深読み米津玄師_第1楽章_第13節A

米津K師殺人事件 第1楽章『アイネクライネ』第13節「石ころはあなたを知らない」




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2019年4月某日 熱海
海辺のカフェ



すごい…

なんて人なの、米津玄師は…

おそろしい才能だよね。

そこに気付いた僕自身にも驚いたけど。

さすが泣く子も黙る深読み名探偵 岡江 門(おかえ もん)ね。

あたし、この深読みを断然支持しちゃう。

たとえ米津玄師本人が「ちげーよ」って否定しても、あたしは岡江クンの深読みを信じる!

きっと彼は否定しないと思うな…

この先の歌詞やイラストを読み解いていけば、それは明白だから…

そうなの?

じゃあ続き続き…

今度はどこまで?

じゃあ…

「そうやってあなたまでも知らないままで」の歌詞まで進めてくれないかな。

Bメロの手前まで…

では、ポチっとな。


はい、ストップ。

さて、この部分には、イエス・キリストにまつわる「二人の重要人物」が隠されている。

誰かの居場所を奪い生きるくらいならもう
あたしは石ころにでもなれたらいいな
だとしたら勘違いも戸惑いもない
そうやってあなたまでも知らないままで

わかるかな?

「石ころ」ときて「知らない」ときたら、もうあの人しかいないわよね…

「ケファ(石)」こと、シモン・ペトロ!

『ペトロの否認』ホントホルスト

その通り。

イエスは、漁師だったシモン・ペトロの家に行き、初対面なのにいきなり「今からあなたはケファ(石)だ」と渾名をつけた。

そして後日「私は石の上に教会を建てよう」と宣言し、天国の鍵を与える。

つまりペトロを教団の後継者に指名したんだね。

だけどペトロは心の弱い人物だった。

師イエスの言うことが信じられず、イエスが逮捕された際も逃げてしまい、イエスの関係者かどうか尋ねられた時には「そんな人は知らない」と否定してしまう。

イエスが最後の晩餐で予言した通りに…

「鶏が鳴く前に、三度わたしを知らないと言うであろう」ね。

しかもペトロはローマでもイエスを裏切ってしまった。

皇帝ネロの弾圧に怖気づいて、信徒たちを見捨てて逃亡しちゃったのよね。

こんなに弱いメンタルの人を後継者に選ぶって、ほんとイエスって深いわ。

だから僕たちみたいなダメ人間にも救いがあるんだよ。

ちなみに、歌の歌詞の中に「石ころ」という言葉が出て来たら、だいたいシモン・ペトロのことだと思っていい。

元レピッシュの上田現が作って、元ちとせが歌った名曲『カッシーニ』もそうだった。

世界中に転がってる石ころのような
でも誰も壊せない祈り

「石ころ」以外でも、シモン・ペトロはよくネタにされるわよね。

風見鶏の憂鬱を
頼まれもせずに考えた
流されずに生きるって
たぶんそれなりに困難だ

なんて出だしで始まる森山直太朗の『明けない夜はないってことを明けない夜に考えていた』もそう。

この歌はホント面白いよね。

歌詞の「ろくでなしのブルースをスリーコードで歌にした」とか最高にウケる。

「漫画タイトルを使って全く違うことを言う」って米津玄師も『ハンターハンター』で同じことをやっているんだ。

他にもこの歌では…


ちょっと。脱線、脱線!

『アイネクライネ』に戻りましょ。

あの部分にシモン・ペトロの他に「もうひとり」隠されているのよね?

誰かしら?

全然わかんない。

誰かの居場所を奪い生きるくらいならもう
あたしは石ころにでもなれたらいいな
だとしたら勘違いも戸惑いもない
そうやってあなたまでも知らないままで

2行目と4行目は、シモン・ペトロのことを指していた…

残る1行目と3行目が「もうひとりの重要人物」を指している…

誰かの居場所を奪い生きるくらいならもう…

だとしたら勘違いも戸惑いもない…

居場所を奪う?勘違い?戸惑い?

どういうことかしら?

イエスが総督ピラトによって十字架刑に処せられる前…

ピラトの思惑ではイエスが受けるはずだった「恩赦により無罪放免」という立場を奪ってしまった人物がいたよね…

予想外の民衆の熱狂と暴走によって…

罪人バラバのこと?

『”Give us Barabbas!”』

その通り。

じゃあ「勘違い」や「戸惑い」は?

おそらく米津玄師は…

バラバの「本当の名前」について言ってるんだと思う。

本当の名前?

それが「勘違い」や「戸惑い」なの?

実はバラバって…

元々は「イエス」という名前だったんだ。

フルネームは「バラバ・イエス(Jesus Barabbas)」というんだよね。

え?

「バラバ」というのはアラム語で「父の子」という意味なんだ。

「ABBA(アバ)」は「父」だからね。

映画『スリー・ビルボード』でサム・ロックウェル演じるディクソン巡査が「ABBA」を聴いていたのも「父」を想起させるためだったでしょ?

つまり「バラバ」のフルネーム「バラバ・イエス」は…

「父の子・イエス」って意味なの?

そうだよ。

だから様々な「勘違い」が生まれたんだ。

よりによって、どちらを死刑にするか民衆に選ばせる場面で「二人のイエス」が登場するわけだからね…

そんな大事なシーンで、同じ名前のキャラ出さないわよね、普通。

しかも4福音書でバラバの人間像はバラバラなんだ。

『マタイによる福音書』では罪状不明…

『マルコによる福音書』では暴動時の殺人…

『ルカによる福音書』では、ただの殺人…

そして『ヨハネによる福音書』では強盗…

これじゃあ余計に勘違いや誤解を招くじゃん。

だよね。

そして多くのキリスト教徒が「バラバ・イエス」という名前に「戸惑い」を感じたらしい。

中東地域ではありふれた名前だった「イエス」は、キリスト教が広まったヨーロッパで特別なものになっていた。

だから、聖書の主役である救世主の名前と、代わりに無罪放免された悪人の名前が同じであることに、人々はモヤモヤを感じたんだね。

そういうわけで「バラバ・イエス」という名前から「イエス」が消されて「バラバ」だけになったんだ…

そうだったの…

ハチを消し去った米津玄師は「言葉・名前を消す」ってことについて色々考えていたのかしらね…

あ!そういえば…

「バラバ」といえば、この次の歌詞って…


そう。

トランプのハートのエースが映し出されて「あなたにあたしの思いが全部…」という歌詞でBメロが始まる。

ちなみにトランプの「♡」とは元々「聖杯」を意味していた。

つまりイエスの血肉のことだ。

そしてここからウルトラマンAの第13・14話の引用が始まる…

歌詞とイラストで「殺し屋超獣バラバ」と「エースキラー」が登場する回の再現になっていたんだよね…

唐突にウルトラマンAが引用されたわけじゃなかったのね…

ちゃんと直前にバラバのことが歌われていたなんて…

完璧に計算し尽くされた構成なんだよ…

すごいよね、米津玄師って…

こんなソングライティングする人、僕は今まで見たことがない…

Bメロの歌詞も意味深よね。

あなたにあたしの思いが全部伝わってほしいのに
誰にも言えない秘密があって嘘をついてしまうのだ
あなたが思えば思うよりいくつもあたしは意気地ないのに
どうして?どうして?どうして?

これも総督ピラトによる審問の場面かしら?

イエスを無罪だと思っていたピラトは「お前は本当にユダヤの王なのか?」とイエスに尋ねた。

「そんなことは言っていない」という答えを期待して。

だけどイエスは否定も肯定もせずに「あなたがそう言うならその通りだ」と答えたのよね。

1番Bメロは、十字架上でイエスが天の父に呼び掛けた時のことにも聞こえるな…

「エリ、エリ(エロイ、エロイ)、レマ、サバクタニ」
「わが神、わが神、どうして私をお見捨てになったのですか?」

確かにこれは「嘘」だもんね…

イエスは弟子たちに、最大の秘密「自分≒天の父」を伝えた。

神が聖霊を通じて人間の姿になったのが自分である、とね。

だからいくら天に呼び掛けても返事がないことは当然わかりきっている。

むしろ返事があったら一大事よ。

「私は天の父のもとに帰るだけ」と言う傍ら、肉体的死に対する恐怖心もあったところが、イエスの複雑なところであり、また魅力でもある。

全能の神であると同時に、ひとりの弱い人間なんだ。

まさに「どうして?どうして?どうして?」ね。

そしてBメロからサビに行くところで、また4つの星「☆⋆⋆☆」が現れる。

「INRI(ユダヤの王、ナザレのイエス)」そして「世の光、師」という意味が隠されている4つの星だ。

サビのイラストは、地上にいる「あたし」と天にいる「あなた」だったね。

十字架上で天の父のことを想うイエスね。

歌詞もピッタリ。

消えない悲しみも綻びも あなたといれば
それでよかったねと笑えるのが どんなに嬉しいか
目の前の全てが ぼやけては溶けてゆくような
奇跡であふれて足りないや
あたしの名前を呼んでくれた

「あなた≒あたし」という論理の中にある綻びも、昇天して元に戻ってしまえば「それでよかったねと笑える」もんね…

あれ?

でも最後のフレーズが…

そう。

聖書には「あたしの名前を呼んでくれた」という描写はない。

天の父は「おい、イエスよ」なんて呼ばないからね、ほぼ同一人物なんだから。

ここまでずっと聖書を引用した歌詞を続けて来て、最後の最後に米津玄師はジョークをかますんだ。

「なんちゃって~」みたいな感じで(笑)

普通に聴いてると「わけありラブストーリー」みたいな歌だけど、実は最後にオチがついてるパロディソングでもあるわけね。

米津玄師、やる~ぅ。

彼の溢れんばかりの才能が、そうさせるんだろうね。

「俺が普通のラブソングなんか書くわけねーだろ」みたいな。

ハチやインディーズ時代には、あれだけ凝りに凝った歌を書いてきたんだもん。

当然よね。

そういうこと。

では2番の深読みに行こうか…



つづく




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