歳時記を旅する13〔桜〕後 *上千本中の千本花の雨
磯村 光生
(平成三十年、『花』)
吉野の桜は本来のヤマザクラである。吉野の桜を愛した西行だが、桜を詠んだ一四〇以上の歌のうち、吉野山の雨を詠んだ歌は見当たらない。
「ながめつるあしたの雨の庭の面に花の雪しく春の夕暮」など近景の歌に雨が現れる。(『山家集』岩波文庫)
ヤマザクラは、「千本」と形容される梢の花が林立した遠景が評価されたからだろうか。
それでも、雨に烟って桜が見え隠れする吉野山の趣もなかなかのもの。
西行が住んだ庵は、さらに南の標高の高い「奥千本」の山の中にある。
(岡田 耕)
(俳句雑誌『風友』令和三年四月号 「風の軌跡―重次俳句の系譜―」)
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