第102話「僕とフリオとプノンペンで」『深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)& 読みたいことを、書けばいい。』
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2019年9月19日
スナックふかよみ
そんな入口に突っ立ってないで、こっち来たら?
暗いでしょ?
はい… それでは…
きゃっ!
・・・・・
黄金色に照り輝いている…
いったいどうしたんですか、その顔色…
おそらく…
さきほど食べたカレーのせいでしょうか…
全身が黄色くなるほどカレーを食べたの?
どんだけ!?
んもう。ヒロノブさんったら。
キレンジャーじゃないんだから。
というか…
まるで、東南アジアにある、黄金の涅槃仏みたいです…
しかし…
停電の夜といえば…
思い出しますね…
え? 何を?
プノンペンの夜を、です。
プノンペン?
最近はそうでもないのですが、少し前は、停電が日常茶飯事で…
飲み屋で飲んでいると、急に停電になるんですよ…
従業員も客も慣れたもんで、何事も無かったようにロウソクをつけて…
私が毎年必ず訪れる店の無口なバーテン、ジョーさんなどは…
ジョーさん? プノンペンのジョー?
はい、そうですが…
それが何か?
彼も「プノンペンのジョー」なのよ!
今夜からヘルプで入ることになったジョーさん!
日本に来る前は、プノンペンで外国人向けのお店やりながらツアーガイドしてたんだって!
・・・・・
・・・・・
ねえねえ、ジョー。ヒロノブさんのこと、知ってる?
い、いえ…
お会いしたことは無いと思います…
え? そうなの?
プノンペンは広いですから…
飲み屋だって何百軒、いや何千軒もあるでしょう…
ジョーさんなんて、ありふれた名前だから、何十人もいますよ、きっと…
確かに、そうね。
しかしヒロノブさん…
なぜ毎年カンボジアを訪れているのですか?
わかった!
現地妻がいるんでしょ!
亡くなった母のためですよ…
え?
私の母は、カンボジアで亡くなったのです…
お母さまが、カンボジアで?
そうなんです…
母は、カンボジアで…
野生の虎に襲われ、食べられてしまいました…
ド、トラに食べられた?
なによそれ!?
・・・・・
あれは、もう三十年前のこと…
母は某国際調査機関の一員として、カンボジア北部の山岳地帯で、絶滅寸前だったトラの調査をしていました…
カンボジアって、野生のトラがいるの?
はい…
今では絶滅寸前ですが、かつてはインドシナ半島一帯に、多くのトラが生息していました…
母たちのチームは、ある村で人喰い虎が出たという噂を聞き、調査に向かったのですが…
母は用を足そうとチームのメンバーと離れた際、茂みの中に隠れていたトラに襲われ、そのまま帰らぬ人に…
数ヵ月後、森の中で母のものと思われる骨が見つかりました…
肉がきれいに削ぎ落された骨だけが…
ゴクリ…
それ以来、私は毎年カンボジアを訪れるようになりました…
亡き母を偲んで…
そんな過去があったなんて…
知らなかった…
私も、初めて話しました…
なんだか、奇遇だな…
今夜は『ライフ・オブ・パイ』でトラの話をしてたから…
・・・・・
すみません。変な意味で言ったわけじゃ…
いいんですよ。その通りですから。
なんだか、しんみりしちゃったわね。
気分転換にカラオケでも歌う?
カラオケ?
停電なのでは?
それがね、ちょっと妙な停電なのよ…
照明関係だけが停電で…
他の電源は問題無いの…
ほう。
それでは一曲歌いましょうか…
リモコン貸してください。
はい、どうぞ。
えーと…
とおり、とおり…
ああ、ありました。
それでは歌います…
『通りすがりの大阪で』…
渋い選曲ね。
こんな大阪ご当地ソング、初めて聞いたわ。超マニアック。
それにしても、ヒロノブさんの声って、ホント素敵。
もっと聞きたいわ、あたし。
それでは…
今度は景気よく『六甲おろし』でも歌いましょうか?
オーオーオーオー!はーんしーんタイガース♫
って、虎じゃん!
ふふふ。
嘘ですよ。さっきの話は。
は?
私の母はトラに食べられてはいません。
え? ぜんぶ作り話ってこと?
その通り。I'm torry.
・・・・・
んもう!ヒロノブさんったら!
すっかり騙されちゃったじゃないの!
だって私、言いましたよ。
「私も初めて話しました」って。
そういう意味だったのね…
だけどなぜ虎の話をしようと思ったの?
阪神タイガースの帽子が目に入ったからですよ。
え? 帽子?
それでひとつ嘘のストーリーをでっち上げてみました。
これがホントのストーリーテリング。ぷぷっ。
そうか…
お母さんと虎の話、どこかで聞いたことあるような気がしたんです…
あれは「李広」ですね。
そのとおり(笑)
んもう! カイザー・ソゼじゃないんだから!
うふふ。
ああっ!
なによ?急に大声出して…
大事なこと忘れてました!
大事なこと?
ポール・サイモンと阪神タイガースですよ!
なぜポール・サイモンは『Me and Julio Down by the Schoolyard(僕とフリオと校庭で)』のミュージックビデオで「阪神タイガースの帽子」を被っていたのか?
この謎のことを、すっかり忘れていました!
あれはニューヨーク・ヤンキースのキャップでしょ?
ポール・サイモンは生粋のニューヨーカーで、子供の頃からヤンキースの大ファンなのよ。
しかもMVの中で一緒に野球をするおじさんは、ヤンキースのレジェンド、ミッキー・マントルだし。
そうじゃありません!よく見てください!
あれは間違いなく阪神タイガースのマークですよ!
あら、ホントだ。
「NとY」じゃなくて「HとT」だわ。
でしょ? 変だと思いませんか?
わかった!
この歌は「大阪」がテーマなのよ!
は?
だから冒頭で二人組がラップで掛け合いするの!
あれは「大阪の漫才コンビ」へのオマージュだわ!
確かにバブル時代の漫才師は、あんな感じだったかも…
でしょ?
いや、さすがにそれはないでしょう…
ってゆうかさ、この歌のタイトル『僕とフリオと校庭で』も変よね。
誰なのよ「フリオ」って?
もしかして「西川ノリオ」のことじゃない?
じゃあ「僕」は、よしお?
うーん…
ちょっと違うか…
「フリオ」は「不良」じゃなかったでしたっけ?
そんな寒いオヤジギャグはよし子ちゃん!
山崎まさよしじゃないんだから。
すみません…
だけど、サビに出てくる「Rosie, the queen of Corona(コロナの女王ロージー)」も謎ですよね…
「フリオ」といい「ロージー」といい、いったい誰のことなのでしょうか?
ポール・サイモンの幼馴染とか、かな?
それに、ママが見た「法に反する行為」というのも謎ですし…
パパの言動はどう考えても行き過ぎですし…
最後はニューズウィーク誌の表紙になったというオチも意味不明です…
いったい「僕」は何をやらかしたのでしょう?
うふふ。
さっきからずっと黙ってるけど…
もちろんわかっているのよね? 深読み名探偵さん…
ええ。全部。
ぜ、全部!?
本当なの、岡江クン?
ああ。
「フリオ」と「コロナの女王ロージー」が誰なのかも、「僕が起こした事件」が何なのかも、全部わかっている。
そして、ポール・サイモンが「阪神タイガースの帽子」を被っている理由も…
・・・・・
言い切ったわね。
これまでも自信満々だったけど、今回はそれ以上のものを感じる…
うふふ。
それじゃあ聞かせてもらおうかしら。
『僕とフリオと校庭で』に隠された秘密を、洗いざらい…
はい。任せてください…
つづく
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