蕎麦屋のおじさんが言った「行った人だけの得だから」という言葉。
昨年の夏、女友達3人で上高地へ行った帰り、蕎麦屋さんに立ち寄った。
長野に住んでいる友達が「旦那さんから教えてもらった」というそのお店は住宅街の中にあった。
14時すぎという中途半端な時間に着いたせいか、お店は空いていた。
「おすすめは、天ぷらそばだよ」と店主のおじさんが言うので、3人とも天ぷらそばを頼んだ。
温かいお蕎麦も選べたけど、夏だったのでざるそばを選択。
えびや山菜のてんぷらがついて1,200円(だったらしい。食べログで調べました)。
お蕎麦は十割蕎麦。
天ぷらのサクサクと、蕎麦のつるりとした喉越し。最高である。
隣の席にいたお客さんたちが帰り、それを片付けにきた店主らしきおじさんが「どこから来たの?」と話かけてきた。
3人中2人は愛知県からだったので、それを伝えると「愛知は昔、JAで働いとった時に研修で行ってねえ」と昔話をはじめた。
そこから「山は登るのか」という話になり、この辺の山は全部登っただとか、どこそこはすごく良かっただとか、よくあるおじさんの「経験談」と書いて「自慢話」が続いた。
内心、ちょっと面倒臭いなと思いつつ、みんなで「へ〜」とか「すごいですね」なんて半分適当に返しつつ蕎麦を食べていた。
すると、おじさんが言った。
「若い時はね。たくさんあちこち行った方がいい。今は便利で、どこの景色も簡単に見れるけど、やっぱりこの目で見るのとは違う。これはね、行った人だけの得だから。元気なうちに、いっぱいその目で見た方がいい」
おじさんは、足が少し悪くなってから山は登らなくなったと言った。
もう登れないんだよ。と言った。
「そっか。今のうちにいっぱいあちこち行かなきゃですね」私がそう答えると、「そうだよ。槍ヶ岳とかもさ、登ったらいいよ」とおじさんは言った。
「いや〜、槍ヶ岳はさすがにきついな〜〜!」と笑うと「じゃああの山はどうだ」といろんな山を教えてくれた。
山女じゃないから、3,000m級の山は厳しいなあと思いながら、みんなで笑っておじさんの話を聞いた。
レジでお会計を済ませ「ごちそうさまでした」とお店を出ようとすると、おじさんがもう一度「ね。行った人だけの得だからね」と言った。
「はい。行った人だけの得。あちこち行ってきます」
そう言い残して、お店を後にした。
あの日から、私の中に「行った人だけの得だから」という言葉が刻まれた。
確かに今は便利で、テレビもYoutubeもインスタも色々あって、いつでもどこでも世界中のどんな景色も見ることができる。
富士山の山頂からの景色だって、温かいこたつの中から一瞬で見ることができる。
綺麗だなあって思う。
でも、3,776mの空気の薄さとか寒さとか、そこに至るまでのしんどさとかハプニングとか、そういうのは写真を見るだけでは経験できない。
自分の足で行って、自分の目で見るからこそ、得られるものがある。
元気なうちは、いろんな場所に行って、いろんなものをこの目で見たい。
「行った人だけの得」を、いっぱい経験したい。そう思う。
最後に、お店の情報。
夫婦堤十割そば盛さん。
裏が池なので、鴨が泳いでるのが見えて和みます。
おじさんのお話も面白いので、お近くに行かれた際はぜひ。
営業時間 11:00~20:30
定休日 月曜日
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