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自由とは 孤独とは 家とは 家族とは。そして、幸せとは一体。

映画『ノマドランド』を観た。

先週、急に時間がぽっかりと空いてしまい「どうしようかなあ。そうだ、映画でも観るか〜」そう思い立ち、その時たまたまちょうど良い時間に上映していたのが『ノマドランド』だった。

この映画がアカデミー賞作品賞の有力候補だとか、前哨戦と言われる映画祭で受賞したとか、評判が良いのは知っていた。

けど、全然観に行こうとは思っていなかったし、もし時間が合わなかったら違う映画を観たと思う。

それぐらい軽いノリで観た映画だった。

でも、すごく、いろんなことを考えさせられる映画、だった。


あらすじはこんな感じ。

リーマンショック後、企業の倒産とともに、長年住み慣れたネバダ州の企業城下町の住処を失った60代女性ファーン(フランシス・マクドーマンド)。彼女の選択は、キャンピングカーに全ての思い出を詰め込んで、車上生活者、“現代のノマド(遊牧民)”として、過酷な季節労働の現場を渡り歩くことだった。その日その日を懸命に乗り越えながら、往く先々で出会うノマドたちとの心の交流とともに、誇りを持った彼女の自由な旅は続いていく。大きな反響を生んだ原作ノンフィクションをもとに、そこで描かれる実在のノマドたちとともに見つめる今を生きる希望を、広大な西部の自然の中で探し求めるロードムービー。

(引用元:https://filmarks.com/movies/92087

夫を亡くし、住んでいた家も街も失い、短期の仕事を転々としながらキャンピングカーで暮らしている主人公のファーン。
年齢は60代。いわゆる「高齢者」だ。

それでも、クリスマスシーズンはamazonの倉庫で働き、夏はキャンプ場の清掃係、秋は農作物の収穫作業。男性に混じって力仕事だってなんだってやる。

働く場所を転々とする中で出会った他のノマドと仲間になり、仕事が終われば「またね」と別れ、また違う場で出会い、また別れ…。
ある1年をファーンの目線で一緒に歩む、そんな映画だ。

この映画が話題になったのは、本当のノマドたちが出演しているということ。
主人公ともう1人の男性俳優以外は、実際の「ノマド」だ。名前も実名。
そのせいなのか、まるでドキュメンタリーを見ているような気持ちになった。

ロードムービーなので起承転結らしいものもないし、大きな波があるわけでもない。
ただ淡々と主人公の暮らしが続いていくだけ。

私がいまハタチ前後だったら、もしかしたら途中で寝ていたかもしれない。「えー何がいいのかよくわかんなーい」そんな風に思っちゃったかもしれない。

でも。いま、45歳で独身でひとりっ子でフリーランスで、両親と借家に住んでいる私には、この映画の主人公ファーンやその他のノマドたちの生き様が、他人事と思えなかったのだ。

この映画に出てくるノマドたちは、ほとんどが高齢者だ。
様々な事情で家を手放し、年金も思ったようにもらえず、キャンピングカーで各地を転々としながら暮らしている。

私は、彼らをどうしても自分と重ね合わせてしまった。
未来の自分を見てるみたいというか、私がこの先に辿る選択肢の一つなのかもしれないというか。

そう思うとちょっと怖かった。

家も持たず、家族も持たず、お金も必要最低限しか持たないノマドな生き方。
はたから見たらその暮らしは「かわいそう」だし「不幸」なのかもしれない。
私自身そう思ったから「怖い」と思った。

けれど、本当に彼らは「かわいそう」なのだろうか。


主人公のファーンは常にとても気高く、誇り高かった。
昔の知り合いに偶然会い「ホームレスなの?」と聞かれ「違うわ、ハウスレウよ」と答えたファーン。

それを聞いたとき「本当は家に暮らしたいのに、強がってるだけなんじゃないのか」そう思った。

でも、何度か訪れる「家で暮らす」という機会を彼女は全て捨て、キャンピングカーで「ノマド」として暮らすことを選ぶ。

それは彼女の正義だったのか、なんだったのか。
映画の中で語られることはないから分からない。
でも、彼女は「ひとりでノマドとして生きる自由」を最後まで選択する。

彼女を見ていると、「豊か」とは「幸せ」とは何なのか。それを考えさせられる。


家があって、夫がいて子供がいて(映画ではファーンの妹がそうだった)、裕福そうな暮らしをしていて、食事中の話題は「不動産は儲かる」そんな話。
暖かい部屋で美味しい食事をして、欲しいものは大概買える。彼らは確かにとても豊かだ。

でもファーンみたいに、どこにも根を張らず、好きな時に好きなところへ行くことができて、行く先々でその場にいた人と交流を持って生きる。ただひたすらに自由な生き方。これもある意味、豊かなのかもしれない。

ただ、この自由の反対側には、とてつもない孤独がある。

真っ暗な砂漠の夜を1人で過ごす孤独。
新年を1人で祝う孤独。

自由と孤独、窮屈さと安心と安定。
一体、どちらが、幸せなんだろう。

「幸せ」って、一体なんなんだろう。

私には答えが出せなかった。
でも、ノマドにはなれない。私には。
あんなに、強く逞しく生きられない。


今日、この『ノマドランド』がアカデミー賞で作品賞・監督賞・主演女優賞を受賞した。
賞を獲ったからどうってことじゃないけど、私は見てよかった。そう思う。

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