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「青嵐」とは、どんな「風」

【スキ御礼】「歳時記を旅する14〔青嵐〕後*ゆつたりと向き変ふ船や青嵐


「青嵐」とは、どのような風をいうのか。漢和辞典では、

【青嵐】夏の風。靑葉を吹く風。又、靑々とした山の氣。

諸橋轍次『大漢和辞典』大修館書店 1959年

とある。中唐の詩人白居易(772~846)の詩一部が例に挙げられている。

未夜青嵐入、先秋白露團

(通釈)
まだ夜にならないのに青葉を吹く夏風が入り、秋にならないのに、もう白露が丸く結んでおり、

「題盧秘書夏日新栽竹」『新釈漢文大系99 白氏文集 三』明治書院1989年


一方、日本の歳時記では、「青嵐」とは、

【青嵐】青葉のころにふきわたる清爽な、やや強い風である。

山本健吉『基本季語500選』講談社学術文庫 1989年

と、されている。
漢和辞典と歳時記を比べると、歳時記には「青々とした山の氣」の意味がなくなっていることに気付く。

「嵐」という字は、「中国では、山にたちこめるもや、または山のけはいの意」(『広辞苑』第7版 2018年)という。

一方、日本で「嵐」という字の意味は、「荒く激しく吹く風。もとは山間に吹く風をいうことが多く、のち一般に、暴風・烈風をいう。」(同)とある。

日本では万葉集の時代には、「あらし」という言葉があった。
万葉集では、「山間に吹く風」という意味で用いられている歌が四首ほど見つけられる。

0074: み吉野の山の下風あらしの寒けくにはたや今夜こよひも我が独り宿

1437: かすみ立つ春日かすがの里の梅の花山の下風あらしに散りこすなゆめ

2350: あしひきの山のあらしは吹かねども君なきよひはかねて寒しも

2679: 窓越しに月おし照りてあしひきのあらし吹く夜は君をしぞ思ふ

佐佐木信綱編『新訓万葉集』岩波文庫 1927年

 俳諧で、「青々とした山の氣」という意味が抜け落ちてしまったのは、「嵐」という漢字を訓読みするときに、「山間に吹く風、暴風」と言う意味の「あらし」という言葉をあててしまったのが原因なのではないか。

「嵐」という字を中国と日本とで別々に使っている分には問題はなかったが、「青嵐」という漢語を日本の詩歌で用いるとなると困ったことになった。
「あらし=暴風」という意味でとらえると、夏の暴風ということになり、本来の意味と異なってしまう。
 「嵐」という字に「あらし」という訓をあててしまったので、今さら「青々とした山の氣」という意味を持たせることもできない。
また、すでに日本語に定着した「暴風」という意味も無視するわけにもいかない。
 そこで俳諧では、両方の意味を汲みとって、「やや強い風」とあえて風の強さまで定義することになったのではないかと推察する。

書家・彩雪SAISETSU さんが「青嵐(せいらん)」を清々しい写真と共に書に表現されています。ご紹介します。

(岡田 耕)

ありがとうございました。


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