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選評*晩夏光叩いて零す靴の砂


 晩夏光叩いて零す靴の砂  岡田 耕
  
岡田句。あひる句会に出された掲句を、子供達と海水浴に行った時の景として鑑賞した人がいた。
 そうかも知れない。が、私は何となく夏の終りの海辺を散歩でもしている景が思い浮かぶ。波が高くなって賑やかだった海水浴客も減った頃の夕べ、打ち寄せる波音を聞きながら物思いにふけり、あるいはもっと若かった頃、この砂浜や海で遊んだ時の事や、身も心も弾けるような青春時代のあれこれを思い出しながら歩いていて、いつとはなしに靴に入ってしまった砂を落している姿を。
 そんなことを思わせるのは、自身の去り行く若さを連想させる去り行く夏、「晩夏」の季語故。
 そして「叩いて零す」に、もの思いを、過ぎ去ろうとする若さを懐かしんだり惜しむ気持を振り払う思いをも。
 前句共々晩夏の本意を蔵して印象深い。

俳句雑誌『風友』令和五年十一月号「-風紋集・緑風集選評ー風の宿」磯村光生

(岡田 耕)

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