第332話 深読み『千と千尋の神隠し』vol.31「銀河鉄道の夜⑭大人は見えない しゃかりきコロンブス」
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2019年9月20日 朝
スナックふかよみ
『千と千尋の神隠し』の時計台は、『銀河鉄道の夜』の時計屋?
ただ「時計がたくさんある」ってだけじゃん。
ようこそここへ…
遊ぼうよパラダイス…
は?
続きは何じゃ?
胸のリンゴむいて?
その先じゃ。
天才飛鳥涼はこう喝破した…
しゃかりきコロンブスは…
大人には見えぬと!
は?
大人は見えない、しゃかりきコロンブス…
この歌詞を書いた飛鳥涼という人、本当に言葉の性質をよく知ってる…
感動しちゃった。
「大人は見えない、しゃかりきコロンブス」って、そんなに凄い歌詞?
わからんか?
「しゃかりきコロンブス」は、穢れたオトナの目には見えないのじゃ。
あの歌詞って、そういう意味なんですか?
「大人は見えない しゃかりきコロンブス」は、次の「夢の島までは探せない」とつながっていますから…
「アメリカを見つけた偉大なコロンブスでも、夢の島、つまりパラダイスは見つからない」という意味なのでは?
かァァァァァつ!
え?
コロンブスはアメリカを見つけておらん!
奴が見つけたと思ったのは「インド」!
だからアメリカ先住民を「インディアン(インド人)」と呼んだのじゃ!
それ『LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)』のネタですね。
ねえ、岡江クン…
本当にあの歌詞は「大人の汚れた目には《しゃかりきコロンブス》は見えない」という意味なの?
そうだよ。
世俗に浸かり切り、汚れてしまった心では「しゃかりきコロンブス」は見えない…
だから「パラダイス」も見えることはない…
そういう意味だ。
なんか、あたしがずっと思ってた内容と違うわ。
それは「しゃかりきコロンブス」を誤解してるからだ。
「必死になって探しているコロンブス」だと思ってるでしょ?
違うの?
「しゃかりきコロンブス」とは…
「釈迦力・純真な鳩」という意味なんだよ。
は?「しゃかりき」は「釈迦力」?
何でも漢字にするヤンキーじゃないんだから…
夜露死苦!
ちなみに「コロンブス」が「鳩」だというのは、前にも説明したよね?
はい。
「コロンブス」という名前は、元々はイタリア語の名前「コロンボ」が由来で、意味は「純真な鳩」というもの…
その「コロンボ」と言う名は、昔、本当の父親の顔を知らない赤ん坊につけられることが多かった…
もちろん、それとよく似た境遇だったイエス・キリストにあやかってのこと…
つまり「クリストファー・コロンブス」という名前は…
「キリストを担う、聖なる鳩」という意味…
「純粋無垢な白い鳩」の姿で描かれる、神の神秘的な力…
「聖霊」ってことね。
『受胎告知』フラ・アンジェリコ
神が霊の形をとって自分自身から離れていく…
まさに「SPIRITED AWAY」の瞬間。
そして「SPIRITED AWAY」する「聖霊」を描いた別の「受胎告知」では…
「白い鳩」が「銀河」のようにも「光のレール」のようにも見えるところを渡って行く…
まるで、大海原の道なき道を渡った「コロンブス」のように…
『受胎告知』フラ・アンジェリコ
ああっ!
だから天才ソングライター飛鳥涼は、『銀河鉄道の夜』を元ネタにした歌『パラダイス銀河』に「コロンブス」というワードをぶち込んだのじゃ…
なぜなら…
飛鳥涼は、宮沢賢治がフラ・アンジェリコの『受胎告知』を元ネタに『銀河鉄道の夜』を書いたことに気付いておったから…
天才は、天才を知る…
ちなみに1番の出だし「ようこそここへ」の意味はわかるか?
「ようこそここへ」という出だしの意味?
ヒントは「くっく、くっく」じゃ。
キャプテン?
99、99…
つまり銀河鉄道999ってことでしょうか?
馬鹿め。「青い鳥」じゃ。
『銀河鉄道の夜』は「本当のさいわい」を探しに行く物語…
しかし、遠く銀河の果てにあると思っていた「本当の幸い」は、すぐ近くにあった…
そして「桜田淳子」の「桜田」は、賢治の故郷 東北地方で「さぐらだ」と発音する…
つまり「Sagrada」、スペイン語で「聖なる」という意味ね…
まさか…
ふふふ…
それでは2番の出だし「ごきげんいかが」は何のことかのう?
これはわかったわ!
1番が「桜」だったから、「咲・桃」!
咲・桃?
春つながりですか?
最近の若い子は、こんなことも知らないのね…
今でもいろんな作品の元ネタに使われているというのに…
カルト的な人気を誇ったラジオ番組スネークマンショーの『咲坂と桃内のごきげんいかが1・2・3』よ!
何ですか、これ?
ていうか「急いで口で吸え!」って、何を吸うんですか?
そういうことをいちいち言葉で説明するのは野暮って言うの。
あのレコードジャケットを見て、察して頂戴…
赤い葉っぱの上に虫がいる絵?
話の腰を折るようで悪いけど…
2番の「ごきげんいかが」は、スネークマンショーではない。
え?
こっちの「ごきげんいかが」だよ。
そのものズバリのタイトル、中島みゆきの『御機嫌如何』…
うふふ。
「中島みゆき」の「みゆき」は「御幸」…
つまり「本当の幸い」のこと。
ええっ!?
それにしても不思議な曲ですね…
サビに「氷の女」とありますが、いったい誰のことでしょうか?
北海道札幌市出身の中島みゆき本人のことでしょ?
札幌といえば、街の中心部にある大通公園に氷の彫刻が立ち並ぶ「さっぽろ雪まつり」が有名だから。
「街の中心部にある大通公園に氷の彫刻が立ち並ぶ」は合ってるけど…
「氷の女」は中島みゆきではないんだな。
は? どういうこと?
最後の歌詞をよく考えてごらん。
この歌は、とある「作品」からインスピレーションを得たものなんだよ…
御機嫌如何ですか
私を覚えていますか
氷の女発の手紙をしたためます
涙で濡らした切手を最後に貼ります
また?
『地上の星』の元ネタが、フラ・アンジェリコの『受胎告知』だったみたいに?
そう。あの歌みたいに。
つまり「氷の女」が出て来る作品ってことですよね?
氷の女といえば…
ハンス・クリスチャン・アンデルセン『雪の女王』?
ある意味で惜しい。
ある意味って?
わかりました!
『銀河鉄道999』のクリスタルの乙女クレアです!
クレアは鉄郎のことを密かに好きでしたから歌詞にもピッタリです!
もっと大昔の作品だよ。
「氷の女」が描かれている、とっても有名な絵。
大昔のとても有名な絵?
そんな大昔の絵で「氷の女」が描かれてるものなんてある?
SFじゃないんだから。
大昔の絵… SF…?
あっ!ボスだ!
ボス?
そのBOSSではなく、ヒエロニムス・ボスです!
彼の描いた『カナの婚礼』でも、SFチックなものが描かれていたじゃないですか!
ワームホールで時空を超える宇宙飛行士らしきものが!
その通りです…
ボスの絵は、今から500年以上も昔に描かれたものなのに、なぜかSF作品に出て来るようなものが描き込まれている…
この「天と交信し、思いを書き留めるヨハネ」の絵にも…
奇妙な羽をもつ「氷の女」の像が…
『パトモス島の聖ヨハネ』
ヒエロニムス・ボス
あの右下のキモい虫は何? 顔がおじさんじゃん…
そんなことよりも、着目すべきは左上の「氷の女」の像でしょう…
御機嫌如何ですか
私を覚えていますか
氷の女発の手紙をしたためます
涙で濡らした切手を最後に貼ります
確かに「私」は「氷の女」発の手紙をしたためている…
そして、この時ヨハネが書いていたものが『ヨハネの黙示録』…
最終章である第22章の冒頭には、こんなことが書かれている…
御使はまた、水晶のように輝いているいのちの水の川をわたしに見せてくれた。この川は、神と小羊との御座から出て、都の大通りの中央を流れている。川の両側にはいのちの木があって、十二種の実を結び、その実は毎月みのり、その木の葉は諸国民をいやす。のろわるべきものは、もはや何ひとつない。神と小羊との御座は都の中にあり、その僕たちは彼を礼拝し、御顔を仰ぎ見るのである。彼らの額には、御名がしるされている。
水晶のように輝いている命の水の川が…
都の大通りの中央を流れている…
まるで、北海道の首都札幌の中央にある大通公園に立ち並ぶ氷の彫刻のことのようにも聞こえます…
そして「彼らの額には、御名がしるされている」は、手紙に貼られる切手のこと。
中島みゆきは、遠くにいる「あなた」の想いを綴った「手紙」を書いているヨハネに自分を重ねたのね。
だからレコードジャケットが「犬」の想いを感じ取ってる写真なのじゃ。
「DOG」の想い、つまり「GOD」の想い…
何なのよコレ…
マッキーじゃないんだから…
それでは話を戻そうか。
『パラダイス銀河』の「しゃかりきコロンブス」まで。
結局「しゃかりき」とは何のことだったのでしょう?
だから「釈迦力」だと言ったはずだ。
それは「夜露死苦」と同じヤンキー用語でしょ?
「夜露死苦」はヤンキー用語だけど「釈迦力」はそうではない。
お釈迦様がまだ無名だった頃、皆がお釈迦様の言うことに半信半疑だった…
というか人々は、お釈迦様の話を荒唐無稽なデタラメと決めつけ、そっと距離を置いていた…
それでもお釈迦様は諦めずに「世界の秘密を知っている!私は真理を発見した!」と力説したことから「しゃかりき」という言葉が生まれたと言われている…
誰かさんみたい…
釈迦が力説したから釈迦力?
そんなまさか…
この話、とってもおもしろいのよ。
『銀河鉄道の夜』的にも『千と千尋の神隠し』的にも、すっごく重要。
そうなんですか?
この「釈迦力」の話には重要なヒントが隠されている…
『銀河鉄道の夜』や『千と千尋の神隠し』を読み解くために必要な重要なカギが…
これを理解すれば、なぜ『銀河鉄道の夜』や『千と千尋の神隠し』でフラ・アンジェリコの『受胎告知』が再現されているのかという謎が、一瞬にして氷解するだろう…
お釈迦様の話がフラ・アンジェリコの『受胎告知』と関係があるのですか?
そうだよ。
宮沢賢治はそこからインスピレーションを得て『銀河鉄道の夜』という物語を書いた。
きっと、皆が半信半疑だったでしょうね…
この人って、何でもかんでもフラ・アンジェリコの『受胎告知』に結び付けて力説してるから…
だけど、その思いがようやく伝わり、花開く(笑)
ホントに?
ああ。ようやくこの時が来た。
甘露の門は開かれたり!耳ある者は聞け!
何ですか、それ?
それでは「釈迦力」の話をしよう…
レッツ・おしゃかさま!
RADWIMPS『おしゃかしゃま』
つづく
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