第108話「LIFE OF P.Simon / 阪神タイガースと漂流した2270日」
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2019年9月19日
スナックふかよみ
阪神タイガース…
え?
なぜポール・サイモンは…
『僕とフリオと校庭で』のミュージックビデオの中で「阪神タイガースの帽子」を被っていたのか…
その謎が、まだ残ってる…
『Me and Julio Down by the Schoolyard』Paul Simon
ああ!そうでした!
「阪神タイガースの帽子」に「全て」が集約されているんでしたよね!?
ポール・サイモンのメッセージの全てが!
その通り…
・・・・・
「阪神タイガースの帽子」は、ポール・サイモンのメッセージ…
あの帽子に、彼の思想や精神性が凝縮されている…
そして…
『ライフ・オブ・パイ』の「核心」も。
ですね。
ポール・サイモンの思想や精神性?
『ライフ・オブ・パイ』の核心?
どんだけ?
ちょっと大袈裟じゃない?
あまり風呂敷を広げないほうが…
大袈裟でも何でもない。
「阪神タイガースの帽子」は、ポール・サイモンの「魂」だからね。
たましい…
僕には、ポール・サイモンの想いが、痛いほどわかる。
どんな想いで「阪神タイガースの帽子」を被っていたのか、痛いほどわかるんだ…
そして、そのポール・サイモンをモデルにして『ライフ・オブ・パイ』という物語を書いたヤン・マーテルの想いも…
『LIFE OF PI』Yann Martel
教官…
いわゆるひとつの「考えすぎ」です、ハイ。
しかし阪神タイガースに何の縁もゆかりもないポール・サイモンが、公の場で阪神タイガースの帽子を被るなんてことが、あるでしょうか?
しかもニューヨークを舞台にした歌で、ニューヨーク・ヤンキースのレジェンドであるミッキー・マントルと共演したミュージックビデオで…
しげしげさんの、言う通りじゃないかしら…
え?
たぶん、考えても仕方のないこと…
ポール・サイモンは、たまたま阪神タイガースの帽子を手に入れて…
子供の頃から好きなヤンキースと同じピンストライプでマークも似てるから気に入って…
ちょっとしたジョークで、何となく被ってただけ…
深い意味なんて無いのよ…
あらまあ。スナックふかよみのママらしからぬ発言だこと。
ん… あれ?
あたし、どうしちゃったのかしら?
・・・・・
うふふ。おもしろくなってきた(笑)
いったいどんな名解説を聴かせてくれるのかしら。
ねえ、深読み名探偵さん…
それでは話しましょう…
ポール・サイモンが「阪神タイガースの帽子」を被っていた理由を…
しかし、そもそもポール・サイモンは、どこで「阪神タイガースの帽子」を手に入れたのでしょう?
ポール・サイモンが「阪神タイガースの帽子」を、初めて公の場で身に着けたのは…
1982年、大阪でのこと…
お、大阪ですか!?
この年の5月、ポール・サイモンは「サイモン&ガーファンクル(S&G)」として初来日を果たした…
レコードが売れまくってた60年代後半や70年代前半は、来日しなかったの?
そう。彼らがビートルズに負けないくらい大ヒットを飛ばしまくっていた1965~1970年には、来日は実現しなかったんだ。
その後S&Gは事実上の解散状態になる。
そして1981年9月19日、ニューヨークのセントラルパークに50万人を集めた野外コンサートで、S&Gは復活する…
ライブ盤レコードも大ヒットし、12年ぶりのワールド・ツアーも発表。
ワールド・ツアーのスタートは、日本からだった…
そうなんだ。日本のファンは、さぞかし喜んだでしょうね。
1982年5月5日、ポール・サイモンとアート・ガーファンクルは、成田空港に降り立つ。
そのまま東京で一泊し、翌日、新幹線で大阪へ向かった。7日と8日に行われる大阪公演のためにね。
そしてコンサート会場の大阪スタヂアムで、ポール・サイモンは「阪神タイガースの帽子」を被ってファンの前に現れる。
これが、ポール・サイモンと「阪神タイガースの帽子」の物語の始まり…
やっぱり単純に、大阪だから阪神タイガースだったのかな?
アタシわかった!
オール阪神巨人へのオマージュよ!
は?
巨人のアート・ガーファンクルと半身のポール・サイモン!
確かによく似ているかも…
歌っている時のアート・ガーファンクルと巨人師匠のポーズも似てるわ…
でしょ?
我が読売巨人軍は、永久に不滅ポイントです。
だけど… やっぱり…
あたしの考えすぎかも…
ハァ?どっちなのよ!
え? 何が?
・・・・・
しかし、ファンが心待ちにしていた初来日のステージで、いきなり身体的特徴に関する自虐ネタをぶちかますなんてこと、ありえるでしょうか?
ありえるわよ、あの二人なら!
だってそもそもデビュー当時の芸名は「トムとジェリー」だったじゃん!
オール阪神巨人どころの騒ぎじゃない身長差ネタでしょ!
うーむ、なるほど…
しかし、すでにニューヨークで「阪神タイガースの帽子」を手に入れていて、来日する際に持ってきたという可能性も考えられますよね?
たぶん、それは無いだろうね。
え? なぜですか?
成田でも、東京でも、移動中の新幹線でも、大阪での記者会見でも、ポール・サイモンは「阪神タイガースの帽子」を被っていなかった…
大阪でのコンサート当日に初披露したんだよ。
なぜそれがわかるのですか?
当時の雑誌に掲載された、日本ツアーの様子を見れば、それがわかる。
なるほど…
確かに大阪スタヂアムでのコンサートで初めて着用してるみたいですね…
成田や東京駅でアート・ガーファンクルが被ってた赤い帽子は何?
「P」って書いてあるけど、ポールのPかな?
あれは「Philadelphia Phillies(フィラデルフィア・フィリーズ)」の帽子。
アートは子供の頃からフィリーズのファンなんだよ。
アートもポール・サイモンと同じニューヨークっ子じゃなかった?
なんでフィラデルフィア?
本人曰く「ポールと同じになりたくなかった」そうだ。
変なの。
そんな意地張らないで、普通に地元のヤンキースを応援すればいいのに。
しかも来日時、アートは移動中にフィリーズの帽子を被っていて、ポールは大阪球場でのライブ中に阪神タイガースの帽子を被っていましたね。
どちらかが野球帽を被っている時は、どちらかは被っていません。
まるで張り合っているみたいです…
二人は「身長差」だけでなく、人間関係も「トムとジェリー」なんです…
出会った頃からずっと「なかよくケンカ」している間柄…
つまり、切っても切れない関係ってことね。
余談ではありますが…
S&Gが来日初コンサートを行った大阪球場は、南海ホークスの本拠地でした。
あ、そうだったわ。
博多に移る前は大阪球場がフランチャイズだったじゃん。
ホークスの聖地で「阪神タイガースの帽子」って、おかしくない?
あ、確かに…
つまり、神宮球場や西武ドームでコンサートする歌手が、読売ジャイアンツの帽子を被ってステージに立つみたいな感じってことですか?
パナソニック・スタジアム吹田でのコンサートでセレッソ大阪のユニフォーム着てるみたいな。
会場である大阪球場に敬意を払うなら、南海ホークスの帽子でなければならないわ…
普通なら、そう考えるわよね。
ぜんぜん関係ないんだけど、エモやんが球史に残るエモい名言を吐いたのも、この頃の大阪球場じゃなかった?
「ベンチがアホやから…」ってやつ。
江本孟紀(南海ホークス)
あれは阪神時代の1981年、甲子園球場でのこと…
江本孟紀(阪神タイガース)
前の年か。おしい。
大阪スタヂアムでの二日間を皮切りに始まったS&Gの12年ぶりのコンサート・ツアーは、場所を東京に移し、後楽園球場で3DAYS行われた。
ちなみに東京公演では、ポール・サイモンは「阪神タイガースの帽子」を被らなかったらしい。
さすがにライバル巨人軍の本拠地で阪神の帽子はないわよね。
その後二人はヨーロッパへ移動し、約1ヶ月間のツアーを行った。
そして半年の中断を経て、翌年の1983年の2月、オーストラリアとニュージーランドのツアーへ…
それから再び中断を挟んで、7月と8月は北米ツアー…
この間、ポール・サイモンは「阪神タイガースの帽子」を被っていたのですか?
足かけ16ヶ月にわたるS&G再結成ワールド・ツアーにおいて、「阪神タイガースの帽子」を被ってステージに立つポール・サイモンの姿は、何度も目撃されている。
これは北米ツアーでのもの…
だけどさ…
日本以外じゃわからないでしょ、阪神タイガースの帽子だってことが。
その通り。
日本以外では、誰も気付かないし、まったく話題にもならなかった…
じゃあ、なぜ被っていたのかしら?
普通こういうファッションって、自分の中でよっぽど思い入れがあったり、誰かに何かを気付いて欲しくてするものでしょ?
これじゃあ意味なくない?
だから言ってるじゃないか。
「阪神タイガースの帽子」には、ポール・サイモンの想いやメッセージが強く込められているって…
そんなこと言われても、ぜんぜん見当がつかないんだけど。
まあ最後まで話を聴いて…
うん。
北米ツアーも終わりに近づいた頃、ポール・サイモンは二度目の結婚式を挙げた…
はい?
そして北米ツアーが終わった9月、S&Gは再びヨーロッパでコンサートを行う…
場所はスイスとフランスのニース…
これはポール・サイモンのハネムーンを兼ねたものだった…
もちろん報道メディアは、新婚のポール・サイモンと花嫁の写真を撮ろうと二人を追いかける…
幸せいっぱいのポール・サイモンは、ニースの浜辺で、カメラマンに対してラブラブの写真をいくつも撮らせた…
もちろん「阪神タイガースの帽子」を被って…
CARRIE FISHER ?
まさか、あのキャリー・フィッシャーですか?
そう。『スター・ウォーズ』のレイア姫、キャリー・フィッシャーだ。
この二人の結婚は、世界的にとても大きなニュースとなった。
1983年当時、プリンセスといえば「ダイアナ」か「レイア」だったわよね。
アタシも子供の頃、良ちゃんに手伝ってもらって、レイア姫の髪型を真似してた気がする。
ポール・サイモンとキャリー・フィッシャーは、アメリカで「世紀のカップル」と呼ばれたジョー・ディマジオとマリリン・モンローに並ぶビッグカップルと言っていいだろう。
さすがに結婚式では被っていなかったけど、新婚旅行でポール・サイモンは「阪神タイガースの帽子」を被っていた…
なぜ?
新婚旅行でハイソでシャレオツなニースに行っときながら、ずっと野球帽かぶってる男ってどうなの?
しかも花嫁からしたら、見たことも無い、謎のチームの帽子…
あたしがキャリーちゃんなら、ちょっと引くわ。
ちなみに…
ポール・サイモンがキャリー・フィッシャーにプロポーズしたのは、ヤンキースタジアムで試合を観ている時でした…
それなら尚更、阪神じゃなくてヤンキースの帽子でしょ!
んもう!わけわかめ!
そしてハネムーンを兼ねたツアーが9月に終わると、S&Gは再び「解散」してしまう…
ポール・サイモンとアート・ガーファンクルは、またもや別々の道を歩むことになるんだね…
世界中のファンが待ち望んでいた13年ぶりのスタジオ・アルバムも、幻と消えてしまった…
そしてポール・サイモンとキャリー・フィッシャーも…
え?
だけど翌年の1984年、二人は離婚してしまう…
熱烈に愛し合った二人だったけど、あっけないほど短い結婚生活だった…
キャリー・フィッシャーは、かなり自由奔放な性格でしたからね…
そういえば、自伝的小説を書いて、映画化もされてたわよね。
かなり赤裸々な内容の…
この破局でポール・サイモンは精神的に弱ってしまう…
しかも、ラブラブだった頃にキャリー・フィッシャーとベッドシーンまであるミュージックビデオを撮ったんだけど、その曲が入ったソロ・アルバム『HEARTS AND BONES』も記録的な大コケをしてしまったんだ…
一番イタいやつね、それ…
公私共にドン底にあった1985年の年明け…
さまざまな想いを吹っ切るため、ポール・サイモンは南アフリカへ向かった…
そして、ヨハネスバーグで現地のミュージシャンと、思う存分セッションを楽しんだ…
もちろん「阪神タイガースの帽子」と共に…
Paul Simon @Johannesburg
ホントにいつも被っていたんですね…
まるで「阪神と共にあらんことを」です…
この時のセッションを基に名盤『GRACELAND(グレイスランド)』を製作…
世界累計1600万枚の大ヒットとなり、2年連続でグラミー賞も獲得する…
ポール・サイモンは文字通り蘇った…
そして1987年のグレイスランド・ツアーにおける歴史的なアフリカ・コンサートでも…
ポール・サイモンは「阪神タイガースの帽子」と共にあった…
Paul Simon @The African Concert
ポール・サイモンは「阪神タイガースの帽子」と一緒に…
大海原を渡り、長い長い旅をしたのね…
それって、なんだか『ライフ・オブ・パイ』っぽいです。
そして1988年、ポール・サイモンはソロ時代のベスト盤『Negotiations and Love Songs』を発表する…
その中に収録された『僕とフリオと校庭で』は、新たにMVが作られることになり、7月末の夏の日に、ニューヨークで撮影が行われた…
もちろんポール・サイモンは「阪神タイガースの帽子」と一緒。
そして、その日を最後に…
「阪神タイガースの帽子」は姿を消した…
え? あんなにずっと一緒だったのに?
なんだか『ライフ・オブ・パイ』の「リチャード・パーカーとのお別れ」みたいだわ…
ポール・サイモンと阪神タイガースの最初の出会い、1982年5月上旬から…
長い旅を経ての別れ、1988年7月下旬まで…
その間、およそ2270日…
2270日?
『ライフ・オブ・パイ』は「227日」…
マジで?
いわゆるひとつの「こじつけ」でしょう、ハイ。
そうかも…
やっぱり偶然よね…
んもう!どうしたって言うのよ!
そんなんじゃスナックふかよみのママ、失格でしょ!
あ、またあたし… 何か言っちゃった?
・・・・・
うふふ(笑)
まだ話は始まったばかりでしょ?
ポール・サイモンと「阪神タイガースの帽子」と『ライフ・オブ・パイ』の深過ぎる物語は…
え、ええ…
まだほんの序章に過ぎません…
じょしょう? 最終章じゃなくて序章?
そう。
まだ僕らは、深淵なる謎の入口に辿り着いたばかり…
どんだけ!?
いったいどういうことなのでしょうか?
なぜ2270日の間、ポール・サイモンは「阪神タイガースの帽子」を被り続けていたのか…
そして、それがなぜ『ライフ・オブ・パイ』と関係があるのか…
私にはサッパリわかりません…
それでは聴いてほしい…
ここからが本当の謎解き…
本当の深読みだ…
・・・・・
つづく
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