「抽象と捨象」Man in the Mirror(マン・イン・ザ・ミラー)前篇 ~『深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)& 読みたいことを、書けばいい。』
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2019年9月19日
スナックふかよみ
そういえばさ…
『マン・イン・ザ・ミラー』の歌詞って、ちょっと意味わからないところがあるわよね。
じゃあ聴いてみましょ。
ミュージック、スターティン💓
あ、確かに。
《無視された夏》とか《壊れたボトル・トップ》とか…
あと突然《柳の木》の話になったり…
・・・・・
うふふ…
何か言いたそうね、深読み名探偵さん(笑)
この歌は…
いや… やっぱりやめておきます。
また『ライフ・オブ・パイ』と関係ない話になってしまいそうだから…
いいんじゃないでしょうか?
え?
誰のためでもなく、自分のために、話したいことを話す…
それでいいんだと思います…
・・・・・
わたしも聞きたいです、教官…
後学のために、ぜひ話してください。
そうよ! YOU、言っちゃいなよ!
でも… やっぱり...
どうしようかな…
んもう!煮え切らないわね!
じゃあアタシが10数えるまでに話すか話さないか決めて頂戴。
10過ぎたら『ライフ・オブ・パイ』の話に戻る、それでいいわね?
行くわよ!
1、2、3…
・・・・・
4、5…
話してください!教官!
6、7…
岡江クン…
8…
わかりました…
話しましょう。『Man in the Mirror』の歌詞に秘められた本当の物語を…
うふふ。
この歌は…
人生、するか、しないかというその分かれ道で…
《する》というほうを選んだ、勇気ある人の物語です…
ええっ!?
というか、それ…
歌詞を読めば誰でもわかることだと思います…
そうよね… あたしもそう思った…
不平不満や理想論を口にするんじゃなくて、最も身近な存在である《目の前にいる人/鏡に映った自分》をしっかりと見つめ、自分を変えるところから始めよう…
そういう歌でしょ?
その通り。
「今あなたが見ているその人は、鏡に映った自分自身の姿。それを理解することが、よりよい世界への第一歩」
マイケル・ジャクソンが伝えたかったメッセージは、そういうこと。
だからこの歌の後半は、ゴスペル音楽の形式がとられている…
ん? どういうこと?
the Man in the Mirror…
世界をよくするための第一歩である《自分の目に映るその人》とは…
イエス・キリストのことでもあるんだよね…
『BEHOLD THE MAN(この人を見よ)』
Antonio Ciseri(アントニオ・チゼリ)
げえっ!ジーザス・クライスト!?
そもそも《ゴスペル音楽》とは、神の愛《福音》を歌う音楽…
それと関係のない歌詞のわけないでしょ?
言われてみれば、確かにそうね…
当たり前の話だったわ。
じゃあ《残念な夏》とか《壊れたボトル・トップ》とか《柳の木》とか、そのへんの意味不明な歌詞も、それと関係あるの?
もちろん。
それでは歌詞を見ていこうか。
名曲『Man in the Mirror』は、こんなふうに始まる…
I'm gonna make a change
For once in my life
It's gonna feel real good
Gonna make a difference
Gonna make it right
僕は変わってみせる
一生に一度のチャンス
それしかないと思うんだ
何かを変えたいのなら
何かを良くしたいのなら
って感じですか?
そうだね。
そして、ここで注目して欲しいのは「For once in my life」だ…
わかるかな?
どこかで聞いたことあるようなフレーズですが…
何でしたっけ?
これに決まってるでしょ!
アタシが子供の頃、一番最初に覚えた洋楽の歌…
スティーヴィー・ワンダーの『For once in my life』よ!
・・・・・
何よ? アタシの顔に何かついてる?
わたしの気のせいでしょうか…
今、一瞬、ケツヤさんが…
少年の姿に戻ったように見えました…
あら、そう?
この曲を歌うとさ、あの頃に戻った気持ちになるのよねー。
初心に帰るってゆーか、童心に帰るってやつ。
そのせいじゃない?
だけど、なぜ「For once in my life」が注目ポイントなの?
それはもうすぐわかる。
歌詞の続きを見ていこう…
As I turned up the collar on
A favorite winter coat
This wind is blowing my mind
I see the kids in the street
With not enough to eat
Who am I to be blind?
Pretending not to see their needs
お気に入りの冬用コートの襟を立てたとしても
この風は僕の心を打ちのめすんだ
路上の子供たちが見える
十分に食べられない子供たち
見て見ぬふりをしてる僕は誰?
子供たちが欲してることに
気付かないふりをしている僕は…
って感じですかね。
このパートには、いくつかの注目ポイントがある。
まずは「お気に入りの冬用コートの襟を立てる」だ…
これもどこかで聞いたことのあるような無いような…
たしか collar(襟)の話をしたわよね…
まず「襟を立てる」は…
ポール・サイモンの『The Sound of Silence(サウンド・オブ・サイレンス)』の2番の歌詞だ。
あ、そうそう!
そして「お気に入りの冬用のコート」は…
同じくポール・サイモンの『THE BOXER(ボクサー)』の4番…
今度はポール・サイモン? なぜ?
そして「This wind is blowing my mind」…
風が吹いている、といえば…
わかるよね?
ボブ・ディラン!
スティービー・ワンダー、ポール・サイモン、そしてボブ・ディラン?
どゆこと?
あっ!
『WE ARE THE WORLD(ウィー・アー・ザ・ワールド)』です!
あ、ほんとだ…
ていうか、『Man in the Mirror』のミュージックビデオに『WE ARE THE WORLD』が出てきてたわよね。
その通り。
『Man in the Mirror』は『WE ARE THE WORLD』を踏まえて作られた曲…
アンサーソングというか続編みたいなものだ。
だから、こうして『WE ARE THE WORLD』メンバーの代表曲のキーワードが散りばめられている…
なるほどね。
この歌詞ってマイケル・ジャクソンが書いたの?
書いたのは、サイーダ・ギャレットとグレン・バラードの二人…
おそらくマイケル・ジャクソンから「アンサーソングみたいなのが欲しい」ってリクエストがあったんじゃないかな。
さあ、いよいよ問題のパートよ。
ですね。
冒頭からの『WE ARE THE WORLD』ネタは、言ってみれば《挨拶代わり》というか《軽いジャブ》みたいなもの…
ここからが、この歌の本番と言える。
A summer's disregard
A broken bottle top
And a one man's soul
They follow each other
On the wind ya' know
Cause they got nowhere to go
That's why I want you to know
ここから歌詞がグッと難しくなりますね…
《無視された夏》とか《壊れたボトル・トップ》とか…
まずは「A summer's disregard」から。
《summer》には《夏》の他に《盛りの時・壮年期》という意味がある。
最も脂がのった一番いい年頃という意味だね。
男なら…
30代ってとこかしら。
20代じゃ、まだ若造だし… 40代じゃ、おっさんだし…
キンプリでもなくてSMAPでもなくて、嵐。
そして《disregard》は《捨象》という意味…
しゃしょう?
《捨象》とは、ある目的のために何かを《犠牲にする・切り捨てる》こと…
例えば、多くの人にアイデアを伝えたい時、その本質を効果的に伝えるために、モノゴトを抽象化する作業が行われる。
つまり《抽象》には必ず《捨象》が伴う。
《捨象》なき《抽象》は、ありえない…
詳しくはコチラで。
つまり「A summer's disregard」とは…
「何かの目的のために壮年期が犠牲にされた」ということですか?
何のことでしょう?
もっと具体的に言って欲しいわよね。
なんでオブラートに包んだような言い回しなわけ?
それは次の「A broken bottle top」を読み解けばわかる…
つづく
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