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歳時記を旅する35〔猫の恋〕後*恋猫の両耳冷えて戻りけり

磯村 光生
(平成七年作、『花扇』)

 発情したオス猫はメスを求めて、人間の赤ちゃんの泣くような甲高い鳴き声を発する。
萩原朔太郎の詩「猫」は、発情声とは限らないが、薄気味悪く鳴き合っている。

「まっくろけの猫が二疋/なやましいよるの家根のうへで、/ぴんとたてた尻尾のさきから、/糸のやうなみかづきがかすんでゐる。/『おわあ、こんばんは』/『おわあ、こんばんは』/『おぎやあ、おぎやあ、おぎやあ』/『おわああ、ここの家の主人は病気です』」(萩原朔太郎『月に吠える』一九一七年)
 
 句はメスをめぐる闘争から帰ってきたオスを思う。恋が成就したのか敗れたか、主人には決して教えてくれない。

(岡田 耕)

(俳句雑誌『風友』令和五年一月号「風の軌跡ー重次俳句の系譜ー」)

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