、確かに…
何か引っ掛かるのよね…
他に意味があるんじゃないかしら…
その通り。
ポール・サイモンは1番で「別のこと」を歌っている。
「ライブが始まるまでの歌手の行動」に偽装してね…
別のこと? 何それ?
主人公は歌手じゃないの?
想像力をうんと膨らませて、深読みの力を解き放つんだよ…
そうすれば、自ずと進むべき道は見えてくる…
想像力?
と。
もうお金の話はおわったでしょ!
しかも数百円じゃなくて200ドル!
想像してみよう。
なぜ主人公は…
「30分」という短い時間で…
「change strings」をして…
「tune up」しなければならなかったのか…
ギターのことより、バーとかオネーチャンのことが気になってたからでしょ!
部屋のサイズとか確認したのも、女を連れ込むためよ!
ライブ後の「お楽しみ」で頭がいっぱいだったの!
地方出張に行った男は、みんなそう!
なぜ「change strings」したり「tune up」したのが「ギター」だと言い切れる?
は?
「弦を替える」や「チューンアップする」は、ギターのことに決まってるでしょ?
ポール・サイモンは、まだ「ギター」という言葉を出していない…
1番の最終フレーズで、ようやく「Play guitar」と歌う…
確かに、そうだけど…
どういうことなの?
岡江クンの頭の中では、いったいどんな想像が膨らんでるの?
僕には、こんな光景が見える…
当初 部屋の中に居た主人公には、時間が限られていた…
30分で装いを新たにし…
部屋を隅々まで確認して…
所定の位置であるバーまで行かなければならなかった…
は? 推理小説や二時間ドラマのアリバイ工作じゃないんだから。
どうして主人公には時間が限られていたのでしょう?
なぜなら…
早くしないと、地方出身の女が…
部屋に戻って来てしまうからだ…
お、女は、主人公の部屋に一度来ているのですか?
そうだ。
だけど一度目は、部屋の中には入っていない…
え?
一度目の訪問時…
女は主人公の部屋の手前で、ある異変に気付いた…
なぜか入口の扉が、大きく開け放たれていたんだ…
入口のドアが?
犯罪大国アメリカの繁華街にあるホテルで、ドアを全開にしてるなんて…
開け放たれていた入口を見て、女は「最悪の事態」を想像した…
そして恐怖を感じ、すぐさまその場を立ち去った…
え? 女は部屋の中を見てないの?
気が動転していたし、身の危険を感じたこともあるだろう…
もし賊がまだ室内にいたら危ないからね…
賊って…
主人公は誰かに狙われてたの?
そう。
主人公は、とある新興組織のトップだった…
だけど、この地域一帯をシマにしていた組織とトラブルになって、命を狙われたんだ…
マジで…?
なんかヤクザ映画みたいじゃん…
恐怖に駆られた女は、街まで走り、主人公の部下に助けを求めた…
組織のトップ代理を務めていた男と、主人公が最も可愛がっていた若い男の二人に…
それって、いわゆる若頭と舎弟のことよね!
まあ、そんなところだ…
さて、女から話を聴いた二人の男は、ボスの部屋へ急いだ…
だけど若頭は高齢であったため、走るのが遅く、現場に着くまで時間がかかった…
そんなところまでわかるの?年齢だけじゃなくて足の速さまで?
ああ。想像力とそこから生まれる深読みの力に限界は無い。
May the Fukayomi be with you...
事件の推移を続けよう。
一足先に部屋に着いた舎弟は、入口の外から中を覗いた…
すると、クシャクシャになっていたシーツが見えた…
ボ、ボスは?
外からでは、中の様子が一部しか見えなかったんだ…
そこに若頭が到着し、走ってきた勢いのまま部屋に入っていく…
しかし部屋には誰も居なかった…
そして若頭は、ベッドから離れた場所で、ある「白いモノ」が丸めて捨てられているのを発見する…
丸められた白いモノ? いったい何ですか?
寝ていた主人公が頭に被っていたものだ…
え?
男はヘアキャップをして寝ていたんですか?
そう。主人公の男は、頭も含めて全身を包み込むような装束で寝ていたんだ…
舎弟も部屋に入って来て、二人はこの状況が何を意味しているのかを考えた…
主人公の男は何者かに連れ去られた…
生きたままか、もしくは殺されて…
自殺の線は?
は?
実は全部ボスの自作自演だったの。
殺されたように見せかけて自殺して、拉致されたように見せかけて自分で姿を消した…
神輿が勝手に歩ける言うんなら、歩いてみないや、のう。
なんでさっきから広島弁なの?
結局、若頭と舎弟は、首をひねりながら帰っていった…
かたや女は、ずっと部屋の入口の前で泣き崩れたまま、動くことができなかった…
よっぽど惚れてたのね、女は主人公の男に…
しばらくして女は…
誰も居るはずのない部屋の中から、男の声が聞こえてくることに気がついた…
え?
女がそっと部屋を覗くと、そこには驚くべき光景が…
白衣を着た見知らぬ二人の男が、ベッドに座ってこちらを見ていたんだ…
ひとりは枕元に、もうひとりは足元の方で…
ええっ!?何ですかそれ!?
白衣って、まさか警察の検視官?
いつのまに入ってきたの?
そんなわけないでしょ!
女はずっと部屋の入口の前にいたんだから!
それじゃあ、部屋のどこかに隠れてたとか?
バスルームとか、クローゼットの中とか…
なんで検視官が隠れてるのよ!わけわかめ!
白衣の二人は冷静な口調で、泣いている理由を女に尋ねた…
女は答えた。愛する人が誰かに連れ去られたと…
そして後ろを振り向き、どこか遠くへ連れ去られてしまったに違いないと泣き崩れた…
すると女の視界に、こちらに歩いてくる男の姿が入った…
この男も女に尋ねた。「なぜ泣いているのですか?」と…
今度は誰でしょう? 刑事かな?
女は男のことをここの従業員だと思い、絶対に何か知っているはずだと問い詰める…
すると男は意外な言葉を口にした…
それは、その女の名前…
え? どうして? どうして名前を知ってたの?
女が従業員だと思った男は…
よく見ると、姿を消した最愛の男だったんだ…
ええーーーーっ!?
主人公の男は死んでいなかったんですか?
あの検視官の二人は偽物で、グルだったということですか?
うふふ(笑)
何がオカシイの?
あたし知ってる。
男が口にした、この女の名前…
え?誰?
女の名は、メアリー…
ついでに言うと、年くった若頭の名はピーターで…
男のお気に入りだった舎弟の名はジョン…
全部ありふれた名前じゃないの!
花子に太郎に次郎みたいなものよ!
どうせ適当に言っただけでしょ!
それでは、主人公の男の名は?
言っても、いいのかしら?
深読み名探偵さん?
はよせんかい…
あとがないんじゃ... あとが...
(「巻き」のジェスチャーをする)
は、はい…
実を言うと、この深読みのカラクリは、とても簡単なんだ…
カラクリ?
前の前の曲『Ace in the Hole』は…
「穴の中に埋葬されるイエス」を歌ったものだったよね?
うん。
前の曲『Nobody』は「No body」で「大切な存在が消える」ということ…
つまり「イエスの遺体が消える」ということを表していた…
う、うん…
となると、順番からいって…
この『Jonah』という曲では、何が歌われる?
え? その流れからすると…
復活したイエスが…
姿を現す?
そういうこと。
1番は、そのシーンを歌っている。
ええーー!?ホントに?
もしかして…
さっきの話は『ヨハネによる福音書』第21章とか…?
20:1 さて、一週の初めの日に、朝早くまだ暗いうちに、マグダラのマリヤが墓に行くと、墓から石がとりのけてあるのを見た。
20:2 そこで走って、シモン・ペテロとイエスが愛しておられた、もうひとりの弟子のところへ行って、彼らに言った、「だれかが、主を墓から取り去りました。どこへ置いたのか、わかりません」。
20:3 そこでペテロともうひとりの弟子は出かけて、墓へむかって行った。
20:4 ふたりは一緒に走り出したが、そのもうひとりの弟子の方が、ペテロよりも早く走って先に墓に着き、
20:5 そして身をかがめてみると、亜麻布がそこに置いてあるのを見たが、中へははいらなかった。
20:6 シモン・ペテロも続いてきて、墓の中にはいった。彼は亜麻布がそこに置いてあるのを見たが、
20:7 イエスの頭に巻いてあった布は亜麻布のそばにはなくて、はなれた別の場所にくるめてあった。
20:8 すると、先に墓に着いたもうひとりの弟子もはいってきて、これを見て信じた。
20:9 しかし、彼らは死人のうちからイエスがよみがえるべきことをしるした聖句を、まだ悟っていなかった。
20:10 それから、ふたりの弟子たちは自分の家に帰って行った。
20:11 しかし、マリヤは墓の外に立って泣いていた。そして泣きながら、身をかがめて墓の中をのぞくと、
20:12 白い衣を着たふたりの御使が、イエスの死体のおかれていた場所に、ひとりは頭の方に、ひとりは足の方に、すわっているのを見た。
20:13 すると、彼らはマリヤに、「女よ、なぜ泣いているのか」と言った。マリヤは彼らに言った、「だれかが、わたしの主を取り去りました。そして、どこに置いたのか、わからないのです」。
20:14 そう言って、うしろをふり向くと、そこにイエスが立っておられるのを見た。しかし、それがイエスであることに気がつかなかった。
20:15 イエスは女に言われた、「女よ、なぜ泣いているのか。だれを捜しているのか」。マリヤは、その人が園の番人だと思って言った、「もしあなたが、あのかたを移したのでしたら、どこへ置いたのか、どうぞ、おっしゃって下さい。わたしがそのかたを引き取ります」。
20:16 イエスは彼女に「マリヤよ」と言われた。マリヤはふり返って、イエスにむかってヘブル語で「ラボニ」と言った。それは、先生という意味である。
その通り。
ポール・サイモンは、マグダラのマリア視点で描かれているヨハネ第21章を「イエスの視点」から描いたんだ。
Half an hour,
Change your strings and tune up
Sizing the room up
Checking the bar
男に与えられた時間「30分」というのは、異変に気付いたマグダラのマリアが、ペトロとヨハネを連れて戻って来るまでの時間のこと…
この絵でもわかるように、イエスが埋葬された石窟とエルサレムの街は、ちょっと距離があった…
女性が走って往復したら、だいたい30分くらいだろうね…
『磔刑図』
アンドレア・マンテーニャ
確かに…
アラフィフのあたしには無理だけど、マグダラのマリアみたいに若い子なら30分てとこね…
『Mary Magdalene』
レオナルド・ダ・ヴィンチ
その間、まずイエスは、体に巻かれていた「長い包帯のような亜麻布」を剥ぎ取り、石棺の上に置いた…
そして頭に巻かれていた布も剥ぎ取り、石棺から少し離れたところに丸めて置いておいた…
それから新しい衣装に着替える…
こちらの衣装も「長い布」を巻くタイプのものだ…
この一連の作業をポール・サイモンは「change your strings」と表現した…
なるほど。うまいわねポール・サイモン。
そして「and tune up」は…
もはや人間ではない「神バージョン」のイエスになったということ…
そういうことだ。
そして着替えたイエスは、墓の中の広さや細かな形状を最終確認した。
丸めて置いておいた布を、これから入ってくるペトロやヨハネが気付かなかったら大変だからね。
それに、後で自分が登場するシーンのためにも、石棺に座る天使と入口に座り込むマグダラのマリアの位置関係なども頭に入れておかなければならなかった…
これが「Sizing the room up」つまり「部屋の広さや隅々を調べる」だ…
なんてことなの…
じゃあ「Checking the bar」は?
次にイエスは、身を隠さなければならなかった…
しかも、墓の入口がよく見えるところでなければならない…
墓の様子を観察しながら、タイミングを見計らって、泣き崩れるマグダラのマリアの背後に、そっと近づくことができる場所…
そんな場所は、ひとつだけだ…
十字架のそばに、ちょうどいい穴があいていましたね…
どうぞ隠れてくださいと言わんばかりの…
げえっ!
そして30分後…
マグダラのマリアが、イエス教団のトップ代理を務めるペテロと、イエスに最も愛されていた弟子ヨハネを連れて戻って来た…
まず、一番足の速かったヨハネが墓に到着し、入口から中を覗き、脱ぎ捨てられた亜麻布を確認…
それからペテロがやって来て、二人は墓の中を調べた…
『墓の中のペトロとヨハネ』
グエルチーノ
だけど二人は「復活の預言」を心から信じてはいなかったので、イエスが消えたことの意味が理解できず、そのまま帰ってしまう…
いっぽうマグダラのマリアは、入口の外で泣き崩れたまま、墓の中を見ていた…
すると、墓の中に白衣の天使が二人現われ、マリアに「なぜ泣くのか?」と語りかける…
マグダラのマリアは、こう答えた…
「あの人の遺体が誰かに盗まれて、どこかに運び去られた」と…
ガリラヤ地方の田舎出身だったマグダラのマリアが…
間違った情報をもとに会話を交わす…
しかも相手は天使だから、もしかしたらリアルな声ではなく、頭の中だけで会話していたのかもしれない…
まさに…
「Local girls, unspoken conversation misinformation」だわ...
マグダラのマリアは、天使との会話に気を取られてた…
まあ当然といえるだろう。何せ目の前に突如本物の天使が現れたわけだから…
この隙に、イエスは隠れていた十字架のそばから移動…
途方に暮れているマリアの背後にゆっくりと近づいていった…
そしてイエスはマグダラのマリアに語りかける…
「復活」の福音を…
だから最後にひと言「Plays guitar」だったのか…
奏でられた曲は、主の福音…
そういうこと。
なにこの想像力…
ポール・サイモン、おそるべし…
濃厚だったわね、今回は…
さあ次の曲、9曲目に行きましょ…
山守さん… 歌はまだ残っとるがよう…
あっ、そうだった…
まだ1番しかやってなかったわ…
誰ですか? 山守さんって?
だけどさ…
この歌『Jonah』って、旧約聖書『ヨナ書』のヨナのことでしょ?
そうだよ。だから続くサビではヨナのことが歌われる。
なんで1番でさ…
ここまでマグダラのマリアの存在がフィーチャーされてるの?
いいところに気付いたね…
それがこの歌に隠されたメッセージを読み解く鍵なんだ…
え?
つづく
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