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シン・日曜美術館『深読み 夏目漱石の坊っちゃん』㉚「余談 風立ちぬ part13」


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1989年5月某日(日曜)午後
藪蔦屋 りうていの間


クリス君 ノーラン 浴衣 ギター

よし。それじゃあもう一度歌うから、歌詞をよーく聴くんだぞ…

おかえもん 17歳 浴衣

うーむ…

プリンスの言う「Sometimes It Snows in April(四月に雪が降ることもある)」とは、いったいどんな意味なんだろう…

しかも歌の最後で「四月の雪」には「理由」があると明らかにされる…

天国に行ったトレイシーは、その「答え」を理解したに違いないと…

クリス君 ノーラン 浴衣

プリンスの「四月の雪」と、堀辰雄の「四月の雪」は、同じことを言ってるようで実は意味が全く違う。

堀辰雄の「四月の雪」は「アレ」のことだったが、プリンスの「四月の雪」は、彼が生まれた年1958年に、彼の故郷ミネアポリスで考案された「アイデア」だ。

つまり堀辰雄が『風立ちぬ』を書いた1936年には、まだ存在していなかったアイデア…

堀辰雄 風立ちぬ プリンス

おかえもん 17歳 浴衣

1958年にミネアポリスで考案されたアイデア?

何それ? どういうこと?

クリス君 ノーラン 浴衣

よく考えてみろ。

そもそもあの歌がラストシーンで流れる映画『UNDER THE CHERRY MOON』に「雪」など降ったか?

主人公トレイシーが処刑され、語り手が回想するラストシーンは、南仏ニースとアメリカ南部のマイアミだぞ?

しかも季節は冬ではないのだ。

おかえもん 17歳 浴衣

そうだな。『風立ちぬ』の「四月の八ヶ岳山麓」と違い、雪なんて絶対に降るわけがない。

君が言う通り「四月の雪」とは「気象現象の雪」のことではなく「アイデア」なのか…

クリス君 ノーラン 浴衣

そもそも「歌い出し」からして、変だと思わないか?

Tracy died soon after a long fought civil war

トレイシーは「civil war」を戦い抜いて死んだと歌われる。

おかえもん 17歳 浴衣

「civil war」といえば内戦… アメリカ人にとっては「南北戦争」のことだよな?

白人であるマリアの父が娘に近づいた黒人のプリンスを差別して処刑したことを、南北戦争時代のアメリカ南部に重ねてるとか?

クリス君 ノーラン 浴衣

さらに、こんなふうにも歌われる。

I guess he's better off than he was before
A whole lot better off than the fools he left here

おかえもん 17歳 浴衣

あいつはいい感じにやってると思う、生前よりも
一切合切いい感じだろう、ここに残された愚か者たちよりも

ん? 

大事な親友が愛する女性の目の前で父に殺されたっていうのに「いい感じ」って変じゃないか?

クリス君 ノーラン 浴衣

次の部分も変だよな。

I used to cry for Tracy because he was my only friend
Those kind of cars don't pass you every day

おかえもん 17歳 浴衣

俺はトレイシーを想って泣いた、あいつはたったひとりの友だから
あんな感じの車たちが毎日君の前を通り過ぎることはない

ん? なぜ「トレイシーの話」が突然「車たちの話」になるんだ?

キヨシローの『雨上がりの夜空に』じゃないけど、普通「車」に喩えるのは「イカした女」だろう?

トレイシーは男、プリンスが演じたクリス・トレイシーのはず。

プリンス UNDER THE CHERRY MOON 映画 PRINCE TRACY

クリス君 ノーラン 浴衣

そして1番はこう締めくくられる。

さりげなく、変なフレーズで。

I used to cry for Tracy 'cause I wanted to see him again
But sometimes, sometimes life ain't always the way

おかえもん 17歳 浴衣

変なフレーズ?

俺はトレイシーを想って泣いた、あいつにもう一度会いたかったから
だけど時に… 時に人生は…

ん?

「life」が「always the way」とは「人生はいつも同じ結果になる」つまり「いくら望んでも、死んだ人間にもう一度会えることはない」というニュアンスだよな?

それなのになぜ「ain't」と否定形なんだ?

そのまま読めば「時に人生は、いつも同じ結果になるとは限らない」…

つまり「死んだ人間にもう一度会えることもある」にならないか?

クリス君 ノーラン 浴衣

そう。先入観や思い込みを捨てて、プリンスの歌う通りに読めばね。

だからこのサビなのだ。

Sometimes it snows in April
Sometimes I feel so bad, so bad
Sometimes I wish life was never ending
And all good things, they say, never last

おかえもん 17歳 浴衣

四月に雪が降ることもある
ひどい気分になることもある
人生が決して終わらないことを願うこともある
だけどいい思い出は決して続かないと人は言う

ん?

なぜ「俺」は、死んでしまった「あいつ」に会いたいと願っているのに、終わらない人生を願っているんだろう?

故人ともう一度会いたいのなら、願うのは永遠の「life」ではなく、永遠の「soul」じゃないのか?

クリス君 ノーラン 浴衣

その通り。亡き友との再会に必要なのは「永遠の魂」であって「永遠の人生」ではない。

普通の人間にとって「終わりのない命」など発狂レベルの拷問だ。

呪いによって「誰にも殺されない体」つまり「終わりのない苦しみ」だけが残されたカインと同じことだからな。

おかえもん 17歳 浴衣

そりゃあ周りから「それはない」って突っ込まれるよなあ。

なぜプリンスはサビの最後をこんなふうにしたんだろう?

クリス君 ノーラン 浴衣

君は何か大事なことを忘れてないか?

おかえもん 17歳 浴衣

大事なこと? 何それ?

クリス君 ノーラン 浴衣

2番はこう始まる。これでも気付かないか?

Springtime was always my favorite time of year
A time for lovers holding hands in the rain
Now springtime only reminds me of Tracy's tears
Always cry for love, never cry for pain

おかえもん 17歳 浴衣

春は一年の中で俺のお気に入りの季節だった
雨の中で手を取り合う恋人たちの季節
だけど今、春に思い出すのはトレイシーの涙だけ
いつも愛のために泣き、決して苦痛のためには泣かなかった

ん?

以前の「俺」は、恋人たちを寄り添わせる春の雨が大好きだったけど、今はトレイシーの涙を思い出してしまう…

なぜ「春の雨を見るとトレイシーの涙を思い出す」と言いながら「四月の雪」なんだ?

クリス君 ノーラン 浴衣

ここまで来ても気づかないとは…

もう「タネ明かし」まで辿り着いてしまったな(笑)

He used to say so strong, oh unafraid to die
Unafraid of the death that left me hypnotized
No, staring at his picture I realized…

おかえもん 17歳 浴衣

あいつは力強く言っていた、死ぬのは怖くないと
死を恐れないという言葉は、俺に催眠術をかけた
いや違う、あいつの写真をじっと見ていた時に俺はわかったんだ…

これのどこが「タネ明かし」なんだよ。

クリス君 ノーラン 浴衣

岡江君、「picture」を「写真」と決めつけてはいけない…

おかえもん 17歳 浴衣

え?

クリス君 ノーラン 浴衣

その通り。

この歌のトリックは「snow」だけではない…

「俺」が凝視していた「His picture」とは…

「写真」ではなく「絵」なんだよ…

おかえもん 17歳 浴衣

写真ではなく絵? 似顔絵とか肖像画ってこと?

クリス君 ノーラン 浴衣

やれやれ。まだ君は気付かないのか?

プリンスが言っているのはだな…


キヨッソーネ カプローニ

Fermo lì! Non muoverti!


クリス君 ノーラン 浴衣

き、キヨッソーネ先生!?

おかえもん 17歳 浴衣

またか。この先生はいつまで迷子になってるんだ?


キヨッソーネ カプローニ

ニッポンの少年よ、わたしにギターを渡してたもーれ。


おかえもん 17歳 浴衣

またですか?

ラテン系の人って本当に歌うのが好きなんだなあ…

はい、どうぞ…


キヨッソーネ カプローニ ギター

スィ。グラッチェグラッチェ。


クリス君 ノーラン 浴衣 汗

キヨッソーネ先生…

も、もしや、あの歌を…


キヨッソーネ カプローニ ギター

インギルターラの少年よ。わしと共に歌ってくれぬか?


クリス君 ノーラン 浴衣 汗

はいっ!よ、よろこんで!


キヨッソーネ カプローニ ギター

うむ。では行くぞ。



クリス君 ノーラン 浴衣 汗

す、すみませんキヨッソーネ先生…

最後にコーラスを間違えてしまって…


キヨッソーネ カプローニ

インギルターラの少年よ、自分を責める必要はない。

間違いは誰にでもある。


おかえもん 17歳 浴衣

いくらプリンスの話だからとはいえ、ずいぶんとベタな選曲だなあ…

もっと渋い曲もあるだろうに…『I Would Die 4U』とか『Nothing Compares 2 U』とか…

なぜ『パープル・レイン』なんかを…


キヨッソーネ カプローニ

そのマンマミーア。


おかえもん 17歳 浴衣

は?

クリス君 ノーラン 浴衣 汗

この歌が、そのまんま「答え」なんだよ…

『Sometimes It Snows in April』における「His picture」のな!

おかえもん 17歳 浴衣

『パープル・レイン』が答え?


キヨッソーネ カプローニ

それではニッポンとインギルターラの少年よ、また会おう…

アリヴェデルチ…


クリス君 ノーラン 浴衣 汗

待ってくださいキヨッソーネ先生!

ああ、行ってしまった…

おかえもん 17歳 浴衣

たぶんまたすぐに来るよ。

ここを歌声喫茶か何かと勘違いしてるから。

クリス君 ノーラン 浴衣 汗

それにしても先生の歌は素晴らしかった…

あんなエモーショナルな『Purple Rain』は滅多にお目にかかれない…

まるでプリンスとデュエットしているような錯覚を覚えたよ…

おかえもん 17歳 浴衣

で、プリンスの言う「絵」とは、いったい何なんだ?

『パープル・レイン』が「答え」って、いったいどういう意味なのさ?

クリス君 ノーラン 浴衣

うむ。それでは解説しよう。

『Sometimes It Snows in April』の本当の意味、そして『Purple Rain』との関係を…



つづく




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