「ドストエフスキー 地下室の手記③ ヤン、ピーター、子門」『深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)& 読みたいことを、書けばいい。』
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2019年9月19日 夜
スナックふかよみ
だからドストエフスキーは、あんな序文を用意したんだ。
「手記の筆者」は「わたし」じゃない…
つまり「わたし」と「手記の筆者」は別人なんだよ。
べ、別人!?
別に驚くことじゃないと思うけど。
手記の中での「わたし」と「手記の筆者」が別人なんてこと、よくあるハナシだから…
そうなの?
そんな作品なんて他にあったかしら?
のぶのぶさんとしげしげさん、知ってる?
・・・・・
あれ?
のぶのぶさん、寝ちゃった?
スタヂアムでの疲れが一気に出たのでしょう。
彼が最も贔屓にする糸井選手が攻守で大活躍しましたから、大はしゃぎだったんですよ。
いわゆるひとつの「遊んで眠れ」ですね、はい。
ちょっとアンタ!
そんなプリティな顔してラブリーな光景を見せつけないでくれる?
せっかく忘れてたのにヒロくんのこと思い出しちゃうじゃん!
のぶのぶさんの頭、いいにおいがします。
キーーーーーィ!
ちょっと良ちゃん、寝てるんだから大声出さないの。
ご、ごめん。つい…
アタシ、子守唄を歌ってあげようっと…
・・・・・
岡江クン、なにボーっとしてるのよ。
いや… なんでも…
早く解説してくれない?
ホントに「わたし」と「手記の筆者」が別人だとしたら、いったい「手記の筆者」って誰なの?
いわん…
言わん?
あたしを馬鹿にしてるの?
そうじゃないよ深代ママ。落ち着いて聞いてくれ。
「手記の筆者」の名前が「イワン」なんだ。
イワン?『イワンのばか』のイワン?
ロシア語の「Ivan(イワン/イヴァン)」とは、ギリシャ語の「Ioannes(イオアンネス)」が変化した名前…
そして「Ioannes(イオアンネス)」を、ラテン語では「Johannes(ヨハネス)」と呼ぶ…
ヨハネス? ヨハネのこと?
そう。
つまり『地下室の手記』を書いた筆者は「福音記者ヨハネ」なの。
『福音記者ヨハネ』ドメニキーノ
またこの人!?
「また」って?
夏に深読みした、村上春樹の『スプートニクの恋人』よ。
「すみれ」っていう小説家志望のヒロインのモデルが「福音記者ヨハネ」だったの。
ふふふ。この小説、あたしも好き。
「すみれ」が中性的なルックスだったり、ギリシャの島に行ったり、同性愛チックなことになったり、2つの手記を残したり…
確かに「すみれ」のモデルは「福音記者ヨハネ」よね。
そもそも小説や映画など、物語に「物書き・ライター」が出て来たら、かなりの確率で「福音記者ヨハネ」が投影されているの。
『ライフ・オブ・パイ』も、そうだし。
え?『ライフ・オブ・パイ』も?
「Pi Patel(パイ・パテル)」という男の「手記」を書いた作家は「Yann(ヤン)」という名前だった…
そして「Yann(ヤン)」とは…
かつてフランスのブルターニュ地方で使われていた言語「ブルトン語」で「ヨハネ」のこと…
ヤンはヨハネ…
そういえば『ライフ・オブ・パイ』の冒頭で、作家とパイはこんな会話をしていました…
パイ「一作目の小説はとてもよかった。二作目も読みたいな」
作家「残念ながら君は読むことができない。二作目の小説は失敗作だ。物語に魂が宿らなかった」
おそらく、成功した「一作目」とは『ヨハネによる福音書』のことで…
失敗した「二作目」とは『ヨハネの黙示録』のことですね…
その通り。
『ヨハネの黙示録』は内容的に「微妙な作品」だったから、新約聖書に入れるかどうかも、長らく議論がされたの。
だから現在でも、教会の儀式や説教で『ヨハネの黙示録』が読まれることは、ほとんどない…
なるほど。
『地下室の手記』も『ライフ・オブ・パイ』も、「手記の筆者」は「福音記者ヨハネ」がモデルだったのね。
だからアン・リー監督は、原作には出て来ない『地下室の手記』を、映画に登場させた…
それだけじゃないよ。
え?
「手記の筆者」だけでなく、手記の主人公である「わたし」のモデルも一緒だ。
「わたし」も一緒?
『地下室の手記』の「わたし」は「使徒ペトロ」でしたが…
『ライフ・オブ・パイ』の「わたし」も「使徒ペトロ」なんだよ。
つまり「パイ・パテル」は「使徒ペトロ」だ。
ええっ!?
パイのモデルは「ポール・サイモン」じゃなかったの?
パイは「ポール・サイモン」だよ。
どっちなのよ?
使徒ペトロなの? ポール・サイモンなの?
どっちもよ。パイは「Simon」なの。
は?
使徒ペトロの本名は「Simon bar-Yona(シモン・バルヨナ)」っていうのよ。
「ペトロ」はイエスがつけたニックネーム。「岩・石」という意味ね。
ああっ!そうでした!
「ロッキー」のフルネーム「ロッキー・バルボア」も、使徒ペトロの本名「シモン・バルヨナ」から取られたもの!
「Rocky(岩っぽい)」とは「ペトロっぽい」という意味です!
あらやだ。すっかり忘れてた。
原作小説におけるパイの容姿がポール・サイモンそっくりだったのは、使徒ペトロとの「Simon」つながりだったんだね。
だから映画では、こんなシーンが用意された。
パイと彼女の動物園デートのシーンが…
パイ「あれがリチャード・パーカー。この動物園が始まって以来、最も偉大な存在といえる。あの頭の動かし方をごらん。僕たちに見て欲しいんだ。まるでダンサーみたい」
彼女「違うわ。何かが聞こえてるの。リチャード・パーカーは《聴いている》のよ。意味わかる?」
パイ「????」
このシーンと「Simon」に何の関係が?
「Simon」とは、ヘブライ語で「(神の声に)耳を傾ける・聴く」という意味なの。
ええっ!?
「リチャード・パーカー」は「神」…
そして「パイ」は「Simon(聴く)」…
だから彼女はパイに「リチャード・パーカーは《聴いている》の。わかる?」と言ったの。
あれはネタバレのジョークだったというわけ(笑)
可愛いふりしてあの娘、割とやるわね!
「パイ」には「使徒ペトロ」由来のネタが他にもある。
シモン・バルヨナは、イエスから「ケパ」という変な名前をつけられた…
『ヨハネによる福音書』
1:42 そしてシモンをイエスのもとにつれてきた。イエスは彼に目をとめて言われた、「あなたはヨハネの子シモンである。あなたをケパ(訳せば、ペテロ)と呼ぶことにする」
「ケパ」とはアラム語で「岩・石」という意味で、それがギリシャ語に訳されて「ペトロ」になったんだ。
パイが「おしっこ」を連想させるフランス語「ピシン」と名付けられたのは、シモンの「ケパ(岩)」が元ネタだったんですね…
そして「ペトロ」はフランス語で「Pierre(ピエール)」と書く。
イタリア語でも「Pietro(ピエトロ)」だよね。
どっちも「Pi(パイ)」だわ!
まだあるわよ。
使徒ペトロは、初代教皇、つまり最初のローマ法王とされる。
法王は「Pope」だけど「Pater(お父さん・パパ様)」とも呼ばれるの。
そしてパイの苗字は「Patel」…
「Patel」は「Pater」のダジャレだったのね!
やられました…
パイは間違いなく「Simon」です…
パイが漂流中に「漁」が上手かったのは、元漁師シモン・ペトロがモデルだったからなんですね…
その通り。
だけどさ…
シモン、シモンって聞かされると「たいやき」が食べたくなるわよね。
恵比寿の「ひいらぎ」に行きたくなっちゃった。
何言ってるの?
鯛焼きと言ったら四谷の「わかば」でしょ。
良ちゃんこそ何言っちゃってるわけ?
「ひいらぎ」に決まってるじゃない!
わかばよ!
ひいらぎ!
キーーーーーーィ!
まあまあ、二人とも…
ケンカはやめてください…
じゃあアンタ、「ひいらぎ」と「わかば」のたいやき買ってきて!
食べ比べして正々堂々決着をつけましょ!
なんで私が…
しかも、いま何時だと思ってるんですか…
もう店は閉まってますよ…
じゃあアンタ、歌いなさいよ。
え?
歌を聴けばアタシたち、気が済むから。
は、はい… わかりました…
この歌詞…
つづく
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