「Pondicherry(ポンディシェリ)って何のこと?」『深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)& 読みたいことを、書けばいい。』
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2019年9月19日 夜
スナックふかよみ
ああ… スッキリした…
深代ママさんは、いつも服の下に…
黒いレオタードを着てるんですか?
ええ、そうだけど…
それが何か?
ねえ… 服、着なよ…
目のやりどころに困るから…
あらそう? わかった…
さて、オープニングの動物映像も終わったことだし…
いよいよ『ライフ・オブ・パイ』の物語本編のスタートね。
でも映し出されるのは、また動物ですけど。
大型のトカゲ「ベンガル・モニター・リザード」です。
画面にデカデカと映し出されたトカゲは、雨の中を急ぎ足で歩いてきたパイの父親に驚き、方向転換して後方のヒクイドリの檻の中へ駈け込んでいく…
ヒクイドリとは、ダチョウのような大型の鳥だ。
そしてトカゲの進入に驚いたヒクイドリは、暴れてトカゲを踏みつぶしてしまう。
なんで踏みつぶされちゃうの?
出て来たばかりなのに可哀想じゃない?
これはオマージュね。
『赤ちゃん泥棒』という邦題で知られるコーエン兄弟の映画『RAISING ARIZONA』の…
あの映画は『ライフ・オブ・パイ』と同じく、聖書のストーリーを再現した「神を信じるようになる物語」だから…
たしかにトカゲが瞬殺されます。
ライダーが最初に殺した「ウサギ」は、イエス・キリストの象徴…
イエスは「原罪」を背負って十字架で死に、墓の穴から復活した…
ウサギは春になると穴から出てくるから、イエス・キリストに喩えられたのね…
そして次に殺される「トカゲ」は…
イエスが背負った「原罪」のきっかけを作った、エデンの園のサタン…
え? イブをそそのかしたのは「ヘビ」でしたよね?
でもね、宗教画では「トカゲ」として描かれることも多いの…
『原罪』
フーゴー・ファン・デル・グース
ホントだ…
でも、なぜでしょう?
『創世記』で、神が「ヘビ」に対して罰を与える時に、こんなふうに言うからよ…
「ヘビよ。これからお前はずっと腹で地を這うようになる」
つまり…
エデンの園にいた頃の「ヘビ」は、腹を地面につけて這ってはいなかった…
神が罰として「ヘビ」から「足」を奪ったようにも聞こえるのよね…
なるほど。確かにそうとも読めます。
昔の人も「深読み」が好きだったんですね。
昔の人の方が今よりもずっと深読みしてたと思うわ。
だって昔は今と違って情報が圧倒的に少なかったでしょ?
もちろんインターネットなんて無いし、書物でさえ一部の特権階級だけのものだった…
だからみんな、少ない情報から一生懸命、深読みしてたと思うの…
そういう視点はありませんでした。目からウロコです。
なんだか文代さんの話って、深読み探偵学校の授業みたいだなあ…
文代さんが教官だったら、すっごく人気になりそう…
ふふふ。やってみようかしら?
しかし、いろいろとよく御存知で。
詳しいんですね、この手の話に…
詳しいっていうか… 好きなだけ。
人って、好きなことだと、もっと知りたくなって、いろいろ調べるでしょ?
ただそれだけのことよ。
さて、やっと主人公パイの登場ね。
キッチンに立つ、40代の中年パイ。
それから、パイの話を聴いて小説『ライフ・オブ・パイ』を書くことになる作家ヤン・マーテルも。
まず冒頭では、作家の質問に答えて、中年パイが自分の出生時の話をします。
作家「つまり、あなたは動物園の中で育ったと?」
パイ「生まれも育ちも。フランス領インドのポンディシェリで。父は動物園のオーナーだった」
フランス領インドなんて知らなかったわ。『ライフ・オブ・パイ』で初めて知った。
かつてインドには「フランス領インド」の港湾都市がいくつか存在した。
それらはインドへ返還された今も「ポンディシェリ連邦直轄領」という特別な自治体になってるの。
周辺地域と歴史や文化が全然ちがうから…
私もこの映画を観るまで、インドは全部イギリス領だったと思ってました。
インド全体から見れば面積は小っちゃいけど、かつてはフランス領の地域もあったんですね。
でも、パイが語っているのは…
「インド」の話では、ない…
え?
もう忘れたのかい?
この物語における「動物園」や「インド」とは…
「パレスチナ」のことだった…
あ、そうでした…
実はパレスチナにもフランス領があったの。
インドと同じように、旧イギリス領に比べたら小っちゃいけど…
この地図の濃いオレンジの部分、ガリラヤ湖とヨルダン川の東側が、1947年のパレスチナ国連分割案に組み込まれた旧フランス領だった地域よ…
確かに小っちゃい。
そして国連共同管理地に指定されたエルサレムには、戦前、フランス主導によるカトリックの聖座保護領が置かれる案もあった…
これらのことを、中年パイはインドの話に「偽装」して話していたんだ。
ですよね? 文代さん…
そう。
パイが話す「インドに関する話」は、全部「パレスチナ」についての話…
そして「ポンディシェリ」も…
インドの都市「ポンディシェリ」ではない…
(やはり来たな… 間違いない、この女は全てを知っている…)
え? パレスチナにもポンディシェリって町があるんですか?
「ポンディシェリ」という名前の町はないわ…
だけど「ポンディシェリ」は「エルサレム」のことなの。
エルサレム? どうして?
「ポンディシェリ」は英語で「Pondicherry」と書くんだけど…
「チェリー(cherry)」って、サクランボみたいですね。
そういえば文代さんの耳飾りもサクランボ…
かわいい。
ありがと。これ、思い出の耳飾りなの。
あたしの大切な思い出…
ねえねえ。チェリーといえば、この曲よね。
深代、歌いまーす!
普通こっちだと思いますけど。
マイク、お借りします…
なんだか、あたしも歌いたくなっちゃった。
いいかしら?
もちろんですよ。はい、マイクどうぞ…
じゃあ、久しぶりにフランス語の歌を…
あたしの大好きな、チェリーの歌よ…
文代さん… ジーナさんみたい…
・・・・・
さあ、岡江クンの番よ。どんなチェリー・ソングかしら?
え? 僕も?
じゃあ教官、私と一緒に歌いますか?
ゴールデン・ハーフの『黄色いサクランボ』でも…
いや。僕はやめとくよ…
教官、ホントは歌うまいくせに。
ところで…
これらの歌の「チェリー」がダブルミーニングになってることは、説明しなくてもいいわよね?
「cherry」には「サクランボ」以外に、もうひとつ意味があるんだけど…
あなた、もちろんわかってるわよね?
は、はい…
チェ、チェリーは…
しょ、処女です…
そう。
「cherry」とは「virgin(バージン)」のことね。
そして「pond」とは「池・泉水」という意味…
もう、おわかりかしら?
え?
「Pondicherry(ポンディシェリ)」は「cherry」の「pond」なの。
つまり「処女の泉」ね。
処女の… 泉?
そんな名前の映画あったわよね?
古い白黒の北欧映画で。
そう。
イングマール・ベルイマンの『THE VIRGIN SPRING』…
邦題は『処女の泉』…
つづく
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