「ひげの男」VISIONS OF JOHANNA(ジョアンナのヴィジョン)④ ~『深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)& 読みたいことを、書けばいい。』
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2019年9月19日
スナックふかよみ
では3番を見てみよう。
1番2番と異なり、3番は少し視点が変わる…
Now little boy lost, he takes himself so seriously
He brags of his misery, he likes to live dangerously
今度は迷える幼子(おさなご)
自分自身の重大さを深刻に捉え
自分の惨めさを誇り
自ら危険なやり方を選ぶ
いきなり直球ね。どう考えてもイエスのことじゃん。
これまでと打って変わって3番はネタバレ全開の内容なんだ。
VERSEやCメロみたいなもんだね。
次のフレーズも直球ド真ん中…
And when bringing her name up
He speaks of a farewell kiss to me
彼女の名前がもたらされる時
彼は僕にサヨナラのキスを口にする
《彼女の名前》とは《LOUISE》、つまりイエスのこと…
そして《サヨナラのキス》といえば、ユダの口づけ…
『ユダの接吻』
ジョット・ディ・ボンドーネ
そして次のフレーズ…
He's sure got a lotta gall to be so useless and all
無益な《gall》がいっぱい?
ギャルだらけってこと?
《gall》とは《胆汁》のこと。
あっ!これですね!
『ロンギヌスの槍』
フラ・アンジェリコ
十字架上のイエスが死んだかどうか確認するため、ローマ兵ロンギヌスは槍でイエスの脇腹を刺しました。
その時、多くの胆汁が流れた…
その通り。
そして「He's sure got」の「got」は「Gott/God」のダジャレになっている。
「彼はまさに神であった」という意味だね。
「got/God/Gott」は英詩でよく使われる駄洒落。
ちなみに「Gott」はドイツ語やスカンジナビア諸語での神。
次のフレーズもわかりやすいね。
Muttering small talk at the wall
while I'm in the hall
How can I explain?
Oh, it's so hard to get on
壁で片言の言葉をつぶやく
僕がホールの中にいる間
どう説明したらいい?
ああ!うまくやるのは難しい
hall(ホール)は、hole(穴)もしくは hell(地獄)のダジャレ…
つまり、裏切りの報酬で手に入れた土地の穴に真っ逆さまに落ちて死んだユダのこと…
そして「壁で片言の言葉をつぶやく」とは「壁のようにそそり立つ十字架で片言の言葉をつぶやく」という意味…
これはイエスが預言を成就させるために十字架上で発した7つの短い言葉のこと…
その通り。そして3番は、こう締めくくられる…
And these visions of Johanna,
they kept me up past the dawn
これらジョアンナのビジョンが
僕を徹夜させた
激動の夜、オリーブ山の場面が終わったってことね。
となると、続く4番で歌われる場面は、もうわかるだろう…
Inside the museums, Infinity goes up on trial
Voices echo this is what salvation must be like after a while
博物館の中で無限が裁判にかけられる
しばらくして救世とは何かという問答が響く
裁判にかけられる《無限》とは、神のこと…
つまり《博物館》とは、イエスの裁判が行われた官邸のことですね…
そして救世についての問答は、ローマ帝国ユダヤ属州総督ピラトとのやりとり…
『真理とは何か?』
ニコライ・ゲー
その通り。
4番はローマ人ピラトによるイエスの裁判のシーンが歌われている。
次のフレーズも面白いよね…
But Mona Lisa musta had the highway blues
You can tell by the way she smiles
モナ・リザはハイウェイ・ブルースに違いない
彼女の笑い方で気付くだろう
なんで突然モナ・リザ?
『モナ・リザ』
レオナルド・ダ・ヴィンチ
MONA LISA(私の貴婦人LISA) は《LOUISE》、つまりピラトの尋問を受けているイエスのことだね。
ちなみにこの絵には、もうひとつの呼び方がある。
モデル女性の苗字をとった《La Gioconda》というものなんだけど、これは《喜び・幸いの人》のダジャレになっている。
なんでイエスがハイウェイ・ブルースなのよ?
『追憶のハイウェイ61(Highway 61 Revisited)』のことじゃないですか?
あれも聖書が元ネタになってる歌ですし。
たぶん《61》じゃなくて《66》の方だと思うな。
『ROUTE 66』のほう。
え? どういうことですか?
それは後程ゆっくり説明しようか。
まずは4番の続きを見ていくよ。
See the primitive wallflower freeze
When the jelly-faced women all sneeze
Hear the one with the mustache say,
"Jeeze I can't find my knees"
原始的な壁の花が立ちつくすのを見ろ
ゼリー顔の女たちが一斉にくしゃみをした時
口ひげの男がこう言うのが聴こえる
「ジーザス!私は膝を見つけることができない」
なにこれ?
《primitive》は「わたしはアルファ(始原)でありオメガ(終結)である」からのものじゃないかな。
《wallflower》は、裁判の時にイエスが侮辱目的で赤い布を着せられたことだろう。
それでは《ゼリー顔の女たち》とは?
《jelly》は《Jewy》のカモフラージュだね。
ピラトが官邸でイエスを尋問していた時、外には大勢のユダヤ人が集まっていた。
じゃあ、意味不明のセリフを言う《口ひげの男》は?
あれはピラト総督のことだよ。
なんでピラトが《口ひげの男》なのよ!
映画とかでもピラトは髭を生やしてないわ!
むしろ、口髭があるのはイエスのほう!
じゃあ聞くけど…
《口ひげの男》といったら、まず何を連想する?
《口ひげ》がトレードマークになっているものといえば…
口ひげ?
これに決まってるでしょ。
そう。口ひげがトレードマークといえば《海賊》だよね。
海賊は英語で《PIRATE》と書く。
知ってるわよ、そんなこと。
そしてピラトは英語で《PILATE》と書く。
《PIRATE》と《PILATE》は、RとL以外、発音が一緒だ。
だからボブ・ディランは、ピラトを《口ひげの男》と表現したというわけ。
どんだけ?
ということは…
口ひげの男のセリフ「ジーザス!私は膝を見つけることができない」とは…
これのことだったんですね…
『ヨハネによる福音書』18:38
ピラトはイエスに言った、「真理とは何か」。こう言って、彼はまたユダヤ人の所に出て行き、彼らに言った、「わたしには、この人になんの罪も見いだせない」。
『エッケ・ホモ(この人を見よ)』
アントニオ・チゼリ
そういうこと。
そして歌詞は、こう続く…
Oh, jewels and binoculars hang from the head of the mule
もうパターンは読めた。
《 jewels 》がアヤシイ。
ですよね。また《ユダヤ人》の隠語だと思います。
だけど次の《binoculars》は何だろう?
《binoculars》とは双眼鏡のこと。
語源はラテン語の「bini - oculus」、つまり「double eye」だ。
わかるかな?
ダブル・アイ。2つのアイ。
は? お猿さん? 尻尾の長い?
うふふ。
対になった《I》っていう駄洒落よ。
ダジャレ?
そして《 AND 》は《N》とも書く…
《Rock and Roll》は《Rock 'n' Roll》でしょ?
だから「jewels and binoculars」とは…
あっ!わかった!
《INRI》です!
「ユダヤ人の王、ナザレのイエス」を意味する「IESVS NAZARENVS REX IVDAEORVM」です!
『磔刑図』マティアス・グリューネヴァルト
やられた…
ボブ・ディラン、天才…
だからボブ・ディランは、「INRI」は「hang from the head of the mule(ラバの頭から吊るされている)」と歌ったんだ。
mule とはラバのことで、これはイエスを表している。
ラバは馬とロバを掛け合わせたもので、ダビデ王お気に入りの動物だった。
ロバやラバはメシアに結び付けられることが多く、旧約聖書にはこんな預言も残されている…
シオンの娘に告げよ
見よ、あなたの王がおいでになる
柔和なおかたで、ろばに乗って
くびきを負うろばの子に乗って
だからイエスはエルサレム入城の際にロバに乗り、それを見た群衆はこんな歌を歌ったんだ…
ダビデの子に、ホサナ
主の御名によってきたる者に、祝福あれ
いと高き所に、ホサナ
完璧すぎます…
そして4番は、こう〆られる。
But these visions of Johanna, they make it all seem so cruel
確かに seem so cruel だわ…
あの十字架刑は、誰がどう見ても、ひどく残酷に思えるわよね…
《神の計画》という事情を知らなければ…
ふふふ。
いよいよ残るは5番だけね。
どんなオチが待っているのかしら?
よろしく、深読み名探偵さん…
はい。
つづく
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