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歳時記を旅する14〔青嵐〕後*ゆつたりと向き変ふ船や青嵐

磯村 光生

(平成七年作、『花扇』)

水上に出れば、揺らぐ青葉と渡る風を感じやすくなる。

物理学者で随筆家、俳人の寺田寅彦は、昭和十年、隅田川の一銭蒸機で清澄橋から吾妻橋を経て地下鉄で銀座に向かう。
その旅行の中で、生前に母が、谷中にある亡き姉の墓が遠くて一日がかりで墓参りしたことを母から聞かされたことを思い出し「なつかしや未生以前の青嵐」と詠んだ。(『柿の種』岩波文庫)

句は、船着き場を離れた船が、川や湖の中ほどに進み目的地に舳先を向けようとしているところ。
着岸しているときには気付かなかったが、水辺に迫っていた青葉が揺れている。
心持のよい風が船を迎えてくれている。

(岡田 耕)

(俳句雑誌『風友』令和三年五月号)

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