「深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)完結篇⑩&読みたいことを、書けばいい。」(第236話)
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2019年9月20日 朝
スナックふかよみ
『ライフ・オブ・パイ』で人間を動物に置き換えていたのは『カリブ 愛のシンフォニー』が元ネタ?
そんな馬鹿な…
嘘みたいな話だけど、これは紛れもない真実…
まだまだたくさんの証拠がある…
『カリブ 愛のシンフォニー』が『ライフ・オブ・パイ』に決定的な影響を与えた作品であることの証拠が…
カフェのシーンのあとは、どうなるんですか?
建築家ミツアキ(神田正輝)は、やっとのことで彩(松田聖子)と出会う。
そして新聞記者 松永(峰隆太)と共に3人で、彩の父親探しの旅に出る。
父が残した写真に写る風景を手掛かりに、メキシコ東部、ユカタン半島にある町へと…
3人は父親の住むアパートを見つけ出したが、すでに彼は亡くなっていた…
かわいそう、彩…
失意の中、彩は最首の家に挨拶しに行き、デザイナーの道を諦めることを伝える…
そして日本へ帰国するため、メキシコシティの空港へ向かった…
しかしそこにミツアキが現われ、こう言って彩を止める…
「このまま帰ったら、ただの観光客に過ぎない。君は君自身のルーツを求めてメキシコに来たんだろ。お父さんがメシキコの地を選んだ理由を、その目で確かめるんだ。お父さんが歩いた跡を、全部、訪ねるんだよ」
君自身のルーツ? 父親が歩いた跡をすべて訪ねる?
もしかして、それって…
そう。この後にミツアキと彩が辿った道筋がそのまま「ヴィア・ドロローサ」になっている。
イエスが十字架を背負って歩いた道に…
なんと…
そしてミツアキは彩にこんなことを語る。
「人は孤独な存在だ。一人で生まれ一人で死ぬ。その間にあるのは戦いなんだ」と…
彩はその意味を考えこむ。さらにミツアキはこんなことを告げる。
「人生で重要なのは結果ではない。やるかやらないかだ。そこで《やる》という選択肢を選ぶことに、人の生きた価値があるんだよ」と…
とても重みのある言葉です…
『カリブ 愛のシンフォニー』とは…
人生「やる」か「やらないか」というその分かれ道で「やる」というほうを選んだ、勇気ある人の物語…
そしてミツアキと彩は、メキシコシティの闘牛場へ向かい、闘牛を見物する。
大観衆の前で闘牛士に痛めつけられ血まみれになる牛の姿を眺めながら、彩はミツアキの言葉を思い出し、決意を胸にした…
ダメでもいいから力いっぱい最後までやってみようと…
イエス・キリストの物語と、その後日談である『使徒言行録(使徒行伝)』を再現することを、ですね…
そういうこと。
二人は再びメキシコ東部のユカタン半島に向かう。
そしてミツアキは彩を「愛のために身を犠牲にした王女の伝説」が残るトゥルムに連れて行く。
カリブ海に面した崖の上に建つトゥルム遺跡に…
ん? この景色、どこかで見た覚えが…
サイトーの城じゃろ。
そっくりじゃん。どうして?
どちらもエルサレムが投影された場所だからね。
エルサレム神殿は小高い丘の上に建っているし、エルサレムの近くには死海がある。
なるほど…
だからミツアキはここで「愛のために身を犠牲にした王女の伝説」を彩に教えたのか…
エルサレムで愛のために死んだイエスの物語として…
このトゥルム遺跡の本殿の隣には「Temple of the Descending God」という祠がある。
「地上に降臨した神の祠」という名の小さな祠が…
イエスが埋葬された墓…
そしてミツアキと彩は、トゥルム遺跡の中で抱き合い、愛を誓いあう…
生きる気力の湧いた彩は、最首に言われていた「新しい潮流の創出」に挑戦する…
カリブ海を臨むアトリエで…
ちょ、ちょっと待って…
いま気付いたんだけど…
この映画の時の聖子ちゃんの髪型って、パイっぽくない?
あっ!確かに!
しかも海でノートにいろいろ書いてるところまで同じ!
うふふ。
これは間違いなく『カリブ 愛のシンフォニー』の聖子ちゃんがモデルね。
ええ。間違いありません。
そして「新しい潮流の創出」を完成させた彩は、約30点のデザインを最首に見せる…
最首はその出来栄えを褒め、その中から3つを選び、世界中が注目するオートクチュールで展示すると約束した…
3つ? なぜ3つなの?
これのことだよ…
まさに「新しい潮流の創出」でしょ?
『磔刑図』
アンドレア・マンテーニャ
あっ、そっか…
そしてミツアキに惚れている地元娘イルマが二人の間に割って入ってくる。
イルマはミツアキとキスし、彩にこう言った。
「私のお腹の中にはミツアキの子がいるの」
もちろんこれは嘘。イルマはまだ処女だった。
だけど彩はこれを信じてしまい、日本へ帰るために、その日の最終便でメキシコシティへと飛ぶ…
ユカタン半島のカンクンとメキシコシティって、どれくらい離れてるんですか?
直線距離なら約1000㎞。東京-種子島間くらいの距離ね。
だけど車だと、当時の道路事情で約1800㎞の道のり…
徹夜で走ったとしても、丸一日以上はかかる…
翌朝の始発便に乗って追いかけたとしても、到着する頃には彩が日本へ旅立っているかもしれない…
そう考えたミツアキは、自動車でメキシコシティへ向かうことにした…
しかし車だと丸一日以上かかる距離…
まだ翌朝の始発便のほうが早く着きます…
だけど奇跡が起こる。ミツアキは翌朝に間に合ったんだ。
ラストシーンでは、ちゃんと再会してたでしょ?
でも不可能でしょ?
最初に彩はこう言った。ミツアキは「時間がわからない馬や牛」だと。
時間という概念を理解できない馬だから、車のスピードに馬のスピードが加わって超絶スピードになり、飛行機よりも早く到着したんだよ…
そんな馬鹿な…
そういう設定なんだから仕方ない。彩の預言はすべて成就されるんだ。
メキシコシティについてからも、なぜあそこにいるってわかったのかしら?
携帯電話も無い時代なのに…
これは「ミツアキは牛」という預言が成就したもの…
牛だから迷わず闘牛場へやって来た…
それがわかっていたから彩は待ち伏せしていたわけだね。
なんて脚本だ。すご過ぎる…
そしてミツアキのモデルはケパ(岩や石)ことペトロだから、この再会の直後に死んでしまう…
イエスと再会した直後に、ローマで逆さ十字に掛けられたペトロと同じように…
『主よ、あなたはどこへ行かれるのですか?』
アンニーバレ・カラッチ
これが『カリブ 愛のシンフォニー』の物語。
はっきり言って名作よね。これが観れないなんて文化的損失だわ。
ですね。
あのブッカー賞&アカデミー賞作品『ライフ・オブ・パイ』にも大きな影響を与えたというのに…
そういえば、ヤン・マーテルの小説版では…
日本人が2000㎞近くドライブして、パイの入院する施設までやって来たわよね…
その通り。
事故調査員のオカモトとチバは、なぜか飛行機に乗らず、車でロサンゼルスを出発した。
そしてメキシコ国内を約2000㎞ほど走り続け、パイの待つ町までやって来た。一日半もかけてね。
あの謎の行動は『カリブ 愛のシンフォニー』の神田正輝が元ネタだったわけだ…
確かに有り得ない行動だと思っていましたが、まさか聖子ちゃん映画へのオマージュだったとは…
ちなみにあそこは何ていう町だったっけ?
パイが漂着して、入院してた町…
確か関西弁っぽい名前だったような…
トメテヘン? いや違う。トマッテヘンだっけ?
「トメトラン(トマットラン)」だね。
メキシコ中部、太平洋に面したハリスコ州の町だ。
確かに関西弁っぽい名前…
それにしてもなぜヤン・マーテルは、パイが流れ着いた場所に、こんな変な名前の土地を選んだんでしょう?
簡単だ。「パイ」だからだよ。
は?
この「トメトラン」という場所と「パイ」という名前は、切っても切れない関係にある。
そして「トメトラン」と「パイ」に「日本人」が加わることで「パイの物語」は完成するんだ。
「神を信じるようになる物語」である「パイの物語」がね。
だからオカモトとチバが必要だったというわけ…
どういうことなの?
それでは、いよいよ話すとしようか…
『ライフ・オブ・パイ』に隠された秘密…
パイの物語の真実を…
つづく
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