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深読み 米津玄師の『さよーならまたいつか!(『虎に翼』主題歌)』第2話
前回はこちら
2024年2月某日
都内某所の自宅
(主題歌の依頼から三日目)
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『虎に翼』のヒロイン猪爪寅子のモデルは「五黄の寅」生まれの三淵嘉子…
それまで男だけのものだった法律の世界に初めて現れた女性…
女性の活躍を前面に押し出した作品…
うーん…
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わんっ!
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やれやれ、またか…
こっちへ来ちゃダメだって言っただろう?
いい子だから向こうへお戻り、ハチワレ…
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クーン…
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そんな声出すなよ…
この仕事が片付いたら、たっぷり遊んであげるからさ…
わかったかい?
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・・・・・
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やれやれ…
あれからもう二日が過ぎたけど、さっぱり歌詞が思いつかない…
どうしたらいいんだろう…
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わんわん!
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どうした、ハチワレ?
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わんわん!わんわん!
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窓の外?
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わんっ!
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あ、そうか…
家に籠ってばかりいないで、少しは街にでも出れば、何かアイデアが湧くだろうって言いたいの?
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わんっ!
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なるほど、お前の言う通りかもしれないな…
ここで椅子に座ってずっと一人で考えていても堂々巡りだ…
何も新しい発見や視点など見つかるはずがない…
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わんっ!
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ありがとう、ハチワレ…
お土産には御馳走を買ってきてあげようか…
お前の大好きな、いつものアレを…
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わん!わん!わん!
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それじゃあ、ちょっと出かけて来るとするか。
なるべく遅くならないようにするから、いい子で待っているんだよ?
いいね?
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わんっ!
新宿二丁目
仲通り クイン東入ル
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なぜハチワレに言われるまで気が付かなかったんだろう…
最初からここ「スナックふかよみ」へ来ればよかったんだ…
あの『Lemon』の時のように…
ん?
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電気がついてない…
もう店をやってる時間のはずだけど、休みなのかな…
おや? ドアに張り紙が…
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せっかく来て頂いたのにごめんなさい
今夜の開店時間は9時頃になります 深代
なるほど。用事で遅くなるのか。
9時まではあと1時間半… 何とも微妙な時間だな。
それまでどうしよう…
「ズズッ… ズズッ…」
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ん? 何の音?
「ズズッ… ズズッ…」
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何だ… 酔っぱらいサラリーマンの千鳥足の音か…
まだ夜も浅いというのに、こんなフラフラになるまで飲んで…
大丈夫かな、この人…
「ズズッ… ズズッ… ズズッ…」
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あ、そうだ…
「あそこ」へ行ってみようか…
ちょっとした時間をつぶすには、もってこいだもんな…
ここから歩いてすぐだし…
五分後
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新宿末広亭…
『死神』のミュージックビデオを撮った時以来だから、三年ぶり?
まあ、あの時は営業時間外に撮影したから、実質初めてとも言える…
ちょっと楽しみだな。さて入ってみようか…
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良かった。平日だから割と空いてる。
しかもちょうど演者が入れ替わるナイスなタイミングだ。
あまり目立たないように、後ろの隅っこの方に座ろう。
おっと、出囃子が始まったぞ…
(三味線の出囃子)
♬~♪~♬~♪~♬~♬~
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観客の拍手
「パチパチパチパチパチ…」
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この出囃子、俺の曲じゃん。
何の断りもなく勝手に使いやがって。
まったくふざけた噺家がいるもんだ(笑)
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観客の拍手
「パチパチパチパチパチ…」
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え~、落語というものは、頭だか尻尾だか訳の分かんないことを、え~、ボンヤリと喋っている、それをまた皆様方がボンヤリと聞くところにいいところがあるんで。よく大変熱心に聞かれる方がありましてね。え~、ことにこの寄席の方なんかですってぇと、大学の落語会の方の生徒さんや何かが一番前の席のところに陣取ってて、何か手帳にペンか何かを持ちましてね、こちらが噺をしていてちょっと間違えると、シュッとチェックしたりなんかして。何か取り調べを受けているようなもんですが…
観客「あはははは(笑)」
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それほど真剣になって聞くほどのものじゃないんですな。ボーっと聞き流して頂くと我々の方も大変に助かるようなわけでして。え~、ま、だからよくお客様方には言われます。「お前方はいいなあ。馬鹿なことを言って商売になるんだからなあ。てめえの身の上話をしてりゃいいんだから」なんてことを言われるんですが、そりゃあ、そちらの方から見るってぇと馬鹿なように見えます。たいへん間抜けに見えます。これは間抜けに見えなきゃいけないんですな。そういうふうに一生懸命つとめている。お客様に優越感を与えるために。だから遠目は馬鹿に見えますがね、よーく付き合ってみると、やっぱり馬鹿だったりしますけれど…
観客「あはははは(笑)」
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そのへんのところが大変に難しいといえば、まあ難しいもんですが。え~、ま、だいたいがこの、世の中どんどん変わって来ているのに大変ノンキな商売でしてね、こうやって着物なんぞを着て、他の方たちと違う、わざわざこういう特設の台か何かに載せて頂いて喋っておりますが…
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(面白い枕だな。いったいどんな話につながるんだろう)
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よく、あの、お年寄りなんかとお話をいたしまして、「昔はどうでした?」なんてなこと言っていろいろなことをうかがってますと、「ずーっと世の中見てきて、ガタンと変わったよ」と、こういうことを言われますな。「世の中、徐々に変わってきたんでしょ?」って言ったら、「そうじゃない。世の中ってのは、昔から見てるってぇと、徐々に変わってきているかなって思ううちに、ガターンと変わっちゃったんだ。あんまり変わり方が激しいんで、あたしなんざ、驚いてるよ」なんてなことをお年寄りからうかがいまして。「何がキッカケでそんなに変わったんですか?」って聞いたらば、やっぱり電気だそうですな。電気というものが、この世の中にバっと人間がこしらえ上げてからというもの、ガラッと変わっちゃったそうですな。それからというもの、ダダダダダダダっと、あっという間に世の中どんどんどんどん変わっちまった。
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(電気?)
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そりゃあもう、確かにそうでしょうねぇ。夜だって、おもては今ずいぶんと明るいですが、昔はもう本当に真っ暗だったそうですな。電気が無かった時分なんざ、余程繁華な土地でも、もう、ちょいとこの暗くなってくるってぇと、みんな大戸を閉めちまって、そいでシーンと静まりかえっちまう。だから、おもてを歩くのに、みんな提灯でね、足元を照らして歩く。だけど、この、昼間っからあんなもの持って歩くなんて、どうも間抜けでいけない。雨上がりん時に傘もって長靴はいて歩いてるようなもんで、なんか間抜けでしょうがない。だから「そんなもの持たねえよ俺ァ。慣れてっから平気でい、暗闇なんざァ」なんてんでね、若い方になるってぇと平気なもんですな。デコボコ道を足駄かなんか履いてね、真っ暗んところダーーーーっと駆け出せるんですねぇ。明るくなってトーーーンと転んだりなんかして。
観客「あはははは(笑)」
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え~、大変にこの、人間というものは慣れというのが恐ろしいもんですが。え~、その時分、若い人たちはいったいどういうところへ遊びに行っていたのかと思ってうかがってみましたところ、横丁の稽古屋さんなんかへ参りましてね、お稽古事をする。まァ芸を習うというのも一つの楽しみなんですが、まァ師匠を交えてお弟子さん連中がいろんなことを言ってワイワイワイワイ言っている、これが大変に楽しい。あと、遊びとしてはどんなものが盛んだったかというと、やはり碁将棋だったそうですな。碁将棋に凝って親の勘当を受けるまでいっちまう、なんていうようなことがよくあったそうですな。え~、昔はもう、それこそ閉め出しを食っちゃったりなんかしてね…
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(あ、上着を脱いだ… いよいよ落語の始まりか…)
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半七「あの、すいません!トントントントン!おとっつあん!トントントントン!あいすいません!トントントントン!ちょいと開けて頂きたいんですが!明日の晩から早く帰ってきますから!今夜はもっと早く帰ろうと思ったんですがね、よしゃあ良かったんですが、あと一番つきあってくれって言われましてね、ちょっと手ぇ出しちゃったもんですから夢中になりまして遅くなりました!明日の晩から早く帰りますから、開けてくださいな、おとっつあん!」
お花「あの、あいすいません… 明日の晩から早く帰りますから、開けてくださいな、おっかさん…」
半「おとっつあん、開けてくださいな!」
花「おっかさん、開けてくださいな…」
半「おとっつあん!」
花「おっかさん…」
なんだ、掛け合いだね、どうも、ええ?
観客「あはははは(笑)」
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半「おや?誰かと思ったら、お向かいのお花さんじゃありませんか」
花「あら、まあ、半ちゃんじゃありませんか。どうなさいました、こんなに夜遅く」
半「ええ今ね、友達と一緒にね、将棋さしてて閉め出し食っちゃったんですよ」
花「あら、そう。あたしも今ね、お友達と一緒に歌カルタとってて、閉め出し食べちゃったの」
半「何だい、食べちゃったってのは」
花「だってあたし女じゃないですか。閉め出し食っちゃったなんて、そんな品の悪い…」
半「そんなの品が悪いほうがいいんだよ」
観客「あはははは(笑)」
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半「お互いに困りましたねぇ」
花「半ちゃん、どうなさるの?」
半「うちの親父は強情ですからね、閉めちゃったら開けてくれませんから。まあ仕方がないから、これから叔父さんのうちへ行って泊めてもらいますよ。霊岸島の叔父さんのとこへ」
花「まあ、近くに叔父さんがいて羨ましいわねぇ。あたしも叔母さんが一人いるんですけど、ちょいと遠いんですよ」
半「どこなんです?」
花「肥後の熊本なの」
半「そりゃ遠いや」
観客「あはははは(笑)」
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花「あの、半ちゃんにお願いがあるんですけど、これから叔父さんの家に行くんでしたら、あたしも一緒に連れてって、今夜一晩どこでも構いませんから、泊めて頂けないかしら?」
半「いいえ、それはダメ。ダメなんですよ。もうとにかく、あたしが毎晩のように閉め出しを食ってるでしょ?叔父さんの家に行って泊めてもらって、明くる朝になると、叔父さんを引っ張って来て色々と言い訳を言ってもらったりなんかして。今ね、両方をしくじっちゃってるんですよ。ね?そんでそんなところに夜遅く知らない女の人を引っ張ってってごらんなさいよ。もう、大変なことになりますよ…」
花「知らなかないわよ。半ちゃんのとこの叔父さんって人、よく知ってるわよ。ほらほら、あの赤ら顔で、でっぷりと太った方でしょ?目のわきにコブのある方じゃない?」
半「そりゃコブはありますよ。あったっていいでしょ?」
花「それはいいのよ。だいいち、いいコブよ。あれはね、ヨロコブ(喜ぶ)と言って…」
半「何を言ってんですよ。そんなこと言っておだてても無駄ですから」
観客「あはははは(笑)」
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半「とにかく、あたしは叔父さんとこ行きますから、あんたは自分の家をドンドン叩いて開けてもらいなさい。いいですか?ごめんください、おやすみなさい…」
半「ったく冗談言っちゃいけないよ。何を言っているんだかなァ。夜遅く、そんな若い女の子なんか連れて行ける訳がねえじゃねぇか。本当にヤダねえ、女ってぇのは、ああいうことを平気で言えるんだからねぇ…」
花「そんなこと言わずに連れてって頂戴な」
半「なんだ、ついて来てんなァ。困るんですよ、ついて来てもらっちゃあ。いや、あのねえ、ホントのこと言いますとね、実はね、うちの叔父さんというのは、おいそれの叔父さんと申しましてね、何でも自分ひとりで勝手に心得ちゃう叔父さんなんですよ。ね?そんなところに夜遅く若い女の子を引っ張ってってごらんなさいよ。どう捉えるかわかりませんから…」
花「どう捉えたっていいじゃありませんか。お互いに何にもないんですから」
半「そりゃそうですけど、そういう訳にはいかないんだから。悪く思わないでくださいよ、いいですか? ごめんください…」
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(なるほど… 若い男女が家から追い出される話か…)
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半「ったく何を言ってんだ、冗談じゃねえや。いけないっていうのに来るってんだからねぇ。どうして女ってぇのは、ああ図々しいかねぇ…」
花「どうせあたしは図々しいのよ」
半「まだついて来んなァ。そっから帰ってくださいよ。困るんだよ、ついて来られちゃ、ねぇ。あたしが嫌だということをしないでくださいよ、ね?そっからお帰んなさいよ。あんた、だんだんうちから遠く離れていっちゃうんですよ。しょうがねえなぁホントに。弱ったなぁ。ここはひとつ駆け出してやろう。駆け出せば男の足に女の足だからね、むこうだって離れてしまえば諦めるからな…」
半「どっこいしょォ、どっこいしょォ、どっこいしょォ… よォし、これだけ駆け出しときゃァ大丈夫だろうな… ふぅ~… って、まだそばにいるなァ!」
観客「あはははは(笑)」
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半「よォし、叔父さんとこへ入ったら、どんなことがあっても開けないぞ…」
半「トントントントン!おじさーん!開けてくださいよー!トントントントン!早く開けてください早く!迫ってますから!トントントントン!おじさーん!早く開けてくださいよォ!」
おじ「ふァ… ァァ… んんっ… うるせえ野郎だなァ… とろとろっとしたかと思うと、おじさんおじさんって叩き起こしやがって… わかったよォ… ドンドンドンドン叩くんじゃねぇよ… おじさん起きたよ、うるさくて仕方ねぇや… 静かしろいホントに… 決まってやらァ、また将棋で閉め出しを食らってきたんだろう… いい若いもんがあんまり将棋やなんだで閉め出しを食うな… おじさん侘び打ったってもう飽きちゃったよ… もっと他のことでしくじったらどうだい… 人並すぐれたそっぽをしてやがって、たまには女でも引っ張ってきてみろ、本当に… おい、ちょいと婆さん… またこのババアもよく寝るなあ、おい… 寝るんだか死ぬんだか分からねぇんだからねぇ…」
観客「あはははは(笑)」
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おじ「おい、婆さん。小網町の半七が来たから起きてやっておくれよ。ちょいと、婆さん、おい。しょうがねぇな。おいっ!小網町の半七が来たよ!」
おば「まあっ!まあっ!まあ~~~~~」
おじ「おいおいおいおいおい!どこ行くんだよ!フラフラ危ないよ!何してんの? 仏壇を開いて、位牌を出して、腰巻に包んで… 汚ねえな、こん畜生!何をしてんだよ!」
おば「お爺さん、あたしはねぇ、宵の口からこんなことがありゃしないかと思って心配をしておりましたんですよ。なんでもこういう時には、ご先祖様から先に運び出して…」
おじ「落ち着きなさいよ。どうしたんだい?何だい?」
おば「だってお爺さん、小網町で半鐘を鳴らしているって…」
おじ「半鐘を鳴らしてんじゃないの。小網町の半七が来たの!」
おば「あらまあ、半坊が来たんですか… お前よく来たねえ」
おじ「まだおもてにいるんだよ!」
おば「あらまあ、お爺さんたら、寝ぼけて(笑)」
おじ「おめえが寝ぼけてんじゃねえか」
観客「あはははは(笑)」
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おば「驚きましたよ… 人間というものは寝ている間に魂がフラフラ~っと遊びに行ってるんですから、そこをいきなり婆さん婆さんって叩き起こして、うまい具合に魂が帰ってこれたからよかったものの、もし帰りそびれたら、今頃この部屋の上のあたりをまだフラフラと…」
おじ「くだらねえこと言ってっと張り倒すよ本当に。開けてやってくれよ、うるせえからよ。え? 腰が痛くて立てない? さっきここからスッと駆け出してったよ、おめえは。何か用だとなると、どこが痛え、そこが痛えって言いやがる。いいよ、俺が開けるよ、本当に役立たずったらありゃしねえ…」
半「トントントントン!トントントントン!」
おじ「わかったわかった、そこをあんまし叩くんじゃねえ。おじさん起きて来たから。今開けるぞ。よしっ」
半「・・・・・・・・」
おじ「何してんだよ。開けたんだから早くこっちへ入んな」
半「いや… だからあたしは嫌だって言ったんですよ…」
おじ「はァ?俺の方が嫌だよ」
観客「あはははは(笑)」
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半「あたしは… いいツラの皮なんですから…」
おじ「俺の方がいいツラの皮じゃねえか。寝てるとこ叩き起こされて。なんだ? なんか言いてぇことがあるのか?」
半「ですからね、肥後の熊本へ行ったほうがいいって言ったんですよ」
おじ「起きてて寝ぼけるってぇと張り倒すぞコラ。こんなに夜遅く肥後の熊本に行ける訳がねえだろ? え? 開けてやったんだから、こっちへ入れってんだ、じれったい野郎だな。こっち入んなよ。たまには真っ直ぐうちへ帰ったらどうだい。いつだっておめえは、こっちが寝込んだなって思う途端にドンドンドンドンって叩き起こして、いつも寝そびれちゃうんだよ俺は。昼間眠くってしょうがねぇじゃねぇか。本当にしょうがねぇったら…」
半「・・・・・」
おじ「?」
花「・・・・・」
おじ「お連れさんがあるじゃねぇか…」
花「・・・・・」
おじ「ッチ… うまくやってんな…」
半「そうじゃないよ、おじさん!それは違うんだ、おじさん…」
おじ「いいんだよ、いいんだよ。わかってる、わかってる。大丈夫だ、いいんだよ…」
半「いえ、あのですね…」
おじ「わかってる。なんか言うんじゃない。おじさんとこ連れて来たのはお前、えらかった。お前の親父んとこ連れて行きゃ大変だ。なあ。おじさんだから大丈夫だよ。任しときな。おじさんに任せとけ。うまい具合にグッとまとめて…」
半「まとめちゃ困るんですよ!」
観客「あはははは(笑)」
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半「おじさん、それは大変な誤解で…」
おじ「うるさいよ、お前は。いちいち何か言うんじゃないよ。わかってんの、ホントにもう。あんまし世話焼かすんじゃねぇや。そんなこと心得てらァ、こっちは。いいよ、今更ここへ来て恥ずかしがってもしょうがねえ。うるさい!何か言うんじゃない!わかってんだ、ホントにもう、お前は」
半「だから… そうじゃなくて…」
おじ「お前がそこにいると、ねえさんが入りにくいから、お前はさっさと二階へ上がっちゃえってんだよ。いいから早く上がんなさい。黙って上がりゃいいんだよ。おじさんの言うこと聞け、こん畜生。いいから早く上がれ!ったく。うまくやりやがって」
観客「あはははは(笑)」
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おじ「さ、ねえさん、どうぞこっちお入んなさい」
花「あいすいません。夜分遅くにうかがいまして…」
おじ「いいんですよ。こういうことは夜分のほうがいいくらいなもんで。さあさあ、どうぞ」
花「あの、半ちゃんがいけないって言うのを、あたしが無理について来てしまいまして… 今晩一晩どこでも構いませんから、泊めて頂きたいんですけど…」
おじ「いええ、結構ですよ。あたしんところはね、ババアと二人っきりですからねえ、どうぞお気兼ねなくちょくちょくお遊びにいらっしゃい。野郎はもう二階へ上がってますから、あなたも二階へお上がんなさい。いやいや、戸は開けたままでいいんです。閉めんのはあたしがやります。ひとのうちへ来て何か用をしちゃいけませんよ。あたしがしますから。あのねえ、そこの梯子が急になってますから、よくつかまらないってぇと危のうございますよ。上が低くなってますからね、ちょいと頭かがめねえってぇと、髷ぶつけますからね。大丈夫ですか?」
花「はい…」
おじ「あのなあ半公! 布団が一組しかねえからな!風邪ひかねえように仲良く寝るんだぞ!」
観客「あはははは(笑)」
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つづく
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