第113話「ポール・サイモンの ONE TRICK PONY ② Late in the Evening」
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2019年9月19日
スナックふかよみ
何だか、いろいろ繋がってきたわね…
まだまだ序の口だよ、ポール・サイモンと『ライフ・オブ・パイ』の関係は…
それでは次に、映画『ONE TRICK PONY』で歌われるポール・サイモンの曲を見ていこう…
アルバムの冒頭を飾るのは、ノリノリのナンバー…
『Late in the Evening』ね。
超ファンキー!
興行で完敗した『ブルース・ブラザーズ』に全然負けてないじゃん!
1番は、幼児の頃の話…
2番は、仲間とつるみだした頃の話…
3番は、背伸びしてバーに潜り込み、エレキギターを爆音で弾いて皆を驚かせた時の話…
そして4番は、好きな子ができた時の話…
映画冒頭で描かれていた、ポール・サイモン演じる主人公ジョナの半生を歌っているみたいですね。
だと思うでしょ?
え?
そうじゃないんだな。
どういうことなの、岡江クン?
誰がどう聴いても、ポール・サイモン演じるジョナの子供時代の話でしょ?
ポール・サイモンがモデルになっていた『ライフ・オブ・パイ』の主人公パイは…
自分の子供時代の話をしているふりをして…
イエス・キリストの物語を語っていた…
はい?
なぜなら…
「パイの物語」とは「それを聴いた者が神を信じるようになる物語」だったから…
その元ネタはもちろん「福音書」なんだけど、ポール・サイモンの『ONE TRICK PONY』も、それと全く同じ構成…
つまりポール・サイモンは、自分の半生を『ONE TRICK PONY』という物語にして語ってるふりをして、イエス・キリストの物語「福音書」を語っていたというわけですか?
その通り。『ライフ・オブ・パイ』と全く同じように。
ちょっと!どうゆうことなのよ!
詳しく説明してくれない?
では『Late in the Evening』の歌詞を1番から順に見ていこう。
冒頭は「僕の最初の記憶はベッドの中」と始まる。
The first thing I remember
I was lying in my bed
I couldn't of been no more than one or two
アイ・クドゥント・オブ・ビーン・ノー・モア…
どゆ意味?
「ちょっとありえないような話」というニュアンスを含ませながら、「1歳や2歳よりも前の頃のこと」という意味になっている。
「1歳や2歳より前の頃」って、ずいぶんと曖昧な表現ね。
生まれて数ヵ月の乳児と2歳児じゃ、全然違うじゃん。
仕方ないんだよ。そういう歌詞にするしかなかった。
は?
続いて「僕」は「I remember there's a radio(ラジオがあった)」と回想し…
「隣の部屋からママの声が聞こえてきた。嬉しそうな笑い声」と語る…
そして最後は「それは晩の遅くの出来事。あたり一面に音楽がしみわたっていた」と締めくくります…
これが福音書の再現なの?
そうだよ。福音書の冒頭シーンの再現。
まず「僕」が寝ていた「ベッド」とは、これのこと…
『幼子イエスと羊飼いの礼拝』
ヘラルト・ファン・ホントホルスト
馬小屋の飼い葉桶ベッド!?
そして「ラジオがあった」と続き…
さらに「ママの嬉しそうな話し声が聴こえてくる」だから…
これですか!
東方の三博士の訪問と、母マリアに渡された素敵な贈り物!
『東方の三博士の礼拝』エル・グレコ
「ラジオがあった」は?
「there's a radio」とは…
直訳すると「無線信号・放射があった」という意味…
つまり、世界にキリストの降誕を告げた「ベツレヘムの星」のことだね。
山田くーん!サイモンさんに座布団1枚あげてー!
1番はイエスの乳幼児時代、つまり『マタイによる福音書』のキリスト降誕シーンを描いていたというわけだ。
ポール・サイモンが「1歳か2歳以下の頃」と歌ったのは、ヘロデ大王が「ユダヤ人の王の誕生」という預言を恐れて「2歳以下の赤ん坊を皆殺しにした」という記述に沿ったもの…
だから年齢が曖昧だったんだよ。
なるほど...
確かに福音書では、東方の三博士が訪問した時のイエスの年齢がよくわからないですからね…
まだ乳幼児だったとしか…
じゃあ2番は?
2番は、こんなふうに始まる…
The next thing I remember
I am walking down the street
「次に思い出すこと。僕が道を歩いてるところ」
そして「僕」は「最高の気分だ」と語り…
「あいつらと一緒」と言った後に「まるで一味を従えてる気分だな」と説明します…
すると道の向こう側に「別のグループが登場」する…
彼らは「ビリヤード」をしていた…
そして彼らは突然「アカペラ」で歌い出す…
対立する2つのグループの抗争? 突然始まるアカペラ?
なんだか『ウェストサイド物語』みたいなストーリーよね。
ん?『ウェストサイド・ストーリー』みたいな物語?
てゆうか、聖書に「ビリヤード」は出てこないでしょ。
さっきは凄いと思ったけど、ポール・サイモンの作詞能力も、たいしたことなかったわね。
ポール・サイモンを甘く見ないで欲しい。
え?
福音書には、ちゃんと「僕が引き連れていたグループ」と「ビリヤードをしていたグループ」が対立する場面が描かれている…
「アカペラ」つまり「楽器の演奏なし」で声を上げながら…
ポール・サイモンは、それを忠実に歌詞に落とし込んだんだ…
なに言ってるの、岡江クン…
福音書に「ビリヤードをしていたグループ」なんて出てこないわよ。
じゃあ、これは何?
「僕のグループ」と対立する集団は…
何を手にしているように見えるかな?
『ユダの接吻』ジョット・ディ・ボンドーネ
きゅ、きゅ、キュー!?
なんてこった…
や、山田くーん!
サイモンさんに、ざ、座布団2枚あげてー!
うふふ。
ポール・サイモンって、ホントおもしろい(笑)
では、3番は…
こんなふうに始まるよね。
Then I learned to play some lead guitar
I was underage in this funky bar
And I stepped outside to smoke myself a "J"
それから僕はいくつかリードギターの弾き方を覚えて
未成年なのにファンキーなバーに行き
店の外でこっそりマリファナを吸った
背伸びをしていたポール・サイモンの少年時代みたいに聞こえますが…
でも、また違うんでしょ?
まず「ギターの弾き方をいくつか覚えた」という言い回し…
ギターを覚えたての人間が、人前で簡単な曲を演奏するには、最低限、何が必要かな?
最低限必要なこと? 何だろう?
度胸?
スリー・コードですよ…
つまり「三位一体」のこと…
あっ、そっか…
森山直太朗の『明けない夜はないってことを明けない夜に考えていた』で使われていた駄洒落ね…
「I was underage in this funky bar」という言い回しも素晴らしいね。
さすが天才詩人ポール・サイモンだ…
「未成年だったけどファンキーなバーに行った」でしょ?
もしかして違うの?
あっ…
「bar」といえば「十字架」…
その通り。これまでいくつもの歌に登場してきた定番ネタだ。
フランク・シナトラの『One for my Baby (and One More for the Road)』や、トム・ウェイツの『CLOSING TIME』などが代表格でした…
ポール・サイモンは、この「bar」を「funky」という言葉で形容したんだけど、ここがポイントになっている。
十字架はファンキーじゃないでしょ?
今でこそ「funky」といえば「ノリノリ・イカしてる」みたいな使われ方をするけど…
元々の意味は「怖気づいた・憂鬱な・気分の悪い」というもの…
え?そうなんですか?
「ヤバい」みたいなもんだね。
「funky bar」とは「ノリノリのバー」じゃなくて「憂鬱な木の棒」…
つまり「十字架刑」のことを言っていたんだ。
だけど「bar」じゃ「十字架」じゃないじゃん。
複数形でなきゃ十字にならない…
他の歌では「close」という言葉を「bar」と組み合わせて「十字架」を表現してたわ…
ポール・サイモンの凄いところは、定番の「close」を避けて「underage」を使ったところにある。
「underage」って「未成年」でしょ?
イエスが十字架に掛けられたのは30過ぎじゃなかった?
そうじゃない。
「underage」という単語には2つの意味があるんだ。
1つは「未成年」、そしてもう1つが「不足」というもの…
あっ…
単数形の「bar」では「十字架」に木が1本「不足」している…
そういうこと。
そして極めつけの「And I stepped outside to smoke myself a "J"」だ。
「僕」は「bar」にいて…
「ほんのちょっと離れたところ」に「smoke myself a "J"」だというんだよ…
なんか「smoke myself "J"」って言い回しがアヤシイわよね…
絶対「Joint」の「J」じゃないでしょ…
「smoke myself "J"」は「spoke myself "J"」かもしれないな…
あっ!わかりました!
イエスの十字架の上に掲げられていた「INRI」ですよ!
INRI?
『十字架のキリスト像』
マティアス・グリューネヴァルト
「INRI」はイエスの罪状…
「ナザレのイエス、ユダヤ人の王(を自称した)」という意味で…
英語にすると「Jesus the Nazarene, King of the Jews」です!
なるほど。確かに「spoke myself "J"」だわ…
や、や、山田くん!
サイモンさんに座布団3枚… いや5枚あげちゃって!
さて、「僕」はバーの客たちが家に帰ろうとしていることに気付き、エレキギターをアンプにつなぐ…
そして大音量でエレキギターをかき鳴らし、みんなを驚かせる…
それは晩の遅くのことだった…
福音書によると、イエスの十字架刑の終わりのほうでは、人々が早く家に帰ろうとしていました…
そしてイエスは最期に、雷のように轟き渡る大声を発し、絶命します…
だけど「晩の遅く」じゃなくて、昼間の3時過ぎよね?
イエスが十字架に掛けられた日は、正午から地上全体が暗くなり、まるで夜みたいになったんだよ…
『マタイによる福音書』
27:45 さて、昼の十二時から地上の全面が暗くなって、三時に及んだ。
あ、そうだった…
そして3番の最後のフレーズ…
ちょっと笑えるわよね…
Late in the Evening, and I blew that room away
晩の遅く、僕はその場を吹っ飛ばしてやった
まさに世界は天変地異で大騒ぎでしたから…
『マタイによる福音書』
27:50 イエスはもう一度大声で叫んで、ついに息をひきとられた。
27:51 すると見よ、神殿の幕が上から下まで真二つに裂けた。また地震があり、岩が裂け、
27:52 また墓が開け、眠っている多くの聖徒たちの死体が生き返った。
ひゃー!
残るは4番ね…
『Late in the Evening』の最後を飾る4番は、こんなふうに始まる。
The first thing I remember
When you came into my life
I said I'm gonna get that girl
No matter what I do
僕が真っ先に思い出すこと
君が僕の人生に現れた時に
あの子を手に入れると僕は言った
どんな手段を使っても
4番はまた「最初の記憶」ですね。
「僕」は「あの子」に一目惚れをしたってことよね…
見た瞬間「手段を択ばずにゲットする」と決断したくらいの…
ポール・サイモン演じるジョナの恋人のことかな?
もしくは奥さん?
ジョナには奥さんがいて、名前を「Marion」という。
マリオン?「マリア」の変形したものですね。
じゃあ「あの子」はマリアってこと?
イエスの彼女だから、マグダラのマリア?
イエスはマグダラのマリアに対し「絶対に手に入れてやる!」なんていう感情を抱きませんでした…
じゃあ誰なのよ?
聖母マリアだよ。
は?
「僕」は「あの子」が現われた瞬間、絶対にゲットしようと考えた…
手段を択ばずにね…
実際「僕」は、ありえない手を使って「あの子」をゲットした…
どうゆうこと?
これだよ。
「僕」は「あの子」を「処女のまま」手に入れた…
「処女懐胎」という「ありえない手段」で、自分の聖母にしたんだ…
『受胎告知』フラ・アンジェリコ
あっ… そっか!
まさにこれこそ「The first thing I remember(僕の最初の記憶)」だ…
『マタイによる福音書』の第1章に描かれる、イエス・キリストの物語の始まり…
1:18 イエス・キリストの誕生の次第はこうであった。母マリヤはヨセフと婚約していたが、まだ一緒にならない前に、聖霊によって身重になった。
1:19 夫ヨセフは正しい人であったので、彼女のことが公けになることを好まず、ひそかに離縁しようと決心した。
1:20 彼がこのことを思いめぐらしていたとき、主の使が夢に現れて言った、「ダビデの子ヨセフよ、心配しないでマリヤを妻として迎えるがよい。その胎内に宿っているものは聖霊によるのである。
1:21 彼女は男の子を産むであろう。その名をイエスと名づけなさい。彼は、おのれの民をそのもろもろの罪から救う者となるからである」
や、や、や、山田くん!
サイモンさんに、座布団10枚あげちゃってー!
ふふふ。
これがわかると、次のフレーズの本当の意味もわかる…
Well I guess I've been in love before
And once or twice been on the floor
誰かを愛したことなら前にもある
一度や二度は打ちのめされたことも
というのが表向きの意味だけど…
ここのポイントは「been on the floor」を「地上に降りたこと」と読むこと…
「一度や二度はある」だから…
「燃える柴」として地上に現れた時と、「シナイ山頂」か…
そして「僕」は言う。
「君にやったやり方で愛した人は他にいない」と…
当たり前よね。
「処女懐胎」は聖母マリアだけ。他に誰もいない。
そして先程の『マタイによる福音書』第1章の「処女懐胎」の場面は夜だったので…
And it was late in the evening
And all the music seeping through
と歌われて、この曲は終わる…
馬小屋での誕生と、東方の三博士の訪問…
オリーブ山での深夜の逮捕劇…
夜のように暗くなった中での十字架刑…
そして聖母マリアの処女懐胎…
まさに福音書で描かれる「Late in the Evening」の出来事が4つ歌われるという構成…
素晴らしいの一言です…
どんだけ?
なんだか頭を使い過ぎて疲れちゃったから、もう一回ノリノリの『Late in the Evening』を聴いて、リフレッシュしましょ…
ハァ…
2曲目以降も、こんなふうに仕掛けや謎かけだらけの内容なのかなあ…
全然「ONE TRICK PONY」じゃない気がする…
では見ていこうか…
2曲目は『That's Why God Made The Movies』…
その名もズバリ「だから神は映画を創った」…
はい?
つづく
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